山岡鉄秀 – 道徳二元論のすすめ12-下を向く日本人と横を向くドイツ人
山岡鉄秀
モラロジー研究所 研究センター研究員
●なぜ「韓国系市民団体」の主張を認めたのか
日本人はドイツ人に対して、漠然と好印象を持って来ました。その理由のひとつとして、日本人とドイツ人には類似性がある、という思い込みがあります。
勤勉
まじめ
清潔
どこか気脈が通じるという期待感。
はっきり言って、そういう幻想はもう捨てたほうがよいでしょう。
むしろ、日本人とドイツ人の根本的な違いを理解しておくことが、将来の友好に繋がるでしょう。
2020年9月25日、ドイツの首都ベルリンに慰安婦像が建ってしまいました。
これで3体目ということですが、先の2体は私有地。今回は首都ベルリンの中心街ですから、重みが全然違います。人通りが賑やかな交差点近くにあり、日本大使館から2.8キロしか離れていません。
当然ながら、自治体が認可したことになります。像の設置を推進していたのは、1990年設立、2008年ごろからベルリンで活動を始めた「コリア協議会」という韓国系市民団体で、例によって、慰安婦問題は日韓の二国間の問題ではなく、女性の人権に関わる普遍的な問題だと主張し、無関係の第三国を巻き込もうとしてきました。その甲斐あって、今回の慰安婦像は、今年の初めには既にベルリン都市空間文化委員会の審査を通過していたそうです。
それにしても、なぜドイツ人が韓国人の肩を持って、わざわざ公有地に慰安婦像を建てたりするのでしょうか?
さらに、これまでの日韓の論争や、歴史的事実の検証を完全に無視し、韓国側の一方的な主張を記載した、次の碑文の設置まで許可しています。
“平和の像
第2次世界大戦中、日本軍は数えきれない数の少女、女性をアジア太平地域から拉致し、強制的に性奴隷にしました。この平和の像はこれらの慰安婦と呼ばれる女性たちの苦しみを記憶するものです。1991年8月14日に沈黙を破った勇気ある被害者をたたえ、このような残虐行為が世界に二度と起こらぬよう求めるものです”
朝日新聞が慰安婦の数を8万人から20万人と誤報し、その後20万人という言葉が独り歩きしましたが、今回のベルリン・バージョンはなんと、「数えきれない数の少女と女性が拉致された」と誇張されています。
ドイツ人はなぜこんないい加減な主張を鵜呑みにして、公有地に掲げることを許すのでしょうか?
実はそこには、ドイツ人の深い心の闇があります。
ナチスドイツという十字架を背負うドイツ人は、すべての悪行をナチスに押し付けながら、戦争犯罪の観点から、日本人だけは自分たちより残虐な民族で、非難できると信じ、また、そうすることで自らを癒そうとしているのです。
●美しく潔癖でなければならない民族と日本人
さて、ここで日本人とドイツ人の類似点と相違点を考えてみましょう。
日本もドイツも、戦場において兵士による性犯罪の発生と性病の蔓延を防がなくてはならないと考えました(これはどの国の軍隊も同じでした)。
日本もドイツも、兵士向けの売春施設が必要で、軍が管理する必要があると考えました。
ここまでは同じです。しかし、だから似ていると思ったら大間違いです。ここからが全然違うのです。
日本は、民間業者が運営し、慰安婦の健康管理や輸送を軍が行い、また、女性が一方的に搾取されないように法律や規則をつくり、前払いの借金返済が終わったら辞められるようにしました。
一方、ドイツは、まず女性を犯罪者に仕立て上げ、女性用の収容所に強制的に収容しました。
誇り高きゲルマン民族にとって、売春業を営むドイツ人女性など、あってはならない存在なので、犯罪者として収容しました。さらに、態度が非社会的(当時の期待される規範から外れている)と見なされたり、ナチスの政策に非従順な女性、ユダヤ人男性と関係を持った女性も犯罪者として収容されました。
ゲルマン民族は美しく潔癖でなくてはならなかったのです。
しかし、売春を悪と見なし、根絶しようとしたかというと、そうではなく、犯罪者に与えられた仕事として利用しようとしました。どういうことでしょうか?
ドイツは成人男性が戦場に赴くことで不足する労働力を、外国人の強制労働で補おうとしました。
まず考えたことは、外国人労働者(たとえばポーランド人)の男女比をできるだけイーブンに揃えることです。男性が多くなってしまい、外国人男性がドイツ人女性と交流してしまう危険を低く抑えたかったのです。
それが不可能な場合は、強制労働に奉じる外国人男性向けの売春所の設置を行いました。
また、犯罪者を囚人として収容し、強制労働をさせる収容所にも売春所を設置しました。
なんとドイツ当局は、模範的な労働者に褒賞として売春所に行く権利を与えることで、労働者に動機づけし、生産性を高めることができると考えたのです。
そして、それらの売春所で働かされたのは、先述した女性用強制収容所に収容されていた女性たちでした。
彼女たちは、女性看守や将校たちに値踏みされ、選別されていきました。
上級とされた女性たちは、ナチ親衛隊(SS)用の売春所に配属されました。
ユダヤ人強制収容所から売春用に召集されたユダヤ人女性は、酷使された後に処刑されたケースもありました。
このように、自らの圧倒的民族的優位性を信じるドイツ人は、劣ると見なす異民族や、ゲルマンの名に値しない犯罪者の女性たちを売春に有効活用しようとしたのです。
これがドイツ人の合理主義です。
●冷酷な国が日本を糾弾しようとしている……
日本軍の慰安婦の多数を占めていたのは日本人女性であり、彼女たちは犯罪者ではありませんでした。韓国人女性も慰安婦になりましたが、彼女たちは当時日本人でした。
要するに、日本の慰安婦制度は、民間の売春業を軍隊用に利用しただけであり、強制労働の褒賞にしようなどという発想はなかったのです。一部に犯罪的行為がありましたが、それは制度的なものではなく、当時においても犯罪でした。
日本人にとって、慰安婦は同志でもあり、多くは同じ民族。
ドイツ人にとって、売春は犯罪者や異民族にやらせるものであり、売春に携わる者は絶滅すべき対象。
戦時売春をとってみても、日独ではこんなにも違うのです。
そして、文字通り女性を搾取し、人権を踏みにじった冷酷なドイツが、日本を最悪の戦争犯罪国として糾弾しようとするのが、今回ベルリンに建てられた慰安婦像なのです。
どんなに理不尽な批判をされ、事実をねつ造されて糾弾されても、ひたすら下を向いて謝り続ける日本人。
自分たちがしたことを棚に上げて、横を向いて他人を貶めて自らを癒そうとするドイツ人。
この恐ろしい不道徳を日本政府は絶対に許してはなりません。そして、日本人とドイツ人が相通じるなどという、甘い幻想は捨てるべきだ、と私は思うのです。
参考文献:
『ナチズムと強制売春‐強制収容所特別棟の女性たち』Christa Paul著 明石書店
(令和2年10月7日)
追記(令和2年10月9日):
ドイツの首都ベルリン中心部で先月、韓国系市民団体が中心となって慰安婦像を設置した問題で、像が置かれた地区当局は8日、同団体に1年に限って出していた設置許可を取り消し、今月14日までに撤去するよう求めたと発表した。(産経新聞 10/9 配信)
なお、コリア協議会は碑文の内容を隠して申請していたとも言われている。
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