高橋 史朗

髙橋史朗46 ――「同床異夢」の「こども庁」構想と有識者会議の課題 ―

髙橋史朗

モラロジー道徳教育財団道徳科学研究所教授

麗澤大学大学院客員教授

●国連の対日勧告を評価・チェックする反日左派団体

 前回の拙稿について読者から質問が寄せられたので、お答えしておきたい。「国連の委員会に働きかけて対日勧告を出させた日本の国連NGO団体」についてのご質問であるが、この団体は「子どもの人権連」「反差別国際運動日本委員会」「子どもの権利条約NGOレポート連絡会議」である。

 同連絡会議の事務局は国連との特別協議資格を持つNGO団体「子どもの権利条約総合研究所」で、これまで4回(1998年、2004年、2010年、2019年)行われた国連の子どもの権利委員会による日本政府報告書審査に対応した意見書と追加情報をこれらの団体が同委員会に提出し、対日勧告(総括意見)の達成度を評価するフォローアップに取り組んできた。

 第1回審査時に同委員会に提出した意見書は、日教組に事務局がある「子どもの人権連」と部落解放同盟が牛耳っている「反差別国際運動日本委員会」名で提出されており、同審査の最後に複数の委員から「日本政府はこの意見書に掲げられた勧告を参考にするべきである」という趣旨の指摘が行われ、意見書が高く評価されている。

 同意見書の内容は、子どもの人権連・反差別国際運動日本委員会編『子どもの権利条約 日本の課題95』(労働教育センター、1998)、フォローアップ報告書の内容は、子どもの人権連・反差別国際運動日本委員会編『子どもの権利条約のこれから 国連・子どもの権利委員会の勧告を活かす』(エイデル研究所、1999)を参照されたい。

 第2回審査時には、同意見書が強調した子供の「権利基盤アプローチ」の重要性が国連の同委員会によって積極的に受け止められ、対日勧告(総括意見)の基調となった。

●審査の仕組みと非公開の予備調査の実態 ――「こども庁」構想の原点

 同委員会による予備調査(会期前作業部会)で第3回日本政府報告書を審査する担当委員は9名おり、日本の3団体がそれぞれ5分程度のプレゼンテーションを行った後に、委員から出された数多くの質問に答える形で情報提供する仕組みになっており、日本の3団体の意見書、対日勧告の達成度評価をするフォローアップ報告書が決定的な影響力を及ぼしている。

 審査の仕組みは、まず政府報告書に対する日本のNGO意見書が国連の委員会に提出され、それを踏まえて同委員会の予備審査が行われ、「日本政府に対するList of Issues」が公表され、これに対する日本政府の回答を踏まえて、子どもの権利条約NGOレポート連絡会議が「追加情報」を同委員会に提出後、本審査が行われ、同連絡会議が「審査のフォローアップ文書」を提出し、最終的に国連の委員会の総括所見(対日勧告)がまとめられる。

 4時間半に及ぶ予備調査(非公開)に出席する日本の3団体は、同連絡会議、日本弁護士連合会、子どもの権利条約市民・NGO報告書をつくる会、であり、第2回審査で日本政府に勧告した「権利基盤アプローチ」が一顧だにされなかったため、2010年の第3回意見書及びプレゼンでは、「子どもの権利基本法」(仮称)の制定、実効性のある実施・調整・監視機関の設置などの制度的基盤の整備に重点が置かれた。

 第3回予備調査の結果を踏まえて、事前質問票(論点一覧)が作成され、政府に送付され、これらの論点を踏まえた政府報告書に関する本審査が行われたわけである。この事前質問票の論点一覧には、「条約のあらゆる分野を網羅した『子どもの権利基本法』の制定」「条約実施に関する総合的・包摂的調整機関」「市民社会との協力の組織化」「婚外子差別および民族的マイノリティの子どもに対する差別への対応」「子どもの意見の尊重の原則を反映した法令」などが含まれていた。

 今日の「こども庁」「子ども基本法」構想の出発点がここにあることを見落としてはならない。前述した左派団体が10年以上前から国連の委員会に働きかけて「子どもの権利基本法」「総合的・包摂的調整機関」の実現を目指してきた悲願が、今達成されようとしているのである。

●国連の委員会に提出された意見書の驚くべき内容

 では、一体どのような意見書が国連の委員会に提出されたのであろうか。以下、その注目すべき内容を抜粋してみよう。

<「保護」に偏重した国内法の改正>
 国内法は「保護」偏重の内容であり、権利基盤アプローチへの配慮を欠いている。
【提言】
 子どもの権利保障を総合的に推進する基盤となる「子どもの権利基本法」(仮称)を制定すべきである。

<教育現場を無視した「教育改革」プロセス>
 子どもの権利を基盤としたアプローチが全く見られず、教育が第一義的には、グローバル化への対応や愛国心の育成といった特定の政策目的に奉仕する手段として位置づけられている。
【提言】
 子どもの権利を基盤とした教育改革へと方針転換を図るべきである。

<条約の趣旨や規定に逆行する教育基本法「改正」>
 教育基本法の「改正」は子どもの権利を基盤としたアプローチに逆行し、国民を統制する方向になっている。「改正」教育基本法は、「新しい日本人の育成」を強調し、「日本を愛する態度」を求め、民族・言語・国籍の面でいわゆる「日本人」とは異なるマイノリティの子どもが存在する事実を無視している。
【提言】
 条約や委員会の一般的意見を踏まえ、権利基盤アプローチに基づき、現行の教育基本法を全面的に見直し、改正すべきである。その際、子ども、保護者、教職員、NPO等の実効的な参加を保障すべきである。

<学校運営への児童生徒・保護者・地域住民の参加が充分ではない>
【提言】
 独立した不服申し立て制度を整備するとともに、教職員による管理職の勤務評定制度も導入すべきである。

<人権教育・子どもの権利教育はむしろ後退している>
 国家のつくる規範を一方的に押し付け、「道徳教育」が強化されてきている。国による教育内容への過剰な介入が子どもの思想・良心の自由(条約第14条)を侵害する可能性が危惧されている道徳教育……条約をはじめとする子どもの権利についての教育は公的にはほとんど推進されていない。
【提言】
 学校教育において道徳教育を強化する政策を改め、子どもの権利および子どもの権利条約に関するものを含む人権教育を充実させるべきである。そのため、関連の諸施策・諸機関(NGOを含む)との連携などを促進することが求められる。

<依然として改善が見られない教科書検定制度>
 第2回総括所見や社会権規約委員会の勧告にもかかわらず、「従軍慰安婦」を無視し「南京大虐殺」を否定するなど植民地支配や侵略を正当化しようとする歴史教科書が文部科学省の検定で合格している。教育内容及び教科書に対する権力的介入につながりやすい現行の教科書検定制度の根本的な欠陥がある。

【提言】
 教科書検定等を通じて第29条1項の教育の目的に反するような検定意見をつけることがないようにするため、教科書検定基準の改訂、恣意的な運用の改善等の必要な措置を早急にとるべきである。同時に、教育内容及び教科書に対する権力的介入につながりやすい現行の教科書検定制度を、教科書の自由発行制度の導入の可能性も含めて抜本的に見直すことが求められる。

●露骨な「追加情報」提言――市民・NGOとの連携の制度化

 また、同連絡会議が国連の委員会に提出した、日本政府報告書の検討にかかわる論点一覧に対する「追加情報」には以下の内容が含まれている。この「追加情報」は、国連の委員会の日本政府に対する対日勧告(総括意見)に対する日本政府報告書の問題点を指摘し、さらなる改革を国連の委員会に働きかけるために提出されたものである。

<締約国は条約のあらゆる分野を網羅した子どもの権利基本法の制定を計画している>
【提言】
1.政府および国会は、委員会の勧告である「子どもの権利基盤アプローチ」を考慮し、国内法を全面的に見直すべきである。特に条約第12条に鑑み、法改正の際には子どもの意見を聴くシステムを確立し、実際に子どもの意見を反映すべきである。
2.子どもの権利保障を総合的に推進する基盤となる「子どもの権利基本法」(仮称)を制定すべきである。

<「青少年育成推進本部」は施策の統合調整をしえていない>
【提言】
 政府は、条約の実施に関係するすべての公的機関及び関連の市民・NGOの代表が参加する政策調整機関を設置すべきである。自治体に対しても子どもの権利にかかわる総合的な窓口の設置を奨励し、先進的な取り組みについての情報・実践の共有をはじめとして中央と地方の政策の調整に一層努めることも求められる。そのためにも、子ども政策を総合的に推進する省=子ども省の設置が必要である。

<「権利」よりも「道徳」が強調される傾向にあり、「子どもの権利=わがまま論」など、子どもの権利に対する否定的意見が目立つ>
【提言】
 政府は、戦略の立案・実施にあたっては、子ども及び関連する市民・NGOと充分に協議・連携すべきである。

<政府・公的機関と市民・NGOとの対話・協力は、依然として恒常的・制度的なものではない>
【提言】
 政府および国会は、市民・NGOの経験や視点を法改正や政策形成に反映させることを目的として、条約の実施・普及に市民・NGOが参加する手続きや仕組みを確立すべきである。総合的な政策調整機関を設置してそこに市民・NGOの代表を含めること、子どもに関わる各種審議会・委員会にも市民・NGOの代表を含めることを原則とするなど、市民・NGOとの対話・協力の制度化が求められる。政府は、パブリックコメントなど市民の声を政策に反映させるための制度の一層の改善を図るべきである。

●「同床異夢」の構想から子供の権利の歪曲拡大解釈を切り離せ ―― 有識者会議の課題

 このように「子ども省」「子どもの権利基本法」の発案者である彼らの基本認識は、「2006の教育基本法の全面改定により、法体系が教育への権利保障から国による教育統制へと大きく変えられ」、改正された教育基本法は子どもの権利条約に「逆向」し、道徳教育は子どもの権利条約第14条の思想・良心の自由を侵害する可能性が危惧されるものであり、子どもの「保護」に偏重している「青少年健全育成」施策は子どもの権利条約実施を促進するフォローアップをしていないから、「子ども省」を創設し、教育基本法の上に「子どもの権利基本法」を位置づける必要があるというものである。

 また、子供の権利とは全く関係がない(「慰安婦問題」や「南京大虐殺」を重視する立場からの)教科書検定基準の改訂、教科書検定制度の改革、学習指導要領の根本的見直しのみならず、教職員による管理職の勤務評定制度の導入や市民・NGO の代表を各種審議会・委員会に含めることを原則にする制度化などという日教組や市民運動団体の身勝手な主張を盛り込んでいる点に注目する必要がある。

 安倍政権下で行われた教育基本法の改正や教科書検定、青少年健全育成施策を否定する立場から構想した反日左派の運動団体の国連の委員会への「子ども省」「子どもの権利基本法」提言が、今日の「こども庁」「子ども基本法」の出発点であることを見落としてはならない。

 自民党「こども・若者」輝く未来創造本部が掲げる「こどもまんなか」理念が、「子供の最善の利益」の視点に立脚すること自体は間違っていない。私自身、4期8年務めた内閣府の男女共同参画会議議員として、この視点に徹して発言してきた。

 問題なのは「子供の最善の利益」の名のもとに、教育基本法改正や道徳教育、学習指導要領、教科書検定、青少年健全育成施策などを否定し、子供の権利を歪曲して拡大解釈し、日教祖や市民運動団体の身勝手な主張を盛り込もうとしていることである。

 1997年から国連の委員会詣でを続けてきた反日左派の運動団体が10年以上前から同委員会に提言してきた「子ども省」創設、「子どもの権利基本法」制定が今、自民党「こども・若者」輝く未来創造本部が掲げる「こども庁」「子ども基本法」構想として実りつつある。

 これまでの自民党の教育政策を全面的に否定する反日左派の運動団体と自民党が連携して勉強会を進めてきた「同床異夢」の「こども庁」「子ども基本法」構想は根本的に見直す必要がある。間もなく設置される有識者会議が「こどもまんなか」の基本理念を「子供の最善の利益」とは何かという教育の原点に立ち戻って再確認し、子供の権利の歪曲拡大解釈を正し、日教組や市民運動団体の身勝手な主張から「切り離す」ことを期待したい。

●全国の自治体の法律制定を目指すキャンペーンと参加団体

 ちなみに、本稿で述べた意見書や「追加情報」を国連の委員会に提出してきた「子どもの権利条約NGOレポート連絡会議」の参加団体には、日教組、自治労、子どもの人権連、しんぐるまざあず・ふぉーらむ(赤石千衣子代表)、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン、東京・生活者ネットワーク、在日朝鮮人人権協会、“共生社会をつくる”セクシャル・マイノリティ支援全国ネットワーク(共生ネット)、「婚外子」差別に謝罪と賠償を求める裁判を支援する会、東京シューレなどが含まれている。

 彼らが中心となって「広げよう! 子どもの権利条約キャンペーン」が一昨年4月から全国で展開されおり、来年4月まで全国の自治体・国レベルにおいて、子供の権利に関する包括的な政策・法律づくりを目指している。その共同代表は荒牧重人、喜多明人、甲斐田万智子、アドバイザーは尾木直樹、汐見稔幸、平野裕二らが務めている。

(令和3年9月22日)

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