髙橋 史朗

髙橋史朗 40 – 家族・結婚制度の解体化の背景

髙橋史朗

モラロジー道徳教育財団道徳科学研究所教授

麗澤大学大学院客員教授

 

 

●モラロジー青年の歴史的使命

 4月から東京都モラロジー協議会主催で,「髙橋史朗と共に学ぶ青年の会」(略称「YLT」)を麗澤大学東京研究センターで開催している。オンライン参加を含めて、約30名の参加者に対して年内に7回の講演を行うとともに、討論会も7回、合計14回開催する予定である。

 第1回目のテーマは「『不滅の法燈』に『新しい油』を注ぐ――モラロジー道徳教育財団の新たな地平を切り拓く――」であったが、このテーマを選んだ理由、グローバル化の中で、このテーマで青年に考えてほしいことは何か、青年の歴史的使命は何か、という質問が寄せられた。

 2回目の講演はこの質問に答えることに焦点を当てた。モラロジーを学ぶ青年の歴史的使命は、①「伝統」(諸恩人の系列)のバトンを受け継いで、次世代につなぐこと,②「道義国家」日本の文化・伝統・歴史の真実を世界に発信し、日本と世界をつなぐこと、③縦軸の「不易」な価値と横軸の「流行」の価値をつなぐことで、共通するキーワードは「つなぐ」「結ぶ」である。

 道徳についても、「伝統」を受け継ぎ、「義務先行」を第一とするという「国民としての国家生活」にかかわる縦軸の道徳と、人権など「個人としての社会生活」にかかわる横軸の道徳をつなぎ結ぶことが時代の要請といえよう。

 では一体なぜ「新しい油」を注ぐ必要があるのか。それは時代の変化とともに、グローバル化が進み、「道義国家日本」の基盤となってきた家庭・家族の絆が大きく揺らぎ始め、結婚・家族制度の解体化が進行し、子育て文化が危機に瀕しているからである。以下、この点に焦点を当てて考えたい。

 

 

●コロナ禍の家族危機の現状

 まずコロナ禍の家族危機の現状を直視すると、昨年度の文科省委託調査によれば、「悩みや不安をいつも感じている」母親は17%、父親は10%、「悩みや不安をたまに感じる」母親は59%、父親は52%に及んでおり、親の悩みや不安が増大している。

 子供を通じた地域とのかかわりも減少の一途をたどり、子育ての孤立化が加速している。ちなみに平成28年と令和2年の統計を比較すると、「子供の送迎で挨拶する人がいる」は44%から38%に、「子供の悩みを相談できる人がいる」は34%から28%に、「子供を預けられる人がいる」は36%から23%に、「子供を叱り、注意してくれる人がいる」は25%から19%に減少している。一方、「子供を通じて関わっている人はいない」は、24%から28%に増えている。

 親子・夫婦の絆の崩壊が進行し、家族の崩壊が加速している点に注目する必要がある。私が生まれた70年前は新生児数は270万人であったが、今年度の新生児数は80万人弱と激減している。家庭の小規模化が進み、全国平均は2.39人、東京都は1.96人で、70年前の5人と比べると急速な少子化の波が押し寄せている。百年後には明治維新当時の人口になるという予測もある。

 児童虐待の相談は19万件、DV(家庭内暴力)相談は13万件、不登校は23万件で、いずれも過去最多である。また、「ヤングケアラー」と呼ばれている「家族にケアを必要とする人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポート等を行っている18歳未満の子供」が急増するという新たな問題が生じている。その背景には一体どのような事情があるのか。

 晩婚化や35歳以上の初産の増加などの影響により、子供が成人を迎える前に親が病気などで倒れ、要介護状態になるというケースが増えている。もし両親のどちらかがいないか忙しい場合、子供が介護せざるをえない。また、要介護状態の祖父母と同居し、親が忙しいために子供が引き受ける状況も広がっている。

 4年前の調査によれば、家族を介護する15~19歳は全国で3万7100人と推計されており、半数近くが「ほぼ毎日」家族の介護があると回答している(日本ケアラー連盟『高校生ヤングケアラー調査報告』)。同報告によれば、子供の介護が学校生活に与える影響度の高い順は、欠席、学力低下、遅刻、宿題忘れ、忘れ物、衛生面、友人関係、栄養面となっている。

 

 

●結婚したくても結婚できない「結婚困難社会」

 次に、わが国の「結婚困難社会」への動向とその背景について、山田昌弘『結婚不要社会』(朝日新書、令和元年)を参考に考察したい。民法は731条で「男は、18歳に、女は、16歳にならなければ、婚姻をすることができない」と規定し、この年齢に達しなければ当事者同士が合意したとしても認められない。また、同750条は「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫または妻の氏を称する」と定め、男女の夫婦を想定している。

 さらに、同734条は「直系血族又は三親等内の傍系血族の間では、婚姻をすることはできない」と規定し、近親婚を禁止している。また、同732条で「配偶者のある者は、重ねて婚姻をすることができない」と、重婚も禁止している。同736条によれば、養子とその配偶者、その子供とその配偶者は、養親やその親と結婚できない。

 こうした民法の規定の背景には、わが国の伝統的な家族道徳があると思われる。モラロジーの教えもこの伝統的な家族道徳を基盤としている。しかし、こうした家族倫理を解体化する結婚制度の危機が迫っている。平成31年のNHKの「日本人の意識」調査によれば、「結婚は必ずしも必要ない」と68%が答えている。なぜこのような結婚に対する否定的な考えが広まったのであろうか。この点について考えてみたい。

 欧米では1960年代から始まった「性革命」によって、「性の自由化」すなわち「性の自己決定権」(自らの性、性行為について自己選択・自己決定できる権利)が強調されるようになり、結婚と親密性が切り離されて、同棲カップルや事実婚が増え、結婚しなくても子供を産み育てられる制度を構築する形で少子化を克服する「結婚不要社会」へと進んでいる。

 後述するように、この「性革命」はわが国の教育界を初めとする各界各層に急速に広がりつつあるが、同棲に対して結婚に近い法的保護を与えているフランスやスウェーデン等とは異なる結婚制度のわが国では、経済の低成長に端を発する「結婚したくても結婚できない」若者が増える「結婚困難社会」という独自の問題に直面している。

 

 

●近代的結婚の矛盾と「結婚相手に求める条件」の男女差

 近代的結婚はお互いの愛情が一生続く親密性と経済的安定という二条件に基づいており、結婚や出産は「個人の自由」であり、自己選択・自己決定できるが、この二つの条件を満たす相手になかなか出会うことが難しくなり、恋愛と経済生活が矛盾する「結婚困難社会」になりつつある。今日の「結婚困難社会」の到来は、結婚や出産は「個人の自由」であるが、社会全体は結婚や出産に依存しているという近代的結婚の矛盾の産物といえよう。

 若者が結婚相手に求める条件に関するアンケート調査(女性月刊誌『JJ』の調査「JJ世代の結婚白書2019」)によれば、「年収は気にしない」男性は64%に対して、女性は8%に過ぎず、女性の6割は「年収700万円~1000万円以上」と答えている。朝日新聞が2年半前に実施したネット調査「未婚の若者の結婚観」によれば、「結婚相手に譲れぬ条件」として、72%の女性が「収入」と答え、女性の63%が「400万円以上」と答え、「収入は関係ない」と答えた女性は19%、男性は64%であった。

 男性は女性の年収は気にしないが、子供を産んで育てられる「年齢」が結婚相手に求める最大の条件となっている。この「結婚相手に求める条件」の男女差が未婚化の最大のネックになっているのである。

 近年親と同居する「パラサイト・シングル(寄生する独身)」が増えているが、これは経済問題の先送りに過ぎないので、20~30年後には破綻が予想されており、今は収入が低くても結婚しなくても、親と同居していれば経済的負担が少なく自由時間も多いが、やがて貧困に陥り、親子共倒れ寸前になると、NHK[クローズアップ現代+]取材班『アラフォー・クライシス』は警告している。

 結婚相手がいなくても親密性を満足させる仕組みも社会に広がりつつある。キャバクラやメイドカフェ、風俗店やポルノ、漫画やアニメなどによって性的欲求を満たす装置が蔓延していることも大きな影響を及ぼしていると思われる。

 

 

●「離婚の自由化」と若年雇用の不安定化

 山田昌弘教授によれば、欧米で始まった「性革命」はフェミニズムの運動と連動しており、「女性の性意識の解放」をターゲットにして、女性は男性の性欲を満足させる道具ではなく主体的・積極的に性的快楽を求めても構わないと強調した(江原由美子『女性解放という思想』勁草書房、平成9年、参照)。

 1960年代には、アメリカの多くの州で離婚が禁止されていたが、「離婚の自由化」を求める運動が全米に浸透し、フェミニズム運動に立脚する「性革命」によって、愛情を持って性関係を楽しむために、結婚というかたちをとる必要がなくなった。すなわち、愛情を実現するうえで「結婚不要社会」になってしまったわけである。

 さらに、離婚の自由化によって、結婚が必ずしも親密な関係や性関係の永続を保証しなくなり、結婚と親密性が切り離される時代に突入した。結婚制度の解体化に大きな影響を与えた二大要因は、「性革命」と経済の質的変化の帰結としての「若年雇用の不安定化」であった。

 アメリカの労働経済学者、ロバート・B・ライシュは『勝者の代償――ニューエコノミーの深淵と未来』(東洋経済新報社、平成14年)の中で、「雇用が不安定化して安定収入が得られなくなる」という、ニューエコノミーの負の側面を強調したが、日本ではこの傾向が1990年代以降、顕著になり「未婚化」「晩婚化」「非婚化」につながった。

 

 

●「性革命」を目指す「急進的性教育」

 全国組織である人間と性教育研究協議会(性教協)を中核とする急進的性教育グループが「性革命」を目指す「過激な性教育」を行っていることが国会で問題になり、平成15年7月14日の国会で小泉首相が「行き過ぎであり、考え直す必要がある」と答弁した(拙著『間違いだらけの急進的性教育』黎明書房、平成6年、同『これで子供は本当に育つのか――過激な性教育とジェンダーフリーに実態』MOKU出版、平成19年、参照)。

 月刊誌『文藝春秋』と『週刊文春』で、「性的自立」を最重要視する急進的性教育の狙いは「性革命」にあることを、教師用指導書に明記された「歴史に現れる最初の階級闘争は男性による女性の抑圧」であり、「家族制度は男が女を支配する奴隷制度」などと捉えたエンゲルスの『家族・私有財産・国家の起源』等々の文献を引用しながら詳述したことが、大きな反響を呼び起こした。

 性教協の教祖的存在である山本直英は、『性教育ノススメ――“下半身症候群”からの脱出』(大月書店、昭和61年)において、「いつ誰とどんな状況で性交するかはまったくその人の生き方であって、人から指示されたり規制されることのない主体性にかかっている」と、「性的自立」の意味を解説している。

 その一方で、「男と女とは、たとえ結婚に結びつかなくても、婚前でも、婚外でも、たとえ親子の不倫でも、師弟でも、まさに階級や身分や制度を超えて愛し合うことが可能なのである」と本音を吐露している。

 『性の弁証法』の著者であるカナダのフェミニスト、シュラミス・ファイアストーンは、エンゲルスの著書を援用し、女性解放には女性が生殖コントロール権を握り、「家族の消滅」が必要と説いた。

 

 

●ビデオ監修・制作したアメリカの性教育現場

 麗澤大学のジェイソン・モーガン准教授によれば、アメリカの教育現場にもこの新マルクス主義が持ち込まれ、カリフォルニア州では、新たに避妊や性転換などを含む性教育を義務付ける法律が導入され、幼稚園児に男女の区別は自分で決めていいと教え、小学校では性交の仕方を詳しく説明し、多くの保護者が教科書を「ポルノマガジン」と形容するという(産経新聞令和2年11月4日付『正論』「行き過ぎた男女否定教育の末路」参照)。

 急進的性教育が最重要視した「性的自立」「性の自己決定権」は今日ではほとんどの高校家庭科教科書に掲載されているが、「女性の性の自己決定権」については、1995年に北京で開催された第4回世界女性会議で69か国が反対を表明し、「性的権利」についても40か国が反対を表明しており、国際的には合意が形成されていない。来年度から使用される高校教科書の問題点については、本連載34の拙稿を参照されたい。

 私は半年かけてアメリカのエイズ・性教育に関する教科書、教材、学術論文、雑誌論文、新聞記事などを段ボール2箱分集めて精読し、その資料に基づいてアメリカの教育現場の現地取材を行い、『どうする? エイズ・性教育――アメリカの教育現場から』というビデオを監修・制作(製作費は約500万円)し、フジテレビの夜のニュース番組で詳しく取り上げていただいた。その内容は拙著『間違いだらけの急進的性教育』でも紹介しているので、是非一読してほしい。

 

(令和3年6月15日)

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