髙橋史朗 50 – 道徳・家族を破壊する「グローバル性革命」「包括的性教育」
髙橋史朗
モラロジー道徳教育財団道徳科学研究所教授
麗澤大学大学院客員教授
本連載で取り上げてきたドイツの社会学者のガブリエル・クビー著『グローバル性革命—自由の名によって自由を破壊する』には多くの推薦の言葉が寄せられている。プリンストン大学のロバート・ジョージ教授は、クビーの「自由に対する誤った幻想」に対する「明確で思慮深い分析」によって、「真の自由は自己統制と美徳を通してのみ成し遂げられるという事実を悟る」と評している。
また、米国外交政策委員会のロバート・レイリーは、「20世紀のナチス・ファシズムや共産主義のようなもの」である「今日の西欧の同性愛と中絶のイデオロギー」の起源とその悪影響を詳しく説明した本書は、「道徳秩序から性を解放し、そのようなことを受け入れる社会が経験する恐ろしい姿を鮮やかに描き、全体主義的な結果から抜け出すことを可能にする道徳的現実主義について、強く提案」していると論評している。
さらに、米国家族研究委員会の結婚と宗教研究所取締役のパトリック・ペイガンは、「文化戦争に関する最も包括的な入門編である」本書は、「急進的に『深刻に性愛化した国家』が世界を支配しようした人たちにどのように究極の手段として利用できるかを示している」と述べ、ロバート・スパマン博士は「私たちの自由がどのように反道徳的イデオロギーによって脅かされているかを見せている」と評している。
●グローバル性革命を主導する国連
本書で最も注目されるのは、第4章「国連、グローバル性革命を主導する」と第12章「幼稚園から12年生までの性教育」と「包括的性教育」の問題点を浮き彫りにした第13章である。その要点は以下の通りである。
まず第4章において,クビーは『西欧文明革命の世界比』の著者であるマーガレット・ピータースが、「世界的なポストモダニズム的な倫理は相違点と選択の多様性、文化的な多様性、文化的な自由、(性的指向とは異なる)性的多様性などを称賛する。このような『解放』は新しい倫理の絶対的な命令となった」と指摘した内容を次のように整理している。
●新たな文化革命的戦略—「性主流化と生殖保護」—
「性革命運動の政治的な戦略」の一環として、「性の主流化」という用語が1999年にドイツの政治の指導原理となったが、ピータースが指摘したように、「革命の過程において始めから終わりまで中心的な役割を果たしたのは政府ではなく、非政府の少数者たちであり、公共の福祉を代価に自分たちの利益を追求しようとする急進的な少数者たちのロビイスト(フェミニストと同性愛運動家たち)に過ぎず、彼らの戦略的目的は性的規範の解体による世界人口の減少にあった。
彼らは自由の名によって文化的宗教的伝統を無力化するために新しい「権利」を主張し始めたのである。それが、自由恋愛、避妊、中絶、人工授精の権利、自分の性同一性を自由に決める権利、親に反抗する権利などである。
これらの核心には自律的な人間の選択の自由に対する権利があり、自由という用語は、真理、責任、他者のための善、公共の福祉から分離されてしまったのである。
1994年、カイロで開催された国連人口会議では「生殖保険」に対する大きな局面の転換が起き、翌年に北京で開催された国連世界女性会議は急進的なフェミニストたちが掌握し、長期的な目標は次の3つの目的を達成するために、「性」という単語を「ジェンダー」に変えることであった。
⑴ 男性と女性の実質的な平等
⑵ 男性と女性という性同一性の解体
⑶ 規範的・強制的な異性愛の解体
デール・オリオリ著『ジェンダーアジェンダ』によれば、同世界女性会議は急進的フェミニストたちが戦略的に操作し、生命と家族の保護を主張する団体の参加は許可されず、「家族を破壊しようとし、結婚を完全に無視し、母性の重要性を最小化し、性的に堕落した態度を持たせ、同性愛とレズビアン主義、性的淫乱と子供の性的関係を助長し、子供に対する父母の権利を剝奪しようとした」とする北京の行動綱領に家族保護を訴えた諸団体は連合して反対したが、受け入れられなかった。
この北京の行動綱領を法的拘束力を持つ国際条約に転換し、社会的な現実にすることを目指す文化革命的戦略が試みられ、「性主流化と生殖保護」という新しい概念が登場した。
2016年12月19日、国連総会は性的指向とはジェンダーアイデンティ(SOGI)の独立専門家という新しい職責を作るための投票を行い、84対77の僅差でその職責を設けることになった。
「性的権利」「中絶の権利」「売春の合法化」「性教育の拡散」「避妊広報」「コンドーム無料配布」が広がり、クビーは本書の第4章を次のように締めくくっている。
「第二次世界大戦以降、国連は全世界の人々の希望の光であった。しかし、現在、国連は危険な文化大革命の急先鋒となっている」

●学校で「性愛化」を主導した国際家族計画連盟
ミリアム・グロスマン著『あなたが私の子供に何を教えているのか』は、「伝統的道徳は無意味で破壊的である」と断定する性教育の偽善性と危険性について警告した。レスター・カルデロン著『性の権利章典』は、子供が親の価値観に関係なく、性的活動に参加する権利があり、全ての形態の性行為をする権利があると主張し、国際家族計画連盟とユネスコの性革命に大きな影響を与えた。
クビーは、「子供たちが知るべきではない不自然で、歪み、異常で忌まわしい性行為が義務教育の教材となってしまった」と嘆いている。ドイツで数百万ドルの予算で幼稚園や義務教育での「性愛化」を主導した国際家族計画連盟の性教育担当者が避妊具セットを持って学校を訪問し、子供たちにプラスチック性器にコンドームを装着させる練習をさせた。
彼らは映像やロールプレイ等を子供に強要して、伝統的な道徳規範と羞恥心を破壊し,全ての性行為をするように、特に自慰行為をするように薦めた。同連盟の2010年の年次報告によれば、
・2千2百万件の妊娠中絶
・1億3千百万件の避妊手術
・6億2千百万個のコンドーム配布
・8万件の不妊手術を若者に施行
したという。しかし、2015年にシリーズで放映された潜入ビデオによって、同同盟が違法な中絶手術を通して得られた胎児の体の一部を販売したことが明らかになった。
同連盟の他に10団体が「グローバル性革命の代理人」として「パンドラの箱」を開け、「男子と女子の結婚に基づく家族という社会的基盤を破壊するために、性的な道徳規範の緩和という方法を使用」した、とクビーは述べている。

●「包括的性教育」は「グローバル性革命」戦略
その「グロ一バル性革命」戦略として登場した「包括的性教育」の柱は次の7つである。
⑴ ジェンダーと性の違い
⑵ 性と生殖に関する健康とHIV:コンドーム使用法、他の形態の避妊法、合法的で安全な中絶
⑶ 性的権利と性的市民権:様々な性同一性の支持・選択・保護・安全で健康で楽しい方法で性行為を自由に表現して探求する権利
⑷ 楽しさ:自慰行為、情欲と関係性の多様性、最初の性的経験、喜びに伴う不名誉な烙印に対する対処
⑸ 男女に対する様々な種類の暴力探求
⑹ 多様性への肯定的な視野
⑺ 異なる関係(性交、ロマンチックな関係など)
このような「包括的性教育」を受けた子供たちは、性的羞恥心が破壊され、「性愛化」によって、梅毒と淋病の発生率が高まり、多くの若い女性を永久的に不妊にする性感染症の爆発的な拡散を生んだのである。
早期性交を助長する「包括的性教育」の危険性を列挙すれば、10代の妊娠と中絶、薬による健康の損失、性感染症の増加、うつ病と自殺につながる心理的損傷、低い達成感、弱体化した絆、などが挙げられる。
親には子供に最善の利益となり、子供の人格の尊厳性を保護する家族の文化的伝統を考慮しながら、自らの道徳的・宗教的信念に基づいて子供を教育する権利がある。クビーが提起している問題点を整理すると、以下の通りである。
⑴ 性規範の緩和は、文化的腐敗につながる
⑵ 性規範の緩和は子供たちに最高の環境である家族を破壊する
⑶ 性愛化は子供時代を奪っていく
⑷ 性愛化は親の権威を弱体化させる
⑸ 性愛化はホルモンの発達に違反する
⑹ 習慣的な自慰行為は自己陶酔的な性欲を固着させる
「包括的性教育」を行ったイギリスでは、18歳以下の性転換手術が10年間で77人から34倍に急増した。こうした「グローバル性革命」「包括的性教育」がもたらした悪影響を踏まえて、本書を翻訳中の弘前学院大学の楊尚眞教授は次のように警告している。
「子供たちが正しい性倫理・道徳を確立する前に低俗な性文化に晒され、幼年期における純粋で健やかな精神が保護されていない。性革命を寛大に捉えてしまうという致命的な悲劇を引き起こす可能性がある。西欧で紆余曲折を経て進められてきたグローバル性革命がそのまま圧縮されて日本に浸透しつつある。西欧で性革命がどのように起こり、性倫理、家庭、家族、結婚にどのような破壊的影響を及ぼしているかを具体的に語る本書を通じて学び、長い間緻密に計画され組織的に進められてきたグローバル性革命に危機感と切迫感を持って対抗し、性的堕落の暗雲を払拭しなければならない」
(令和3年11月26日)
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