言論人コーナー

NOノー MORE  モア WARウォー――もう 戦争を 繰り返すな!

多田舜保

麗澤大学名誉教授

 

 

1.はじめに

 昨年(令和3年)、3月25日の当サロンにおいて、ライナス・ポーリング博士の道徳性について紹介させていただきました(こちら)。その中で、ポ―リング博士と廣池千九郎博士の共通点をいくつか挙げ、その一つに世界平和への希求を挙げています。

 最近、ロシア軍によるウクライナへの侵攻が世界を揺るがす大きな出来事になっています。

 ライナス・ポーリング博士について、長年、調査研究し、また、長年、廣池千九郎博士が創設されたモラロジ―団体の一員である私として、現代の世界情勢において、両博士がどのように対処なさるのであろうかを考え、理解するために、著書や資料をもう一度読み調べてみました。廣池博士に関することがらについては、読者の皆様は、よくご存知のことが多いかと思われますので簡潔に取り上げ、ポーリング博士については、やや詳しく説明させていただきます。

 

 

2. ポーリング博士、廣池千九郎博士の平和への考え方と対処法

 Linusライナス Paulingポーリング博士[1901~1994 アメリカ](以下、ポーリングと略記)は、前回も触れましたが、ノーベル賞を単独で2度(化学賞、平和賞)受賞した唯一の学者です。

 平和賞は1962年、核兵器に対する反対運動に対して与えられました。当時、米ソが核実験をエスカレートしていることを危惧して反対運動を起こし、多くの講演やデモに参加したり、ケネディ大統領(当時)に書簡を送ったりしました。これらにより、1963年8月、米ソの部分的核実験禁止条約が調印、実現しました。

 前回、紹介させていただきましたように、ポーリングからサイン入りで頂戴した著書『NO MORE WAR ! 』(1958年初刊、1983年25周年刊 304ぺ―ジ)をもう一度、読んでみました。内容は、当時の世界各国の核兵器等の保持状況や最近の新兵器等について解説し、このような状況下で戦争が起これば、多数の人々が悲惨な被害を蒙るから、今後、決して戦争を起こしてはいけないというものです。ポ―リングは親日家で、9度も来日していて、そのうち広島に2回、長崎に1回訪れて講演等を行っています。他6回は、化学関係の学会のために参加していました。

 

ポーリング博士の著書と直筆サイン

 

 廣池千九郎博士(以下、千九郎と略記)の平和に関する考えや実行を知るために、『道徳科学の論文』『伝記 廣池千九郎』『資料が語る 廣池千九郎先生の歩み』の中で、戦争、平和に関する箇所等をもう一度読んでみました。

『伝記……』では、468~474ページに千九郎の平和論について、677~691ページに平和への願いについて説明されています。また、『……歩み』では、414~450ページに千九郎の世界平和への提言について説明されています。ここでは、それらの中にあるいくつかの主なことがらを紹介させていただきます。

 それらの根幹には、モラロジーは世界平和を建設する平和の専門学であるという考えから、平和実現のための具体的な行動は、モラロジーの普及による政治、経済、教育の改革にあるということです。さらに注目すべきは、「平和世界の建設法として、平和の目的を達成するには平和の手段を用う」とあることです。平和への提言を行うために、元首相の若槻礼次郎氏や斎藤実氏等に面談したり、書簡を送ったりもしておられました。また、モラロジー道徳教育財団内にある貴賓館で、将来、世界の指導者を招いて世界平和会議を開く構想も述べておられ、当時の指導者の名前も挙げておられました。現代なら、例えば、アメリカのバイデン大統領、ロシアのプーチン大統領、中国の習近平国家主席、インドのモデイ首相、北朝鮮の金正恩総書記、そして日本の岸田首相等が集まり、平和について話し合いを行うというようなもので、これらの指導者にモラロジーの精神を理解してもらえればと思います。

 加えて、「軍備も平和を保障するものであり、殺人の利器ではない」と説明されています。いくつかの国では、明らかに過剰と思われる軍事費を使って軍備を進めているように見受けられます。これらの国が軍事費の一部分のいくらかを、人々の生活のために使ったならば、どれだけ多くの人々が助かり、幸せになれるのかとも思います。

 千九郎は、人類全体の視点から、国と国との争い、諸問題は、絶対に武力を使わず、必ず外交によって解決するようにすべきであると説いておられます。

 

 

 昭和48年(1973年)、防衛庁(当時、2007年より防衛省)主催による論文の公募があり、テ―マは「我が国の平和と安全を維持するために、あなたはどう考えますか」というもので、私も約10枚の原稿を応募したことがあります。

 私見の主旨は、「一般社会には、泥棒や強盗のような凶悪な人もいることから、自分自身で身を守るとともに、共に守り、犯人を捕まえるため、装備した警察が必要となる。世界の中にも、侵略、殺人を犯す凶悪な国もあるから、それらから守るために、自衛隊が必要であり、軍事費用もある程度必要である。日本の自衛隊は災害時の救援における貢献も著しい。自衛隊を今後、色々な面でさらに充実してほしい」という内容でした。この際、世界各国の軍備の詳細も調べてみました。国連についても触れましたが、今回の戦争の状況を見ると、はなはだ不十分で、国連の大改革が早急に必要かと思います。凶悪な国に対しては、強大な力により、対応できるようにすべきと考えます。

 60年安保闘争のころ、ちょうど私は大学生でした。社会勉強のためにと思い、デモが激しい6月の夕方、一度だけ、短時間、一人で国会周辺に見学に行ってきました。何万、何十万という人々が激しいデモをしていて、凄まじい状況で怖いくらいでした。このときから、首相や政治家に対して、同情、リスペクトするようになりました。大変な役職、お仕事だなと思いました。日米安保により、結果的に日本はこの後の60年余も、戦禍に遭っていません。基地の存在、日米同盟等、色々と難しいことが今後もあるかと思いますが、よく考えて対処すべきと思います。政治についても、常によく考えて対応すべきと思います。

 

 

3.おわりに

 最近、テレビ、新聞等で、今後、戦争、平和について、日本、世界がどう対処すべきか等、色々と論じられていますが、ポーリング、千九郎の対処方針が先ほど挙げた書籍等において、その一部分が具体的に説明されています。これらは、大いに参考すべきと思います。私も、さらに勉強してまいりたいと思います。

 今日の世界情勢について、ポーリングがご存命ならば、何らかの行動をなさるだろうと思いました。3月2日、世界中のノーベル賞受賞学者、約160名が署名して、ロシアのプ―チン政権によるウクライナへの侵攻、残虐さを非難し、直ちに停戦、ロシア軍は撤退するようにとの公開書簡を発表しました。これにはポーリングもすぐ賛同されたと想像します。もしかしたら、もっと強い対応をされたかとも思います。

 千九郎がご存命ならば、平和目的と称して、武力を使い、多数の人々を殺害するようなことには、大反対されるのは間違いありません。後世の私たちも千九郎の思いを心に刻み、平和の実現を希求する道を共に歩んでいきましょう。

 ポーリングと親交のあった者として、モラロジーを学んでいる者として、第二次世界大戦での悲惨さを知る日本人の一人として、はなはだ僭越ですが、ポーリングと千九郎の強い訴えとともに、また、ご賛同くださる読者の皆様とご一緒に、再度、「NO MORE WAR !」と、強く訴えさせていただきます。

 今、行われている戦争は直ちに止めるべきだと思います。

 今後、私たちがモラロジー教育活動に携わる際、偉人であるポーリング、千九郎、両博士が強調しているように、世界中の人々が幸せになるためには科学技術の進歩とともに、“道徳科学”の進歩が重要であることを再認識し、世界の人々の幸せの実現のために邁進していきたいものであります。そして、世界中の人々の道徳心が深まり、戦争のない、真の世界平和が実現することを願っています。

(令和4年4月15日)

 

 

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