川上 和久

川上和久 – 「若者の政治離れ」を止めるには

川上和久

麗澤大学教授

 

 

 

 令和3(2021)年10月31日に投開票された第49回衆議院議員総選挙。自由民主党(以下自民党)が単独で過半数を確保するかどうかの攻防と事前の情勢調査などで報道されていた中で、ふたを開けてみれば自民党は261議席(小選挙区189議席、比例代表72議席)を獲得し、自民党単独で、衆議院ですべての常任委員会で委員の過半数を確保し、委員長決裁によらずに法案の委員会通過を可能とするのに必要な261議席に達して「絶対安定多数」を確保した。連立与党の公明党の31議席(小選挙区9議席、比例代表23議席)と合わせると、292席で、岸田文雄内閣は、発足して間もなかったが、自公連立による安定した政権運営が可能となった。個人的には、与野党の逆転による政権交代が起きなかったことにほっとしているところだ。

 

 

●20歳代の低い投票率

 政治心理学では、「どこに投票するか」の投票行動研究が重要な領域となっており、1940年の米国大統領選挙での世論調査、いわゆる「エリー調査」をもとにした研究に端を発して、日本でもさまざまな投票行動研究が蓄積されている。学術団体である「日本選挙学会」もあり、筆者も参加している。

 ところで、「どこに投票するか」の前に、民主主義社会では、まずもって「投票する」という政治参加が非常に重要であることは言うまでもない。

 それは、地域の防犯に協力したり、山のゴミを持ち帰ったりするのと同様、社会の秩序を形成するための最低限の「公共心」に裏付けられた道徳行為と言ってもよい。

 ところが、その「投票率」が、いわば危機的状況を続けている。

 小選挙区の投票率を見ると、2012年の第46回衆院選で59.32%→2014年の第47回衆院選で52.66%→2017年の第48回衆院選で53.68%。そして今回の第49回衆院選は55.93%。戦後3番目に低い投票率だった。投票率は、「変えねばならない」というインセンティブが働くと上昇する傾向があり、第46回衆院選は、民主党の3年3か月に及ぶ迷走に嫌気がさした有権者の「変えたい」という意思によって投票率が高かったが、その後安倍政権のもとで、体制を変えるインセンティブは働かず、投票率は50%台前半と低迷。今回は55%台に回復したが、有権者の約2人に1人が投票という社会的責任を果たしていないというのは、異常事態だと思わなければなるまい。特に、若者の政治参加の低調が、全体の投票率を押し下げている。

 政治社会学の知見では、若者は政治的社会化が高齢の世代と比較して十分ではないため、政治参加への積極性が低い。は、公益財団法人明るい選挙推進協会が衆院選の後に行っている全国規模の世論調査で、昭和42年の第31回衆院選から平成29年の第48回衆院選までの年代別の投票率の推移を見たものだが、この図で年代別投票率を見ると、一貫して20歳代の投票率が全体の投票率に比較して20%前後低い。そうすると、ただでさえ人口構成比で少なくなっている若者の政治的意思が政策に反映されにくくなってしまう。

 

 

●政治参加への意識をいかに涵養するべきか

 「思春期仮説」と言われる政治社会学の知見もある。若い頃の政治的傾向が、その後高齢者になるまで一定程度持続するというものだ。全共闘世代では、革新政党の支持の強さが継続していることが世論調査の分析によって明らかになっている。そうすると、スタート台できちんと投票という社会的責務を果たすことが内面化されていれば、それが加齢とともに継続していく可能性もあるわけだ。しかも、若い世代は保守的な傾向を持つことも知られている。日本経済新聞社が10月31日の投票日当日に行った出口調査の結果を翌11月1日の朝刊紙面で紹介しているが、年代別の比例代表の投票先を見ると、20歳代の投票先は自民党が最多の36.7%だった。立憲民主党への投票は20%を下回っている。

 投票率の低下に政治も手をこまねいているわけではない。公職選挙法が少しずつ改正されて、投票日の投票時間は午後6時まで~午後8時までとなり、期日前投票が導入されて、期日前投票の総数は2000万人を超え、約3分の1になっている。長らく懸案だった選挙運動におけるネットの利用も解禁された。

 だが、国民の一人としてきちんと政治参加しようとする道徳心を涵養するには、制度だけでなく、教育における取り組みが何より重要となる。これまでは、民主主義の「制度」を説明する中で選挙「制度」が教えられたりしていたが、制度を教えるだけでなく、有権者としてどのような判断基準でどう投票したらいいのかについての、「生きた主権者教育」も模索されており、実際の政党や候補者に投票する「模擬投票」を導入する学校も徐々に増えてきている。

 学習指導要領が改定され、これまで高校1年で必修とされてきた「現代社会」が、知識から実際の体験型学習も盛り込んだ「公共」という科目となった。

 知識から実践へ。若者の低投票率への危機意識が、若者の「公共心」を涵養する教育に結び付き、公に奉仕する道徳心を持った若者の育成につながっていくかどうか、投票率からみても、一つの正念場を迎えているといえよう。

 

参考文献

川上和久 『18歳選挙権ガイドブック』 講談社

読売新聞オンラインでの筆者の論考「『若者の政治離れ』を止めるには」

 

(令和3年11月24日)

 

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