西岡 力

西岡 力 – 道徳と研究20 拙著『でっちあげの徴用工問題』韓国語版の翻訳者と出版社代表が日本研究賞特別賞を受賞

西岡力

モラロジー道徳教育財団教授

麗澤大学客員教授

 

●国家基本問題研究所より、李宇衍博士と黃意元氏に日本研究賞特別賞授与

 今回はうれしい報告を書きたい。

 本欄でも取り上げたが、拙著『でっちあげの徴用工問題』(草思社)が韓国語に全訳され、昨年12月、韓国で出版された。その翻訳と出版を公益財団法人国家基本問題研究所が「勇気ある行動」だと高く評価し、翻訳を行った李宇衍博士と、出版をした黃意元メディア・ウォッチ代表に同研究所が主宰している第8回日本研究賞の特別賞を授与したのだ。

 7月13日に授賞式が行われた。残念ながら、中国武漢発コロナウイルスのためにリモートでの授賞式になった。

 まず、日本研究賞事業がどのような趣旨で行われているのか、国家基本問題研究所の櫻井よしこ理事長の言葉を紹介したい。

 私たちは日本国の基本をゆるぎなく立て直し、本来の日本らしい姿を取り戻したいとの思いで2007年に国家基本問題研究所を創立した。(略)志を実現するには国際社会の日本理解を深め、諸国との相互尊重を確立することが欠かせない。だが、現実は私たちの願いから程遠く、多くの点で日本は誤解されている。とりわけ歴史問題に関する誤解は根深く、その誤解の壁は現在も私たちの前に立ちはだかる。日本と価値観を同じくする西側諸国でさえも、必ずしも、例外ではない。

 誤解を解くのに一番よいのは、外国の人々に日本を知ってもらうことであり、なんとか日本研究の人材を育てたいと考えて(略)創設したのが日本研究賞である。

 同賞に托す私たちの願いは、日本の姿、歴史、文化、文明、政治、戦争、価値観のすべてを、二十一世紀を担う国際社会の研究者に極めてもらうことだ。日本研究賞が自由かつ誠実な日本研究を進める一助となれば、それは私たちにとっての大いなる喜びである。

 成功も失敗も含めて日本のありのままを研究してもらえれば、そこから生まれる評価は肯定的否定的とを問わず、自ずと偏見の壁を打ち破るはずだ。学問的誠実さに裏づけられた研究は、その全てが私たちにとっても貴重な学びとなるはずだ。

 ここで櫻井理事長が「とりわけ歴史問題に関する誤解は根深く、その誤解の壁は現在も私たちの前に立ちはだかる。日本と価値観を同じくする西側諸国でさえも、必ずしも、例外ではない。」と言っていることに注目した。歴史認識問題における国際社会の誤解を解くには、外国人にありのままの日本を研究してもらうことだ、という信念が、日本研究賞に込められていることが分かる。だから、受賞者の条件は、帰化した1世を含む外国人だ。

 

 

●「翻訳者と出版社の勇気を評価すべき」

 同研究所の田久保忠衛副理事長は第8回の日本研究賞特別賞に拙著を翻訳した李宇衍氏と翻訳書を出版した黃意元氏が選ばれた理由について、次のように明らかにしている。

 第八回「国基研 日本研究賞」の特別賞に韓国人の翻訳者と出版社が決まるという異例の決定となった。原本は『でっちあげの徴用工問題』(西岡力著、草思社)で、翻訳者は落星台経済研究所研究員の李宇衍氏、出版社は、ネットニュース媒体のメディアウォッチ(代表理事 黄意元氏)だ。

『でっちあげの徴用工問題』は、2018年韓国大法院が新日鉄住金(昨年日本製鉄に商号変更)に対して朝鮮人元戦時労働者らに一人1億ウォン(約1000万円)の慰謝料を支払えとするとんでもない判決を下したのに対し、理論的、実証的に完膚なきまでにウソを暴いた名著だ。本来ならばこの書物が受賞の対象となって不思議はないが、著者の西岡氏は国基研の評議員で企画委員でもあるので、受賞辞退という結果になりかねない。

 であれば、戦後最悪といわれている現在の日韓関係の中で、「反日」の言動が英雄視され、いささかでも日本の主張の正しさを指摘する余地のない韓国内の言論状況の中で、西岡氏の著書の全文を韓国語に訳して、国内で出版しようという翻訳者と出版社の勇気を評価すべきではないか。それは間接的にではあるが原本の意義を高めることになるのではないか、との空気が選考委員会に強まったと思われる。

 実は、昨年拙著を韓国で翻訳出版したいという提案を李宇衍氏と黃意元氏からもらったとき、私は反対した。韓国の現在の状況で、歴史を反省していない悪い日本人の代表のように非難されている私の本、特に、日韓歴史問題に関する本の翻訳出版をすれば、それを行う翻訳者と出版社代表に「親日派」「日本の極右の手先」などという誹謗中傷が激しく集中することは間違いない。危険すぎるということが私の反対理由だった。

 それに対して、李宇衍氏と黃意元氏は、「確かにリスクはあるが現段階で事実に基づく日本の専門家の主張を韓国で紹介するメリットの方がそのリスクよりも大きいと判断する。韓国の心ある人々に日韓歴史問題の真実を伝えることは大切だ。そのために自分たちが不利益を被るだろうが、その不利益より韓国と韓国国民が先生の本の韓国語版を読むことによって韓国と韓国民が得る利益の方が必ず大きいと信じているので翻訳出版したい」と、その覚悟を語った。

 そこまで言われたら、私はその勇気に心を打たれ翻訳出版を承知せざるを得なかった。彼らは真の愛国者だと私は感動した。

 そのとき2人はなんと、戦時労働者問題だけでなくより民族感情を刺激しやすい慰安婦問題についても、拙著『よくわかる慰安婦問題』(草思社)を2冊目で翻訳出版したいとまで語った。実際、今年4月に『よくわかる慰安婦問題』も李宇衍翻訳、黃意元代表のメディア・ウォッチから韓国語版が出版された。

 彼らの勇気がまさに日本研究賞特別賞受賞の理由になったのだ。だから、受賞の話を聞いて私もとてもうれしかった。

 

 

●「(日韓歴史認識問題は)日本から始まって韓国に伝播し、韓国の左派たちを鼓舞して、韓国人たちの反日感情に火をつけた」

 李宇衍氏は受賞の所感を次のように書いている。

 今韓国の状況は暗澹としています。現政権の政治・経済的失敗とともに、対外的な国防・外交政策は亡国の影を落とし深い懸念をかき立てます。

 このような憂鬱の中でもこの賞を受賞することは、やはり嬉しいことです。なぜなら日本側の国家基本問題研究所が賞を与え、そして韓国側の黃意元氏と私、本人が賞を受けることは、日本と韓国の自由右派による日本と韓国の自虐史観に対する共同闘争の出発、歴史戦争の宣戦布告となるからです。

 黄意元氏と私が『でっち上げの徴用工問題』の韓国語版の出版を計画する際、私たちはまず韓国と日本の自由右派が意見を交換し討論する必要があることを痛感しました。それが共同闘争の思想的基礎であるにもかかわらず、日本側の研究成果が韓国側には全く知られていなかったからです。

 文在寅政府の下で2015年の慰安婦問題に対する韓日合意が事実上無効化されて、韓日関係の基礎である1965年の韓日協定が2018年の韓国大法院の戦時労働者(徴用工)判決により否定されたことに伴い、両国の関係は前例のないほど危うくなっています。このような状況で、日本の自由右派の研究が、韓国で翻訳すらされていないという事実は、実に嘆かわしいことでした。(略)

 最近の私の「反感」は、日本各界の「自虐史観」の主唱者たちに向かっていることを告白します。2016年に「戦時期(1937~1945)日本に労務動員された朝鮮人炭鉱夫の賃金と民族間の格差」という論文を発表し、現在は慰安婦問題を研究していて、韓日間の歴史問題をめぐる葛藤を代表するこの二つの問題が、韓国ではなく、日本から始まって韓国に伝播し、韓国の左派たちを鼓舞して、韓国人たちの反日感情に火をつけたという事実を詳しく知るにいたったからです。これについては、『でっち上げの徴用工問題』の著者である西岡力先生の教えが大きかったです。

 韓国の研究者として、私は韓国の自虐史観だけでなく、日本のそれとも戦わなければならないのです。日本の自由右派の研究者たちも同じだと思います。

 戦線が広くなりました。一か所だけで戦っては勝利できなくなりました。韓日の自由右派の連帯を広げ、強化しなければなりません。黄意元氏と私の受賞がそのための良い出発点であると思っております。

 李宇衍氏がここで戦時労働者問題と慰安婦問題が「韓国ではなく、日本から始まって韓国に伝播し、韓国の左派たちを鼓舞して、韓国人たちの反日感情に火をつけたという事実を詳しく知るにいたった」「私は韓国の自虐史観だけでなく、日本のそれとも戦わなければならないのです。日本の自由右派の研究者たちも同じだと思います。戦線が広くなりました。一か所だけで戦っては勝利できなくなりました。韓日の自由右派の連帯を広げ、強化しなければなりません」と書いていることに注目したい。

 私は1992年、慰安婦問題について最初の論文を書いて以来、一貫してここで李宇衍氏が書いていることを主張してきた。日韓歴史認識問題の本質は、ジャパン対コリアの対立ではなく、真実とウソの戦い、具体的には日韓の真実を主張する勢力と日韓のウソを拡散する勢力の戦いだとうことが私の持論だ。それを韓国の若い学者が堂々と主張していることに心からの敬意を表したい。

 

 

●「一国の知識人が隣の国に対して犯罪的議論をしている国に未来はない」

 黃意元氏は授賞式にあたり次のように挨拶した。事前に準備された素晴らしい内容だったのでほぼ全文を拙訳で紹介する。

 いつか、中国の民主化運動家、劉暁波先生がこう語っていました。「西欧化を選択するということは、人間になることを選択するということだ」。

 私は今、韓国社会で親日を選択するということも劉暁波先生がおっしゃったことと似ている面があると思います。ただし、西岡力教授がよくお話しているように、私は厳格に言えば、親日派ではない、アンチ反日派です。

 考えてみれば、この日本という国は、わざわざ私のような者が前に出なくても、誰かに攻撃されたら十分に自分を論理的に知的に防御でき、また自分がやられたものの何倍の報復をやり返す能力もある国でした。

 結局、私が心配するのは、日本ではなく、最近特に全てのことを民族的、種族的感情で外交安保問題を扱おうとするわが祖国、大韓民国です。

 反日でもいいし、反中でもいいし、反米でもいいです。しかし、絶対に人類普遍の価値である自由、人権、法治の価値を無視してはならず、特に嘘をついてはいけません。

 問題は、唯一韓国の言論界と出版界に日本と関連して数十年間このような原則がなかったことです。私は一国の知識人がこのように隣の国に対して犯罪的議論をしている国に未来はない、という考えを持って、このような風土に抵抗をしてきました。

 正直、私はそんな抵抗活動をしながら、特に日本のためだ、日本人のためだ、という考えを頭の中で持ったことがありません。それにもかかわらず、このように日本の名誉と関連した権威ある賞をいただいていいのか、少し恥ずかしいです。

 ただ、人類普遍の価値を志向し真実を尊重したならば、自国を愛し自国の国民を愛することも、すべての国と全人類を愛することと同じになるのではないでしょうか。

 そういう気持ちで、この賞をもらいます。ありがとうございます。

 李宇衍氏は1966年生まれ、黃意元1977年生まれ、まさに若い世代の日本理解者だ。歴史の真実を媒介にした彼らとのきずなをより一層強めていこうと決意している。

 

(令和3年7月17日)

 

西岡 力教授 新刊のお知らせ

『体験的コリアン論』(仮題)
 拉致問題、慰安婦、徴用工問題の事実関係と双方の政府の対応、当事者たちの行動・心情を追いながら、拉致問題が平和・日本のわれわれに問いかけるものは何か、日本政府の外交の何が問題なのか、守るべき道義とは何かを浮き彫りにする。
 拉致問題を知らない若者にもわかりやすく、道義国家たるべき日本のあり方を考える一冊として、筆者渾身の書下ろしで出版。
●10月下旬発行予定。

 


 

 

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