高橋 史朗

髙橋史朗130 – 「日本精神」を取り戻し、幸福度を低める「依存脳」を克服しよう

髙橋史朗

モラロジー道徳教育財団道徳科学研究所 教授

麗澤大学 特別教授

 

 

●幸福度が高い人の共通点――脳から見た日本精神

 牧師でありミュージシャンのMarréとR&Bシンガーの妻Kumikoを中心に結成され、洋楽器と和楽器演奏者10数名で構成される音楽集団「HEAVENESE(ヘヴニーズ)」の関係者である髙橋史朗塾1期生から篠浦伸禎著『依存脳――依存症克服のための脳的アプローチ』(かざひの文庫)を贈呈され熟読した。

 篠浦氏は東大医学部付属病院、国立国際医療センター勤務を経て、都立駒込病院神経外科部長を務め、『脳から見た日本精神』『論語脳と算盤脳』などの著書もある。本稿では、前述した『依存脳』の第3章・4章の内容を中心に紹介したい。

 篠浦氏によれば、ストレス度が低く幸福度が高い人とストレス度が高く幸福度が低い人の脳テストによる比較により、脳の使い方によって幸福度が高くなることが統計学的に証明され、以下の脳の使い方によって幸福度が上がることにつながるという。

⑴ 志や目標を強く持つ
⑵ 困った時に助けてくれる親友を持つ
⑶ 仕事は社会をよくするためにやる
⑷ 次の世代につながる魂の入った仕事をすることを目指す
⑸ 自分が生まれてきた役割は何であるかを知る
⑹ 仕事を離れてもお互い刺激し向上し合う仲間を持つ

 上記をまとめると、脳テストを統計学的に解析した結果、日本精神(次の世代が栄え、社会をよくする志を持ち、自分の役割を知る)をもった家族的なコミュニティに属して、(お互い刺激し向上し合う)仲間と共に活動することが、幸福度を高めることにつながることが証明されたことを意味している。なぜなら、そのように活動すれば、上記の幸福度を上げるすべての項目が改善する可能性が高まるからである。

 

 

●志・目標を持つことが幸せにつながる

 著者は女性や禅宗の高僧の脳の使い方と幸福度の関係についても興味深い考察を行っているが、「幸福度が上がる脳の使い方の根底にあるのが、日本精神」であるという。『脳から見た日本精神――ボケない脳をつくるためにできること』(同文庫)において、篠浦氏は医者の立場から日本精神が脳をよりよく使うのに重要だと述べ、脳テストを解析することで、日本精神を持っていることが幸福につながることを統計学的に立証した。

 『論語』の一節に、「志士仁人は生を求めて以って仁を害することなし。身を殺して以って仁を成すこと有り」(志士、仁人は、生を求めて人道に反するようなことはしない。時には命を投げ出してでも人としての道を貫き通す)とある。

 吉田松陰は松下村塾の塾生に「自分独自の志をもて」と教育したが、人間学の中核である「志を立て」目標を持つことが幸せにつながり、ストレス度が下がることを篠浦氏は脳科学的に証明した。

 ストレスを乗り越え、幸せになる鍵が日本精神であることは前述したヘヴニーズのバンドマスターである石井希尚さんも指摘している。うつ病などの精神疾患を持つ人のカウンセリングも行っている石井氏も病気が改善するのに一番効果があるのが、日本精神を取り戻すことであるという。

 このように日本精神と幸福になることは切っても切り離せない関係にあることが、歴史的にも証明されていることを篠浦氏は多くの証言を引用しながら説明している。次に、その証言内容についての紹介に移ろう。

 

 

●外国人が見た「世界一幸せな子供の天国」日本
 ――渡辺京二『逝きし世の面影』

 『依存脳』第3章「依存症と日本精神について」において、篠浦氏は「外国人は日本人をどうみていたのか」について詳述している。以下、その要点を紹介しよう。

⑴ 英国人ディクソン工部大学校教授「西洋の都会の群衆によく見かける心労にひしがれた顔つきなど全く見られない」(91頁)
⑵ スイスの遣日使節団長アンベール「日本の下層階級の特徴は親切と真心」「江戸庶民の特徴は、上機嫌な素質、当意即妙の才、…天真爛漫」(92頁)
⑶ 英国人イザベラ・バード「民衆の無償の親切に出会って感動」「赤ん坊が泣くのを聞いたことがなく、子供が厄介をかけたり、いうことを聞かなかったりするのを見たことがない」(96頁)
⑷ ハリス「彼らはみな幸福そうである。…日本を開国して外国の影響を受けさせることが、果たしてこの人々の普遍的な幸福を増進する所以であるかどうか、疑わしくなる。私は質素と正直の黄金時代を、いずれの国におけるよりも多く日本において見出す」(94-95頁)
⑸ チェンバレン「金持ちは高ぶらず、貧乏人は卑下しない、本物の平等精神、われわれはみな同じ人間だと心底から信じる心が、社会の隅々まで浸透している…市民社会であったその当時のイギリスより、根底においては日本のほうが民主的である」(94頁)
⑹ 英国人エドウィン・アーノルド「日本ほどやすらぎに満ち、命を蘇らせてくれ、古風な優雅があふれ、和やかで美しい礼儀が守られている国は、世界中どこにもない」(95頁)
⑺ パーシヴァル・ローエル「明治10年代の東京の夜店は買い物客の楽園」(96-97頁)
⑻ エドワード・シルベスタ・モース「日本は子供の天国である。世界中で日本ほど子供が親切に取り扱われ、子供のために注意が払われる国はなく、ニコニコしているところか判断すると、子供たちは朝から晩まで幸福であるらしい」「母親が赤ん坊に対して癇癪を起しているのを見たことがない」(105頁)
⑼ フレイザー婦人「日本の子供は怒鳴られたり、罰を受けたり、くどくどと小言を聞かされたりせずとも、好ましい態度を身につけてゆくと感じました。子供たちに注がれる愛情は、ただただ温かさと平和で彼らを包み込み、その性格の悪いところを抑え、あらゆる良いところを伸ばすように思われたのでした。日本の子供は決しておびえから嘘を言ったり、過ちを隠したりはせず、青天白日のごとく、嬉しいことも悲しいことも隠さず父や母に話し、一緒に喜んだり癒してもらったりする、幸せに満ちた一体感がありました」(106頁)

 

 

●WGIPの理論的基盤となったトンデモ説

 WGIP(ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム)の陣頭指揮を執ったブラッドフォード・スミスが1942年にコミンテルンの外郭団体「アメリカのシナ人民友の会」の機関誌『アメラジア(Amerasia)』に発表した「日本精神」によれば、日本精神の3本柱は、神道・皇道・武士道であった。

 また、ルースベネディクトが引用したジェフリー・ゴーラーの幼少期の「トイレット・トレーニング」が日本人の国民性の性格構造を決定づけ、「集団的神経症」の原因になったというトンデモ説、わが子の首を切り落とす国生み神話の残虐性が「南京虐殺」の原点などという珍説がWGIPの理論的基盤となった事実(拙著『WGIPと「歴史戦」』モラロジー研究所、参照)がいかに的外れであったかをこれらの証言は雄弁に物語っている。

 篠原氏はWGIPにも言及し、ケント・ギルバート『まだGHQの洗脳に縛られている日本人』(PHP研究所)の以下の文章を引用している。

 「戦後占領期にGHQは、検閲等を通じて日本人に施したWGIPというマインド・コントロールによって、日本人を徹底的に洗脳し、武士道や滅私奉公の精神、皇室への誇り、そして、それらに支えられた道徳心を徹底的に破壊することで、日本人の『精神の奴隷化』を図ろうと試みたのです…戦後70年になる現在も、日本人のマインド・コントロールはまだほとんど解けておらず、それらが様々な分野に悪影響を与えています。」(162頁)

 篠原氏によれば、WGIPによって見事に「日本精神」を喪失した日本人は、ストレスに弱くなり、ゲームやアルコール・薬物などの「依存症」が広がり、精神疾患を含めた多くのストレスを契機にした病気が急増したのだという。

 

 

●依存症の脳から見たメカニズム

 脳科学的には、依存症の発症は、扁桃体の活性化(不安や怒りに結びつく)が引き金となり、そのストレスを忘れるような快感を得るために、酒やゲームなどによって報酬系を活性化し、ストレスから逃避しようという動きが脳の中で起こり、保身のために不可欠な扁桃体・報酬系が、依存症になると身を亡ぼす方向に向かうという。

 篠浦氏によれば、弱肉強食の論理は、その動物が強い場合は弱い動物を思い通りに動かせるが、自分が弱くなると弱肉強食の論理に従い、生殺与奪の権を強い動物に握られているという状態になる。そのため、ストレスが続き自分がどうしようもない弱者であると扁桃体・報酬系が感じると、弱肉強食の論理が働き、強い敵であると自分が思っているストレスに屈して、弱者らしく自分を消す方向にスイッチを入れるという。これが依存症の脳から見たメカニズムである。

 また、日本人はヒューマニズム(人間中心主義)が欠落しているという批判に対して、渡辺京二氏は次のように反論している。

 「不運や不幸は生きることのつきものとして甘受されたのだ。近代ヒューマニズムからすれば決して承認できないことだが、不幸は自他ともに甘受するしかない運命だったのである。彼らはいつでも死ぬ用意があった。侍の話ではない。普通の庶民がそうだったのである」「近代ヒューマニズムは左脳の発想なので、生と死、幸せと不幸を二元論で区別し、生と幸せが絶対的な善としていますが、江戸期の日本人は右脳の発想なので、生と死、幸せと不幸を二つに分けない一元論であり、生と死や幸せと不幸せは同じものの裏表であり、死や不幸を当然起こることとして受け入れる潔さがありました。病気になるのは確かに不幸ですが、それをきっかけに自分の足りないところに気づく絶好の機会でもあるわけであり、実はそれが本当の幸せに至る道にもつながるわけです」(119-121頁)

 

 

●台湾人が見た「日本精神」

 明星大学の髙橋ゼミで講演していただいた蔡焜燦さいこんさん氏の著書『台湾人と日本精神』(小学館文庫)によれば、日本精神は「利他の精神」であり、①自分よりまず人のことを思いやる心、②自分だけのための人生を過ごすのではなく、「人・家族・地域・公・国・世界」のために人生を全うするという心、➂「求めあうより与え合う」という生き方、④「誰かの光・希望となる存在」になるための生き方であるという。

 東日本大震災への義援金(約29億円)は台湾が世界で二番目であったが、江戸中期から続いた日本精神は今の台湾人にも残っており、震災時に台湾の大学生から寄せられた多くの和歌がそのことを証明している。

 蔡氏は次のように述べている。

 「社員を自分の子供のようにかわいがり、育ててやろうという愛情こそが大切なのだと私は信じてやまない。経営者がそのように心がけることによって、社員はモチベーションを高め、会社という小さな『公』に尽くしてくれるのである。その結果、生まれるのが利益なのだ。また、こうしたことが優秀な人材を育成することになる。

 後藤新平の『金を残す人生は下、事業を残す人生は中、人を残す人生こそが上なり』という座右の銘こそ私の経営理念なのである。

 日本統治時代、日本人教師たちは、我々台湾人に『愛』をもって接してくれた。そして『公』という観念を教えてくれたのだった。愛された我々は、日本国家という『公』を愛し、隣人を愛したのである。

 私の経営理念には、日本統治時代の教育精神がその根底にある。そして会社経営に当たっては、『日本精神』をもって万事に臨み、『大和魂』で艱難辛苦を乗り越えてきた」(136-137頁)

 「かつての日本人は立派だった。…どうぞ心に留めていただきたい。『日本』は、あなた方現代の日本人だけのものではない。我々『元日本兵』のものでもあることを(148―149頁)。

 ゼミの台湾研修旅行で講演をしていただいた蔡氏は手渡した講演料を受け取らなかったばかりか、20数名のゼミ生に豪華な台湾料理を御馳走していただき、熱く日本精神を語られる姿に一同感激した。

 

 

●日本はなぜアジアの国々から愛されるのか――パラオとイラク

 さらに、一般社団法人アジア支援機構代表理事などの要職を務め、学校や橋をつくることでアジアの人達を助けている池間哲郎氏は、多くのアジアの国の人々と接触して、彼らが日本に対してどのように感じているかを発信し続け、著書『日本はなぜアジアの国々から愛されるのか』(扶桑社)において、パラオのトミーレメンゲサワ大統領の言葉を次のように紹介している。

 「日本の皆さまのバイタリティーが、実は私達の国パラオをつくったという事実を御存知でしょうか。終戦までの日本は、数万人に及ぶ日本人入植者を送り込み、パラオ人のために様々な教育や産業を伝えました。それは後に、パラオ独立のための貴重な原動力となりました。そして現在でもパラオの長老たちは、日本のことを『内地』と呼び、世界で最も親日感情が高い国といっても過言ではないのです」(140-141頁)

 さらに、次のようなエピソードを紹介している。

 「2004年 、当時イラク大統領であったヤワール氏はシーアイランドサミットにおいて、『イラク国民が最も歓迎しているのは日本の自衛隊だ』と絶賛した。番匠郡長率いる第1次イラク復興支援部隊が引き揚げる時イラクの人々は泣きながら別れを惜しんだという。…前代未聞の不思議なデモが発生。イラク人たちは拳を振り上げ叫ぶ。『自衛隊よ帰らないでくれ。もっとイラクにいてくれ』『自衛隊、ありがとう』とプラカードには書かれていた。

 アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリアなどの軍隊は、このデモに驚いた。常に占領軍としてイラク国民から憎しみの対象でしかなかった異国の軍隊は、『なぜ自衛隊はこれほど愛されるのか』と驚愕した」(141-142頁)

 最後に、同書は「まとめ」として次のように指摘している。

 「日本精神を失った日本人はストレスに弱くなり、ストレスにより不安感に脳が支配されていることが依存症に陥る脳から見た根本原理…日本では、あらゆる領域で依存症が蔓延している。それを改善するには日本精神を取り戻すしかありません(200頁)

 本連載で詳述した「他国から侵略されても戦わない」大学生が7割を超えるというアンケート結果が、「日本精神」の解体を目論んだWGIPの影響が今日にも及んでいることを如実に示している。

 子供・親・教師を巻き込んだ今日の教育界に蔓延している不安感とストレスの根底にある依存症から脱却し、「志を立て」「道を求め」「和を成して」「幸せを感じる」“志道和幸”の「日本精神」をいかに取り戻すかが私たち一人ひとりの課題として鋭く問われていることを忘れてはいけない。

 

(令和5年3月27日)

 

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