生き方・人間関係

大久保俊輝 6 – 有益に使ってもらいたいから

大久保俊輝

モラロジー研究所特任教授

 

 

●「還元していく」という意識

「出来ることをしているだけです」

 校長になってから給与の半分を社会貢献活動に支出している。定年後も収入の半分を還元している。それは、「やると決めれば出来ること」だからである。もちろん、妻の理解は必要であり、合議のもとであるから継続できる。ボーナスのときなどは毎年すべてを還元してきた。それは公言する必要もなく、そう決めているから、しているのである。

 そこで、最近よく使われる「成長と分配」という言葉に、私は高慢な意思があるように思えてならないのである。すなわち、分け与えるという姿勢が気に入らないのである。私は、得たものをわずかながら自分で食し、後は全てを還元するという思考である。それは自然や地球への還元であり感謝である。その意味では成長と分配という中にSDGsを私には感じられないのである。

 それよりも得たものを「還元していく」というフラットな意識が必要なのではないだろうか。地球規模での思考をするとき「分配」よりも「還元」していくという思考を根底に置くべきではないだろうか。政治家なら「分配」かもしれないが、教育者なら「還元」と提言したい。

 

 

●「生き金」にするために

 社会貢献の行為に中に金銭による寄付があるが、その意図を私は次のようにとらえている。すなわち還元する方法として、何処へ、どのように有効に活用してもらえるかがポイントである。

 先日、ある資産家の方から「子ども食堂」に使ってもらいたいと3億円の提案をいただいた。大変ありがたいことではあるが、正直、熟慮している。どのように有益に還元するかは簡単ではないからである。

 その寄付を何処に依頼することが一番良いのか。そうなると信頼できる人や機関や組織に依頼する必要がある。

 よく行政に寄付されるニュースが報じられるが、それも不埒な首長のもとではシャワー室などになりかねない。一つの見分け方は、その組織の職員がどのような意識を持っているか、自然に質素倹約をしているかが判断基準になる。高級車に乗り、ブランドを身に付けるような職員のいるところには寄付をする必要はないのである。身の振る舞いすなわち清潔で質素を判断材料にされるといい。

 また有名な神社仏閣でも、本来の在り様を忘れて表に出る時は質素に装い、裏では贅沢三昧の輩がぞろぞろ銀座で豪遊している醜い姿を私は何度か見かけた。

 このようなことがあるので、「生き金」にするには、何処へ寄付をするかが極めて大切なのである。

 

 

●思い出される姿

 昨年より縁あって当財団に勤務をして、その姿勢が一貫していることに日々驚嘆している。それまでは知らなかったのである。

 当財団は、いただいた寄付を還元することを目的とした財団である。私が校長時代思っていたのは、校長室へ「熱心にユーモラルを届けに来られる方がいるな」程度であったからだ。すなわち認識がなかったのである。あのニューモラルも維持員の方が自ら購入して、学校へお持ちになる歴史が長く継続されていることを知り、その労を惜しまずせっせと校長室へと足を運ばれ、謙虚に、見返りを求めず、にこやかに届けられる姿が昨日のことのように思い出される。

 そこで明言したいのは、当財団の根底に流れる「三方よし」という創始者廣池千九郎先生の思いが脈脈と続いている凄さを感じる日々であること。こうした財団ならばその寄付は間違いなく個人が使うよりも、より有益に! より有効に! 使用していただけるけることは間違いないと私は確信している。

 もっと早く知っていたらと悔やまれる。

(令和3年12月8日)

 

 

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