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髙橋史朗45 ――「こども庁」論議に欠落する「健全育成」の視点 ― 他律によって自律へと導く「教育の論理 」―

髙橋史朗

モラロジー道徳教育財団道徳科学研究所教授

麗澤大学大学院客員教授

 

 

 

●「こども庁」創設の緊急決議と国連勧告に基づく構想

 自民党総裁選と衆院選の結果次第で流動的ではあるが、「こども庁」の創設を目指す有識者会議の発足と同庁設置法の立案に向けた準備が進み、年内にも取りまとめが行われ、関連法案が来年の通常国会に提出される見通しである。議員立法で「子ども基本法」の制定を目指す議論も進められているが、これまでの議論の問題点と、踏まえるべき論点について述べたい。
 4月13日に自民党は菅総理の指示で新たに設置された「子ども・若者」輝く未来創造本部(本部長:二階幹事長)の初会合を開催し、「こども庁」創設に向けた緊急提言「子ども行政の司令塔を明確化し、縦割りを克服、Children Firstを実現する」(3月19日付)について、山田太郎・自見はなこ参議院議員が説明した。
 これを踏まえて6月3日に同本部は、「こどもまんなか」改革の実現に向けた緊急決議を発表し、「こどもまんなか」を基本理念として、「こども会議やこどもヒアリング、こどもコミッショナー」などについて検討し、「包括的性教育」の事例を「参考にすべきである」と明記した。
 この緊急提言をまとめた「Children Firstの子ども行政の在り方勉強会」は両議員が共同事務所を設置して、有識者ヒアリングを19回開催し、5月31日に第2次提言をまとめた。同提言によれば、「目指すべき社会像」は「子どもたちが自ら意思決定できる社会」で、「子どもの権利条約を包括的に取り扱う組織」を創設し、専任大臣の設置、強い調整機能権限、子ども関連予算の一元的策定と確保などを盛り込んでいる。
 同勉強会の資料によれば、一昨年の国連の委員会からの対日勧告に基づいて、⑴「子ども基本法」⑵「こども庁」⑶「こどもコミッショナー」が構想された。
 ⑴は「子どもの権利に関する包括的な法律を採択し、かつ国内法を子どもの権利条約の原則及び規定と完全に調和させるための措置をとること」という勧告を踏まえたものである。
 ⑵は「分野横断的に、国、地域及び地方レベルで行われている本条約の実施に関連する全ての活動を調整するための、十分な権限を有する適切な調整機関の設置」という勧告を踏まえたものといえる。
 ⑶は「子どもによる苦情を子どもに優しいやり方で受理し、調査しかつこれに対応することのできる、子どもの権利を監視するための具体的機構を含んだ、人権を監視するための独立した機構を迅速に設置すること」という勧告に基づくものである。

 

 

●反差別法の制定と中絶の勧め

 この国連の対日勧告には「緊急の措置が取られるべき6つの分野」が明記され、その第一に「差別の禁止」が掲げられ、次のように述べている。
<a. 包括的な反差別法を制定すること。
 b. 非婚の両親から生まれた子どもの地位に関連する規定を含め、理由の如何を問わず子どもを差別しているすべての規定を廃止すること。
 c. 特に民族的マイノリティ(アイヌ民族を含む)、被差別部落出身者の子ども、日本人以外の出自の子ども(コリアンなど)、移住労働者の子ども、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー及びインターセックスである子ども、婚外子並びに障害のある子どもに対して現実に行われている差別を減少させ且つ防止するための措置(意識啓発プログラム、キャンペーン及び人権教育を含む)を強化すること。>
 「子どもの人権連」や部落解放同盟が中核となった日本の国連NGO団体が国連の委員会に働きかけた内容がみごとに盛り込まれ勧告内容である。4月26日に開催された第12回「Children Firstの子ども行政のあり方勉強会」でこの問題が取り上げられ、「理由の如何を問わず子どもを差別しているすべての規定を廃止する」「包括的な反差別法」の制定の必要性が強調された。
 こうした「包括的な反差別法」の制定がもたらす影響は計り知れない。LGBT理解増進法や同性婚訴訟、朝鮮学校差別などとも深くかかわっている。さらに、緊急措置を要する勧告として、「リプロダクティブヘルス及び精神保健」が掲げられ、次のように明記している点も問題である。
<あらゆる状況における中絶の非犯罪化を検討するとともに、思春期の女子を対象とする、安全な中絶及び中絶後のケアのためのサービスへのアクセスを高めること>
 これではまるで「中絶の勧め」ではないか。

 

 

●子どもは「権利行使の主体」ではない

 「こどもまんなか」の理念とは何かについて、子どもの権利条約の批准に当たって論議された争点に立ち返って根本的に見直す必要がある。西独政府(当時)は「批准議定書」に「子どもを成人と同等の地位に置こうというものではない」と明記し、子どもの権利の概念を「保護を受ける法的地位」に限定した解釈宣言と細かな「覚書」を付して、子どもの「自律による保護の解体」に歯止めをかけようとした(拙稿「誰が『児童の権利』を守るのか」『文藝春秋』平成3年11月号、参照)。
 日教組や日本の国連NGO団体、「子ども基本法」を推進する有識者たちは権利条約の「画期的意義」は子ども観を「保護の対象」から「権利行使の主体」へとコペルニクス的転換を図った点にあるとし、その中心人物が制定に深くかかわった「川崎市子どもの権利に関する条例」の解説には、「子どもの権利条約は、子どもを保護される対象から権利を行使する主体へと『子ども観』を転換し」と明記している。
 また、国連の委員会の総括所見(対日勧告)は、「条約が権利の完全な主体としての児童の概念に重要性を置いている」が、川崎市の条例では「権利の全面的な主体」の方がわかりやすいと判断したと解説している。
 子どもが「基本的人権」を享有することは当然であるが、「権利行使する能力をもつ」と考えるのは問題である。自由の権利は責任能力と一体のものであり、わが国の民法も子どもの「意思能力」は認めても「行為能力」は認めていない。
 例えば、車道で車を自由に運転する権利を持つことと、事故を起こした場合に刑事的、民事的な責任を取る能力を持つこととは表裏一体の関係にある。しかし、子どもにはそのような責任能力はない。

 

 

●子どもの権利条約批准をめぐる反対論・慎重論の根拠

 J・ヘルムス米上院外交委員長は、「子どもの権利条約は自然法上の家族の権利を侵害するものである」と同条約の批准に反対し、米政府は批准しなかった。
 東洋大学の森田明教授は、「法と権利は、人間関係を強制力によって破壊することはできる。しかし、法は人間関係を形成することはできない」として、子どもの権利が栄えて人間関係が衰弱する危険、保護の理念、家族の理念が腐敗する危険があると警告した。
 また、学習院大学の波多野里望教授は、「この権利条約は決して、国内法体系のバランスを崩してまで、子どもの権利を突出させることを締結国に要求するものではない」と指摘した。
(高橋史朗編『児童の権利条約』至文堂、参照)
 こうした反対論、慎重論にも十分耳を傾ける必要がある。「子ども基本法」の研究会が、子どもを「権利行使の主体」と捉え、国連の委員会に働きかけて対日勧告を出させた日本の国連NGO団体の幹部を招いてヒアリングしていることが事態の深刻さを物語っている。
 同団体の中核は日教組に事務局がある「子どもの人権連」と組織的にも財政的にも部落解放同盟が牛耳っている「反差別国際運動」(IMADR)である(拙稿「国連の『対日勧告』と反日NGOの関係についての歴史的考察」『歴史認識問題研究』第5号、参照)。
 「子ども基本法」WEBサイトに掲載されている参考文献は、同団体の関係者の著作に偏っており、「教育の論理」と「法の論理」のバランスを説く有識者の見解を無視している。

 

 

●青少年「健全育成」の視点が欠落

  前述した勉強会で提起され自民党「こども・若者」輝く未来創造本部の「こどもまんなか」改革の実現に向けた緊急決議に、文化マルクス主義の「グローバル性革命」思想に基づく「包括的性教育」の事例を「参考にすべきである」と明記されたことも問題である。
 同決議が「子どもの権利条約を基盤」とした「こどもまんなか」という理念を掲げている点にも誤った子ども中心主義から脱却できないのではないかという疑念が残る。
 目先の利益を否定し自らを抑制しうる「人格」を育てることが、「子どもの最善の利益」につながる。学校は子どもの「自立」を目指して、「他律」によって「自律」へと導く“逆説的”な「教育の論理」で子どもを育成する組織であり、教育の任務は子どもを「人権」の正当な行使者に育てていくことにあり、「人権」と「人格」はセットで捉える必要がある。
 かつて政府の「次代を担う青少年を育てる有識者会議」が提言に盛り込んだ「地獄への道は『善意』で敷き詰められている」というヨーロッパの格言の「健全育成」の視点が「こどもまんなか」の理念には欠落しているのではないか。
 筆者は旧自治省の青少年健全育成調査研究委員会の座長を務めたが、青少年「健全育成」の考え方には、⑴保護・育成⑵教育・指導⑶感化⑷矯正の視点が含まれているが、こうした包括的な「健全育成」の視点から「子どもの最善の利益」「子どもの権利」について考える必要があるのではないか。

 

 

●「グローバル性革命」という「新しい全体主義」

 ガブリエル・クビ―『グローバル性革命一自由の名によって自由を破壊する』によれば、1960年代以降、国連やメディアの支援の下、社会の価値システムを変化させようとする強力なロビー活動が展開され、その目標は「道徳的制約から解放された絶対的な自由」であったという。
 性的少数者のために「性的規範」を解体し、その結果、「健康な社会を可能にする家族の価値が奪われてしまった」のである。「性別のアイデンティティを破壊することや性行為に関する倫理基準をすべて破壊することを目的とするジェンダーイデオロギー」を急進的フェミニストたちが作り出し、「ジェンダー主流化」という新しいジェンダーイデオロギーが「政界と学術界において堅固に据えられ、人々の背後において作用している」という。
 「グローバル性革命」という「新しい全体主義」が台頭し、「統一されたアジェンダを追求するグロ一バルネットワークが存在していることは明らかである」と著者は断言し、次のように指摘している。
 新マルクス主義(文化マルクス主義)という「新たな衣を着て、歪曲された自由、寛容、正義、平等、差別禁止、多様性という名の殻をかぶって再登場している。これは世界的な現象であり、国際機関(国連)で行われている影響力のあるロビー活動によって主導されている。このようなグローバル文化革命の核心は性規範の解体である。それは社会構造を解体し、社会的な混乱を引き起こすのである」
 マルクス主義フェミニズムの急先鋒である上野千鶴子は1985年と1990年に「マルクス主義フェミニズム」に関する著作を出版し、日本学術会議ジェンダー分科会委員長として、ジェンダー学の構築と普及に努めてきた。
 国連の委員会に働きかけて対日勧告を出させ、「こども庁」創設、「子ども基本法」制定を企てている人たちの背後で暗躍する「新しい全体主義」者たちの巧妙な文化革命戦略に騙されてはならない。
 「選択的夫婦別姓」「LGBT理解増進法」「子ども基本法」「こども庁」の底流にある「新しい全体主義」を一掃し、地球上の生命、文明の歴史の中で、人間の男女の存在の意味を根源的に問い直し、保守政治家たちを巧妙に巻き込みつつある、この特殊なジェンダーイデオロギーの正体を明らかにし、この思想を乗り越える知的戦略を練る必要がある。
 男女の違いを共に活かし合い、補い合って新たな秩序を共に創っていく【共活・共創】の男女共同参画社会の実現こそが時代の要請である。今秋に「ジェンダー問題研究会」を立ち上げ、共同研究を積み重ねて、その成果を世に問いたい。

(令和3年9月13日)

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