高橋 史朗

髙橋史朗 47 -「有識者会議」で強調された「包括的性教育」

髙橋史朗

モラロジー道徳教育財団道徳科学研究所教授

麗澤大学大学院客員教授

 

 

 9月16日に「こども政策の推進に係る有識者会議」が発足し、6名の構成員と18名の臨時構成員が就任した。会議は非公開であるが、議事録と配布資料は公開される。第1回会議で提出された櫻井彩乃臨時構成委員の資料を読み、本連載44などの拙稿で問題点を指摘した「包括的性教育」や「選択的夫婦別姓制度の早期導入」「幼児期からのジェンダー平等教育」などが強く提唱されており、懸念が現実のものとなった。

 

 

●幼児期からのジェンダー平等教育の実施

 同資料の要点を列挙すると、まず「幼保・学校におけるジェンダー規範の刷り込み」の問題点として、「男女で区別」される名簿・色分け・男女別整列・席配置・男女別制服・呼称(男子に「くん」、女子に「さん」)や男女を差別する「隠れたカリキュラム」などの問題点を挙げている。

 こうした「ジェンダー規範の刷り込み」は、生まれた瞬間から始まる「男・女」や兄弟間でのジェンダー差別をする保護者らによって行われ、LGBTへの配慮を欠いた、ジェンダー役割を押し付け、女性を性的対象としているメディアにも問題があることを指摘した上で、ジェンダーに左右されることなく育つことができるための解決策として、「幼児期からのジェンダー平等教育の実施」(「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」に則った「包括的性教育」)や「多様な性に配慮した学習指導要領・教科書の表記」などを挙げている。

 具体的には、年齢別学習目標として、5~8歳時に「赤ちゃんがどこから来るのか説明」し、9~12歳時に「妊娠・避妊の説明、避妊方法の確認」すると明記しているが、小学生に避妊方法の確認をする必要があるのだろうか。

 

 

●「包括的性教育」の必要性と効果?

 特に同資料で「包括的性教育の必要性」に力点を置いて詳述している点が注目される。具体的には、「実際の声」として、「包括的性教育とは人権教育であり、教育を受けることにより皆がより生きやすくなると思います」「性教育=いかがわしいという古くて悪い考えを改めてほしいです」(中学生)「学校で予期せぬ妊娠を防ぐための教育を行ってください」(高校生)などを列挙し、学習指導要領には「受精・妊娠の経過は取り扱わないものとする」という規定があることを問題視している。

 また、同資料は「包括的性教育」の効果として、以下の6点を挙げている。

 ・初交年齢の遅延
 ・性交の頻度の減少
 ・性的パートナーの数の減少
 ・リスクの高い行為の減少
 ・コンドームの使用の増加
 ・避妊具の使用の増加

 そして、「包括的性教育の実施が急務」だとして、「性的自立」「性的自己決定権」を重視する「セクシャル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」の重要性を強調している。見過ごすことができないのは、安倍政権がプロジェクトチームを作って全国実態調査を実施し、問題点を解明して批判した「過激な性教育」グループが提唱し推進している「包括的性教育」に賛成する中高生の声を掲載していることである。

 

 

●生徒を利用した広報宣伝

 拙著『間違いだらけの性教育』(黎明書房)でその実態と問題点について詳述したが、「過激な性教育」団体が生徒を利用して、「包括的性教育」にエールを送らせる文章を書かせ、「実際の声」として広報宣伝するのはいかがなものか。

 また、「結婚・出産の希望持ち子育てしやすい社会の実現のために重要なこと」として、「選択的夫婦別姓制度の早期導入」を挙げ、若い世代で導入の声が高まっており、結婚の際に姓をどうするか自分たちで選べない絶望感が広がっていると指摘している。ここでも次のような中学3年生の「実際の声」が強調されている。

キャリア教育の授業で使ったワークシートが女性の結婚・出産が前提で、今の時代に合わないと思いました。様々な選択肢から選ぶことができると伝えるのがキャリア教育のはずですが、子どもを産むことだけ学んで悲しくなりました。もし、将来私がこの国で子どもを産まなかったら存在価値がないのかな……

 さらに「実際の声」として、「若い世代は、もはや子供を産みたくない意志を持つ者が多い」ことが強調され、次のような高校生、大学生の声が紹介されている。

女性は職業の選択肢が狭まるのに対し、男性は幅広く選択できます。なぜ性別が違うだけで未来の選択肢が違うのか、女性に生まれたことが悲しいです。(高校生)

女性が家庭を持ちながら働くことは現実的だとは思えません。制度だけでない職場の理解や、母親と同様に父親も育児にかかわれることが普通である社会を望みます。(大学生)

就活の際に同世代の男の子から「女の子は育休・産休があるから活躍できない」と言われました。子どもを育てる=女性という固定観念がこの時代にもまだ存在します。(大学生)

 そして、結論として、「子ども・若者が安心・安全に育つことができるためには、義務教育以前のすべての段階からジェンダー視点を持つ取り組みが必要」だとして、解決策として、「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」に則った包括的性教育の実践を第一に掲げ、「幅広い範囲を扱える性教育者の育成、指導に当たる教師を対象とした専門家による研修の実施」や「保護者への性教育啓発」など、「急進的性教育」団体を核とする講師陣グループが性教育者や保護者を啓発し、育成指導する体制を「こども庁」創設を利用して確立しようと目論んでいる。

 

 

●「有識者会議」への期待と『Q&A』の作成

「こども政策の推進に係る有識者会議」の座長には、安定的な皇位継承の在り方を検討する「有識者会議」の座長も兼任する慶應義塾学事顧問の清家篤氏が就任した。皇位継承問題と同様に、重厚でバランスの取れた論議を行い、国連勧告やユネスコを利用して、自らの主張を正当化しようとする人々とは明確に一線を画した「こども政策」の取りまとめを期待したい。

 我々の歴史認識問題研究会としても、これらの現状を一般の方々に広く理解してもらうため、早急にQ&Aを吟味し、ブックレットとして提供していきたいと考える。

 

(令和3年10月1日)

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