エッセイ

忍足卓行 – 産業遺産情報センター――次世代に伝えていくこと

 

 平成27年7月、ユネスコ世界遺産委員会において、製鉄・製鋼、造船、石炭産業を中心とした「明治日本の産業革命遺産」が世界文化遺産として登録されました。その産業遺産に関する情報発信を行うことを目的として、令和2年3月31日に産業遺産情報センターが開所。その後、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、臨時休館していましたが、6月15日より一般公開が始まりました。

 江戸から明治へという近代化の歴史を語るうえで世界からも注目されている日本の産業革命。その発展の足跡がどのように残されているのか、またその内容について詳しく知ることができるこの施設は、歴史好きのみならず、一度は訪れたい場所です。

 同センターは、前内閣官房参与の加藤康子氏がセンター長を務めています。世界遺産登録に際し、産業遺産の一部である端島(通称:軍艦島。長崎県長崎市)における歴史が、韓国政府の強烈なプロパガンダ戦と反対運動に晒されました。そこで加藤氏は、端島の元島民70人以上にお会いし、一人ひとりから数時間から数十時間にわたって証言を聴取されました。その並々ならぬ努力が結実し、史実の情報発信基地となっているのが同センターです。

 今回、私は同センターにて見聞してきたことをレポートしてみたいと思います。

 

韮山反射炉(静岡県)

 

●日本の産業史のダイナミズム

 明治維新で忽然と日本は近代化したかのように思っていたのですが、実はその萌芽は江戸時代にすでに存在していました。

 私たちの先人・先輩は、悠久の時間をかけて独自の技術を生み出し、江戸時代末期に西洋の技術の模倣を経て、明治以降の産業基盤を成立させました。それは、アジアの国々の中で唯一、西洋列強の植民地になることなく、成し遂げた奇跡と言ってもよいものでしょう。開国から約50年で近代化したという世界史上類を見ない歴史が、同センターの展示から詳しく学ぶことができます。

 足踏みふいごを使う日本古来の「たたら製鉄法」で鉄を生産していたが、いきなり反射炉を建造して大砲づくりをはじめてしまう。アメリカから黒船がやってくれば見様見真似で蒸気船をつくってしまう。そして、船舶の巨大化に伴って蒸気動力から電気動力へ転換。このダイナミックさに驚かされるばかりです。

 こうした製鉄・製鋼、造船の歴史の変遷に触れた後、石炭産業の展示が行われているゾーン3へと移動しました。

 

端島・通称“軍艦島”(長崎県)

 

●元島民の方の証言を伺って

 ゾーン3では、明治時代から昭和時代にかけて海底炭鉱によって栄えた“軍艦島”(端島・長崎県長崎市)についての展示。貴重な映像や書物が集められ、また元島民の方々がガイドをしてくださいました。軍艦島が炭鉱として日本を支えていた時代を知る元島民の方のお話は、第一級の史料です。詳しいお話を伺っている時に頭をよぎったのは、世界遺産登録時に他国から寄せられたクレームのことでした。

 平成27(2015)年、ユネスコ世界遺産委員会において「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」が世界文化遺産として登録されると、韓国は「徴用されて軍艦島(端島)の炭鉱に送られた韓国人労働者は差別を受け、奴隷のごとく働かされて塗炭の苦しみを受けた」と主張しはじめました。そして、あろうことか『軍艦島』のタイトルで歴史的事実とは異なるフィクションを映画化し、自国の航空会社で機内映画として上映するなど、フィクションがあたかも正しい歴史であるかのように、世界中に喧伝しています。

 あまりの脚色のひどさに、軍艦島の元島民たちから反論声明が出されるほどであり、ガイドを務められている方々も首をかしげていました。

 軍艦島における朝鮮人労働者の酷使、また差別問題について日本政府は、「元住民の証言や賃金体系から、朝鮮人に対して特別な差別があったとは言えない」と結論づけています。同センターでは、その「元住人の証言」や多くの資料をつぶさに考察、事実を積み上げた情報を発信しています。

※参考:端島元島民 鈴木文雄さんの証言

 韓国の反発は先に触れたとおりですが、それに乗じて日本の一部の報道機関も「過去の事実を覆い隠し、歴史修正主義を助長するとの批判を招きそうだ」と発信しています。この「招きそうだ」という言葉はマスコミ用語で、その意味は「皆さん、騒いでください、批判してください」という訴えかけといいます。こうした報道が長い間、私たちの歴史認識を見誤らされてきました。インターネットの普及で資料が手に入りやすくなり、以前よりは真実が近づいたのかもしれませんが、故意に歪曲された歴史はいまだに多くの人に伝播し、一般民衆に認知されてしまっています。

 

 

●次世代のために真実を

 歴史は国民の財産であり、国民の精神的基盤となって活力を生み出す。また、歴史教育とは「生きる力」を与える教育であり、次代を担う子供たちが自分の生まれた国の歴史や偉大な先人の事績に学び、国民としての誇りと自覚を持つことによって、困難に負けない勇気や実行力、「生きるエネルギー」が生まれてくると言われています。

 私は両親や祖父母から、優しく温かく力強い日本の歴史について、たくさんの話を聞いて、心躍らせたものです。しかし、残念なことに、私は自虐的な戦後教育を受けてきた世代です。学校で教わったのは、日本が過去に悪いことをしてきたという歴史でした。父や兄や先輩から聞いた体験談を話しても、大多数によって私の声は打ち消されてきました。事実を口にして嘘つき呼ばわりされることほど悲しいことはありません。

 日本の負の(それも誤った)歴史をことさらクローズアップすることで、誰が得をするのでしょうか。子供たちが、歴史を学んで日本を嫌いになるような教育を受けているとしたら、どのような未来が開けるのか。誤った歴史教育によって子供たちから生きる力を奪い、私と同じような悲しい思いを味あわせたくはありません。私たちは、次世代のため、後世のため、真実を残さなければなりません。悪い連鎖はどこかで断ち切らなければ。

 たくさんの証言、資料を集め、誤った歴史を押し付けようとする勢力に史実に基づいて対抗する「産業遺産情報センター」はそのきっかけになるものだと、強く感じました。たくさんの方に足を運んで真実を見極めていただきたいと思います。

(令和2年9月23日)

 

◆産業遺産情報センター◆

https://www.ihic.jp/

 

所 在 地 : 東京都新宿区若松町19-1(総務省第二庁舎別館)
開館時間 : 10:00~17:00(一日三回のツアー形式。要事前予約)
休 館 日 : 土曜日及び日曜日、国民の祝日、年末年始(12月29日~1月3日)
入 館 料 : 無料
展示内容 : 産業遺産情報センターの主な展示内容(PDF:244KB)
交通のご案内 : 都営大江戸線「若松河田駅」から徒歩5分

 

◇展示スペースは総務省第2庁舎別館内に常設され、日本を経済大国に押し上げる礎となった重工業の発展の軌跡を解説。洋式船機材の修理技術も持たない日本が、半世紀で長崎に大型船の築造施設を建設する過程など、産業国家へと急成長する過程を写真や専門家インタビューの映像を通して紹介されています。世界遺産登録の経緯をまとめた映像も放映しています。

 

◇展示の構成
 ゾーン1 導入展示「明治日本の産業革命遺産への誘い」
 ゾーン2 メイン展示「産業国家への軌跡」
 ゾーン3 資料室

 

◇同センターは、日本初の工場群である集成館(鹿児島県)やアジア初の本格的な銑鋼一貫製鉄所である官営八幡製鉄所(福岡県)など、8県11市に分布する23の資産の情報を集約する機能を持ち、見学者には公式パンフレットや公式ガイドアプリパスポート(※)が配布されています。

 

※産業遺産のガイドや各エリアの情報などを手軽に、わかりやすく、楽しみながら参照することができます。アプリ上でARカメラを起動し、地図にかざすことで動画や写真等をみることができます。

 

参考:
内閣官房「産業遺産情報センターの開所について」

 

 

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