西岡 力 – 道徳と研究28 日韓友好は真実の上に成り立つ
西岡力
モラロジー道徳教育財団教授
麗澤大学客員教授
●流布された偽りの学説
私たちは6年前に、慰安婦問題や戦時労働問題などで歴史的事実に反する誹謗中傷が国際社会に拡散し、我が国の先人らの名誉を著しく傷つけている状況を憂慮して、歴史認識問題研究会を結成し、1次史料にもとづく研究を深め、その成果を発信してきた。
その中で、韓国でも「慰安婦は性奴隷ではない」「朝鮮人戦時労働は強制連行ではない」という研究を行い、それを発信している尊敬すべき学者、ジャーナリストたちと出会った。
3月には東京で「佐渡金山における朝鮮人戦時労働の実態」日韓学術セミナーをリモートで開催し、私を含む日本人学者・活動家4人と韓国の気鋭の学者李宇衍博士と勇気あるジャーナリスト黃意元氏が報告した。
まず、歴史認識問題研究会会長の私が総論として「朝鮮人戦時労働と佐渡金山」と題して報告した。そこでは、朝鮮人戦時労働の全体像と佐渡における実態を次のように概観した。
内務省の公式統計によると、1939年から1945年の間に、朝鮮から内地に約240万人の朝鮮人が渡航しました。そのうちの25%、約60万人が国家総動員法に基づく戦時労働動員で、残りの75%、約180万人が出稼ぎを目的にした自発的個別渡航だった。
個別渡航も朝鮮での居住地の警察の渡航証明書が必要でした。それを持たずに密航などで不法渡航する者も多く、当時の当局は内地で約2万人の不法渡航朝鮮人を捕まえて朝鮮に送り返していた。
朝鮮人を暴力的に連行し奴隷労働をさせていたという「強制連行」説は日本の朝鮮統治が終わって20年が過ぎた1960年代半ばに、日韓国交正常化に反対する運動の中で、北朝鮮を支持する在日朝鮮人学者らが唱えた偽り学説である。それがまず日本で広がり、韓国にも伝わっていった。
佐渡金山における朝鮮人戦時労働もこのような大枠の中で行われた合法的なもので、けっして強制連行、奴隷労働などではない。待遇も内地人労働者と同じだった。さまざま1次史料がそれを証明している。
●真実の前に堂々とあれ
次に歴史認識問題研究会の勝岡寛次事務局長が「戦後日本における朝鮮人戦時労働研究史」という報告で、朝鮮人強制連行という歴史的事実に反するプロパガンダが1960年代に日本で生まれ、それが韓国に広がっていた様子を研究史の観点で整理した。
3番目に、国連などで精力的に歴史認識問題の広報活動を展開してきたNGOなでしこアクションの山本優美子代表の「ILO条約の解釈について 戦時労働は強制労働条約違反なのか?」は、ILO(国際労働機関) の条約勧告適用専門家委員会年次報告でこの問題がどのように扱われてきたのかについて緻密な調査を行った。同報告は条約上の拘束力をもたない専門家の見解に過ぎないが、そこで「朝鮮人戦時労働は国際労働機関(ILO)の強制労働条約違反」という記述が、日韓の反日勢力の働きかけで入ってしまった経緯を分析し、我が国政府に政府見解に基づく反論をILO の条約勧告適用専門家委員会に行うように求めている。
4番目の歴史認識問題研究会の長谷亮介研究員による「佐渡金山の朝鮮人労働の実態」は現地調査を踏まえ具体的な資料に基づいて強制連行・強制労働論に反論を加えている。
5番目の韓国学界におけるこの問題の第一人者である李宇衍博士の「1940~5年 佐渡鉱山朝鮮人の移住、動員、勤労環境、及び日常生活 ―『強制連行』・『強制動員』論批判 ―」は3月23日の発表に大幅に加筆したものだ。この問題に関する学術研究の頂点に立つ内容だ。韓国の学者が史料に基づき強制連行・強制動員論を完膚なきまでに論破している。今後の国際広報において重要な役割を果たす報告だ。
最後の韓国のネットメデイアであるメディアウォッチの黄意元代表の「韓国内における日本佐渡金山世界遺産登録反対運動の実態」は韓国のこの問題を巡る状況を分かりやすく整理している。
そこで黃意元氏はこう語った。
「日本は自らの真実の前で、まず堂々とあらねばならない。真実は一旦横に置き、無難が何よりという真実ではなく友好を最善に据える日本の韓国に対する態度は、韓国と日本、両国の望ましい未来のために絶対に望ましくないことを認識しなければならない。(略)
韓国の虚偽勢力は、既に日本側の歴史戦宣戦布告を受け入れた。今こそ韓国と日本の真実勢力が更に断固たる立地を固め、その攻撃に対抗する時である」
日韓間の歴史認識をめぐる争いは、オールジャパン対オールコリアの民族的対立ではない。黃氏が語ったように、日本と韓国の中の虚偽勢力に対して日本と韓国の真実勢力が戦っているのだ。
私たちはその報告内容を冊子にして出版すると共に、歴史認識問題研究会のサイトで全文公開している。
私は日韓の友好は真実の上に成り立つと確信している。
私たちは来る7月に李宇衍博士を日本に招いて、日韓学術講演会を開催する。7月9日(土)と7月10日(日)に東京と新潟で「佐渡金山と朝鮮人戦時労働者」をテーマに李宇衍氏と西岡が講演する(詳細は こちら をご覧ください)。
ぜひ、多くの方たちが講演会に参加して、日本と韓国の真の友好は真実の上に成り立つということを知って欲しい。
●「嘘の慰安婦像」の撤去へ
李宇衍氏は日本に来る前、6月24日から7月1日までドイツを訪問する。彼は学者であるだけではなく嘘と戦う運動家の側面も持っていて、2019年12月から毎週水曜日、ソウルの日本大使館前で、慰安婦像撤去を求めるデモを行い続けており、ドイツのベルリンに新たに慰安婦像が建ってしまったことを知って、嘘を世界に広めてはならないと、韓国人の仲間らとドイツ訪問を計画したのだ。
李宇衍博士からなぜ、ドイツに行くのかについて書かれた手記が送られてきた。最後にそれを拙訳で紹介しよう。
嘘の慰安婦像設置、韓国人が先頭に立って止めます。
反日銅像の真相究明のための共同対策委員会 李宇衍
6月25~7月1日、私たちはドイツへ行きます。
ドイツのベルリン市ミッテ区は、ユニオン公園に設置されている慰安婦像(いわゆる「平和の少女像」)の未来を今年9月28日までに決めなければなりません。 原則通りなら設置することもできなかったはずですし、今からでも撤去しなければなりませんが、像を設置した「コリアン協議会」と彼らを支援するドイツ市民団体は永久存続のために総力を傾けており、ミッテ区議会にも彼らを支持する区議員が多いそうです。 この像がどうなるか今のところ分からないのが実情です。
この慰安婦像を見たベルリン市民の多くは、日本軍が20万人の朝鮮人「少女」を強制連行して性奴隷にしたと誤解しています。 私たちは朝鮮人慰安婦とは「25才前後の数千人の女性が業者と契約を結び軍人に性サービスを提供した性労働者」だったという事実をドイツ人に知らせるつもりです。 この像を作った「作家」は13歳の自分の娘をモデルにしたといいます。 慰安婦の年齢を半分にしたのです。 慰安像は「平和の少女像」ではなく「嘘の慰安婦像」と呼ぶべきです。 歴史を歪曲する像はベルリンに立っていてはならず、撤去すべきだと主張するつもりです。
アメリカの例からも分かるように、慰安婦像は設置しやすいのですが、撤去させるのはとても難しいです。 もう一つ立てるのも難しくないし、その数を増やすのははるかに簡単です。ミッテ区の慰安婦像を放置すれば、嘘の慰安婦像はドイツ各地、ヨーロッパ全域に広がっていきます。 今止めなければなりません。
ベルリンで私たちは毎日「嘘の慰安婦像」の前で撤去要求デモを行います。 また、外信記者会見、コリア協議会との懇談会、在ドイツ韓人会との懇談会を計画しており、ミッテ区長と区議会議員との面談も推進しています。
今回の私「反日銅像の真相究明のための共同対策委員会」共同代表李宇衍のドイツ行きには、「オンマ部隊」の朱玉順代表、「慰安婦法廃止国民行動」の金柄憲所長らが同行します。
私は2020年10月、コリア協議会と挺対協=正義記憶連帯がこの慰安婦像を設置したその日、ドイツに行って抗議して設置中止を主張しようとしましたが、当時は新型コロナウイルス感染症により外交官以外はドイツに入国できず、あきらめるしかありませんでした。 今は入国できるようになったので、嘘の慰安婦像の運命がもうすぐ決まる状況になったドイツに行きます。
皆様のご関心とご支援をお願いいたします。
歴史認識問題研究会では李宇衍氏らのドイツでの活動のための募金を行っている。関心ある方は歴史認識問題研究会サイトをご覧になって欲しい。
なお、朝鮮人戦時労働の実態についてより深く知りたい方は次の文献を参考にして欲しい。
西岡力編『朝鮮人戦時労働の実態』一般財団法人産業遺産国民会議
西岡力『でっちあげの徴用工問題』草思社
李栄薫編『反日種族主義』文藝春秋
李栄薫編『反日種族主義との闘争』文藝春秋
(令和4年6月23日)
※西岡 力 教授の著書
『わが体験的コリア論 ―― 覚悟と家族愛がウソを暴く』
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