髙橋史朗79 – SDGsを自分事として捉える「常若」と伊勢神宮の式年遷宮
髙橋史朗
モラロジー道徳教育財団 道徳科学研究所教授
麗澤大学 客員教授
8月2日、「常若産業甲子園」の仕掛け人である経済産業省中小企業政策国際調査官の岸本吉生氏と面会した。麗澤高校通信課程の校長と麗澤中高SDGs研究会の顧問と髙橋史朗塾の「常若」研究グループのメンバーが同席した。
「常若産業甲子園」は、昨年開催された宗像国際環境会議で川勝平太静岡県知事の提案を契機に始まったもので、同国際会議の「常若産業宣言」(令和2年12月20日)を読んで、自分が将来やりたい仕事について、自分で動画を撮影し編集できることが出場条件になっている。
同宣言には、「日本のものづくりの心と技は、常若から始まっている。宮大工の原点はいい刃物を持つこと。いい刃物と向き合い刃物の心を体得すれば刃物がいい仕事をする。身体感覚を磨き上げることが技を成す。木と向き合い木の本質を掴み取ることが寸法も設計図もない中で、寸分違わぬ五重塔を立てる土台となる。……」などと書かれている。
●坂村真民の詩
第1回常若産業甲子園プロジェクトには7県の高校生、小学生が参加し、全編40分の動画が公開されている。第2回常若産業甲子園プロジェクトには、麗澤中高の有志と髙橋塾の塾生の関係者も参加する予定である。参加者には坂村真民の次の詩が共有されている。
闇と光
苦があるから楽がある
闇を活かせ
苦を活かせ
あとからくる者のために
田畑を耕し
種を用意しておくのだ
山を川を海を
きれいにしておくのだ
ああ
あとからくる者のために
苦労をし我慢をし
みなそれぞれの力を傾けるのだ
あとからあとから続いて
あの可愛い者たちのために
みなそれぞれ自分ができる何かをしてゆくのだ
89歳の時の次の詩は胸に迫るものがある。
しっかりしろ しんみん
しっかりしろ しんみん
しっかりしろ しんみん
しっかりしろ しんみん
どこまで書いたら気が済むか
もう夜が明けるぞ
しっかりしろ しんみん
●持続可能な日本を取り戻す
坂村真民は明治42年に熊本で生まれた。大人と子供をどうつなぎ直すかを考えた。母の言葉「念ずれば花開く」が彼を支えた。第1回常若産業甲子園の動画の内容で心に残った点を列挙すると100匹の亀を飼っている小学生の夢、将来同じ目標を持つことで大人と子供の関係が近くなる。
福岡県立水産高校生で漁師になろうと思った理由は、海の環境は人間のせいだ。海を守りたいと思ったため。愛姫県立東雲高校の生徒は、海のゴミを減らしたい。福岡県立新宮高校生は、光害大国日本といわれないようにしたい。城南高校生は、川で遊ぶ子供たち(川ガキ)の減少が問題だという。
熊本県立マリスト学園、福岡高校生徒主体のごみの分別方法に力を入れたい。赤潮になると魚が死に被害環境を保全する意義を見直す必要がある。香垂高校生は海がマイクロプラスチックごみでけがされているのでビーチクリーンに参加し、これからももっとたくさんの人たちを巻き込んでいきたいと抱負を述べた。
鹿児島県立川内商工高校生は、島で暮らしている人のために美容師になりたい。ベッコウトンボが生き続けられるのか心配。豊かな自然を大事にしたい。離島の環境保全のために働きたい。
愛媛大学付属高校生は、人間のサメに対する誤解をなくし、保護することに努力したい。
キャンプのリーダーはおじいちゃんとおばあちゃん。無人島でご飯を炊くことができる。地域と子供の関係が薄くなり、故郷を語れない子供が増えている。
子供たちが大漁旗をつくって漁師は大喜び。笑味の店一伝統の食材を守り、次の世代につなぐ。客層が若者に大きく変わった。
時間のサイクルの中で林業や山を守る人が減ってきた。吉野高校の木の輪プロジェクト、岩手県立遠野高校生は、森林破壊が大きな問題でどうにかしなければならないと考えた。
長崎創成館高校奥田校長、音楽でみんなを元気にしたい。佐賀市立兵庫小学生は亀を飼う、松山市立味生小、鶏と羊を育てる。同じ目標を目指すことで大人と子供の結びつきが強くなる。無人島で活動。故郷のことを知らないまま、故郷を出てしまう子が多い。
●「常若」と伊勢神の式年遷宮との関係
次に、「常若」と伊勢神宮の関係について明らかにしたい。平成11年5月3日にワシントンで開催された「世界の歴史的な都市と宗教的な聖地の建物保存に関する国際シンポジウム」において、所功先生が「日本の聖地、古くて新しい伊勢神宮―20年ごとに継承する“常若”の英知―」と題する基調講演を行った。その要点は次のとおりである。
① 伊勢の神宮創祀は3世紀ころと推定されるが、その社殿の原型は弥生遺跡にみえる高床の穀倉に由来する。
② それが早く5世紀までに神々を祀る社殿として洗練されていたからこそ、6世紀に寺院建築が伝来しても圧倒されなかった。
③ それを20年ごとにすべて造替する式年遷宮の制度は、律令体制の成立した7世紀末の持続女帝朝から確実に励行されてきた。
④ この式年遷宮を繰り返すことにより、20年ごとに建物や神宝・装束などをつくれる優秀な人材と高度な技術が確実に継承されてきた。
⑤ しかも社殿造営に毎回1万本以上も必要な桧材は、3百年以上の美林を持つ木曾山から伐り出されてきたが、現在さらに2百年先に備えて神宮近くの宮域林が育成されている、
⑥ このような大事業を継続できる要因は、太陽神とも皇祖神とも信じられる天照大神のような神々を敬い尊ぶ純朴な信仰が、皇室にも国民の大半にも根強くあるからである。
⑦ これによって伊勢の神宮をはじめ全国の神社では、自然を敬い祖先を尊ぶ祭祀が、常に若々しい“常若”(everlasting youthfulness)の生命を保って現代に続いている。
●20年説の根拠は何か
この基調講演に対して、「造営はなぜ20年ごとなのか。また、なぜすべて造り替えてしまうのか?」「このような式年遷宮を行うことは、日本の一般国民の日常生活と何か関係があるのか?」などの質問があったという(所功『伊勢神宮と日本文化―式年遷宮“常若”の英知―』勉誠出版、平成26年、参照)。
20年の根拠については、大和総研調査本部主席研究員の川口真理子氏によれば、以下のような説があるという。
① 神殿の耐久性と尊厳維持説:神殿に相応しく常にすがすがしく尊厳な姿を保つためには20年が限度と考えられる。
② 技術伝承説:伝統技術を次世代に継承するためには、職人の世代交代も考えると20年というサイクルがふさわしい、
③ 経済波及効果・環境保全効果:20年に一度檜や葺、神宝など膨大な資材への需要を創出することで、山林や田畑の整備や宝飾品や装束などの工芸品の産業を育成することができる。
④ 保存期間説:神税として備蓄された保存期間は20年が限度。
⑤ 古代は20が満数とされていたので、一区切りを20年に定めた。
⑥ 常若説:20年サイクルで壊して新しく造ることは、死と再生という生命の循環を示している。また、常に再生されるので、永遠の若々しさを保つことができる。
この中で最も説得力があるのが「常若」説であり、これは伊勢神宮のウェブサイト上でも式年遷宮のコンセプトとして紹介されている。ギリシャ神殿のように堅牢な石造りの建築物ではなく、20年毎に造り変えることで永遠の若さ(常若)を保ち、「壊れないもの」ではなく「壊れやすいものを壊して再生して」永遠を目指すのである。
神宮司庁文化部長の矢野憲一氏は、「式年遷宮のシステムは、生物が親から子へと生まれ変わることにより、個体の永遠の生命を引き継ぐ発想を取り入れたのだと思うこれは当然のように見えるが、世界のどこにもない文化の伝承方法である。きっと稲作の思想から来たのであろう」と指摘している。
(令和4年8月4日)
※髙橋史朗教授の書籍
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