学校・学習

山口権治 – 新型コロナウイルス危機対応(3密)を満たした心理教育

山口権治

浜松市教育委員会教育総合支援センター

第一学院高等学校顧問

 

 

1 はじめに

  安倍晋三首相は2月27日、新型コロナウイルスの感染拡大防止を理由に全国の小中高と特別支援学校への突然の臨時休校を要請しました。その後コロナウイルスの影響が収まらず5月4日の緊急事態宣言の延長を受け、休校も延長されました。その間、感染予防措置を講じて卒業式や入学式、部分登校を行ってきましたが、全校登校が始まったのは6月1日からでした。

 3か月の休校が終わり、ステイホームを強いられていた子どもたちの中には、ゲーム、マンガなどに夢中になり不規則な生活を送っていたり、昼夜逆転の生活をしていたりした子どももいると思います。さらに年度末からの休校のため先生やクラスメートについてあまり知らないまま新学期を迎えます。人間関係に不安を感じている子どももいます。また、保護者の中には経済的にひっ迫した家庭もあるかもしれません。さらに、授業日数の確保や遅れてしまった学習を取り戻すことに不安を感じている先生方もいると思います。

 こうしたストレスフルな状況では、子どもたちのメンタルヘルスは悪化します。そのため、いじめ、暴力行為、不登校、ひきこもり、依存などのリスクも高まります。

 子どもたちのストレスを減らし、メンタルヘルスを良好にするには、仲の良い友達と一緒に遊んだり、先生に話を聞いてもらうことが一番効果があります。しかし、感染防止対策として3密の回避やマスク着用を強いられている今、それはままなりません。教師が学校でできることは、子どもたちのストレスを軽減するためにリラックスできる時間を意図的に作ること、不安への対処法、感情コントロールなどの心理教育を行うことです。

 不安や恐怖を抱え、情緒が不安定な状態では生徒たちの学習意欲は高まらず、学習効果も上がりません。学習を保証することは当然ですが、その前に子どもたちが安心して学習できる環境づくりが大切だと考えます。そこで中学校3年生と1年生にリラクゼーション、セルコントロール、アンガーマネジメントの3つを、小学校4年生にはリラクゼーションとアンガーマネジメントの2つを実施しました。

 事前の調査でストレスを感じているかを聞きました。中学3年生では、「延期になっている修学旅行に行けるのか不安」「体育大会ができるのか心配」「高校受験があるので学力向上が心配」「新クラスの人間関係に慣れない」、中学1年生では、「給食の量が増えて、さらに時間が短くなったので大変」「マスクが邪魔」「好きなところに行けない」「勉強と部活の両立ができるか不安」「勉強の量が増えたのでついていけるか心配」「他の小学校からも来ているので人間関係が心配」、小学4年生では、「一緒に遊べないのが嫌」「行事がなくなって悲しい」「給食のとき話しできなくて困る」などが分かりました。

 

 

2 授業のポイント

① リラクゼーション
ねらい

 感情コントロールが苦手な生徒が、問題行動を起こすことが考えられます。そこで、授業に集中でき、落ち着いて学校生活を送ることができるようにリラクゼーションを導入しました。

定義
ここで言う「リラクゼーション」とは、全身の力を抜き、腹式呼吸を行い、力が抜けたところでポジティブなメッセージ(「吐く息とともに不安などが排出される」「吸う息とともに新鮮な空気が取り込まれる」)を入れて、不満・不安等の否定的要因を削除する一連の動作を言います。

方法
 電気を消し教室を出来るだけ暗くして、落ち着けるBGMをかけます。
「只今よりリラクゼーションを始めます。」
「姿勢を整えて、目を閉じてください。」 「吐くことを意識して呼吸してください。」
「これから先生の言うメッセージを心にしみ渡るように聞いてください。」
「まず、身体の力を抜きます。下半身からいきます。足首の力を抜いてください。力が足首から足の裏を通ってフロアに抜けていきます。じわじわと抜けていきます。」
「次に上半身に行きます。肩の力を抜いてください。肩から力が抜けていきます。どんどん抜けていきます。とても軽くなっています。」
「首から上の力を抜きます。口を半開きにしてください。ぐらぐらするのは力が抜けている証拠です。首から上の力が抜けていきます。」
「身体全体の力が抜けています。とてもいい気分です。十分味わってください」
「最後に腹式呼吸にいきます。鼻から吸って、口から吐き出します。それではいったん口から息を吐き出します。はい、吐き出して下さい。」
「お腹がだんだんへこんでいきます。さらに、へこんでいきます。」
「鼻から吸って、1、2、3、お腹が膨らんでいます。口から吐いて5、6、7、8、9、10」(2回実施)
「後は自分のペースで進めてください。」(50秒実施)
「息を吐く時は、嫌なことや不安なことも一緒に外へ出ていくようイメージしてください。」
「息を吸うときは、外から新鮮な空気が身体いっぱいに入ってくるようイメージしてください。」
「はい、時間です。目を開いてください。」
 終了後、背筋を伸ばす、両腕を前に出してグー、パーと繰り返すなどの消去動作を行います。

実施上の留意点
1 照明を暗くし、BGMをかけるなどして、リラクゼーションがやりやすい環境を作ってください。
 環境調整をすることで、生徒の快体験につながり、リラクゼーション継続への動機づけとなります。

2 生徒には、吸うことより吐くことを意識させてください。
 吸う息は自然に任せ、吐く息は軽く唇をすぼめて、口から細く長く遠くへ吐き出すように意識させてください。吸う時間の2倍以上かけて吐くことがポイントです。吐く時に「マイナスの感情」を吐き出すようにイメージし、吸うときには「プラスの感情」が入ってくるようイメージさせてください。

3 消去動作は、必ず取り入れてください。

4 リラクゼーションは自己催眠なので、くらくらしたり、頭がぼーっとしたりすることがあります。何らかの形で消去動作を行ってください。
 授業の前や朝の学級活動に実施すれば、落ち着いた雰囲気で授業や1日が始まると思います。また、帰りの学級活動で行い、その後で1日の振り返りをすると内省が促進され、明日への改善につながります。

 

② セルフ・コントロール(ストレスコントロール)
ねらい

 イライラや落ち込みなどのネガティブな感情をコントロールする方法を学びます。

方法
 人の心を自動車にたとえて説明します。自動車のハンドルを握っているのは自分です。全ての行動の責任は自分にあるということです。前輪は、行為・思考、後輪は、生理反応、感情になります。ワークを通じて後輪の生理反応・感情より、前輪の行為思考のほうがコントロールしやすいことを学びます。ワークシートを使って、コントロールしやすいものと(前輪)しにくいもの(後輪)の仕分けをします。次にその項目を行為、思考、感情、生理反応に分類します。
 さらに、自分がイライラしている、落ち込んでいる時の行為・思考・感情・生理反応を分析し、対応策を考えます。例えば、テスト勉強をしたのに思うような成績が取れなくイライラしているとします。それに伴う動悸などの生理反応もあるでしょう。一人で部屋に何もせず閉じこもっていたとしたら、そのイライラは改善されるでしょうか。改善することは難しいでしょう。それよりも気分は乗らないが、散歩する、買い物に行く、美味しいものを食べる、ゲームをする、カラオケで好きな歌をうたう、などの行為をすることでイライラの感情や生理反応は改善されます。
 また、一生懸命練習したのにもかかわらず、試合に負けてしまい落ち込んでいるとします。同様に何もしないでじっとしていても落ち込むという感情は改善されません。試合には負けたけれど相手の弱点が分かったので、次に対戦する時にはそこを攻めよう、などと失敗から学ぶという思考に変えることでも落ち込みの感情は改善されます。
 コントロールしやすい前輪の行為・思考を変えることでコントロールすることが難しい後輪の感情・生理反応も変わるということを学びます。
 このワークを行って感じたことがあります。他者の力を借りずに自分の力で解決しようとする人が多いように思います。誰かに愚痴をこぼす、話を聞いてもらう、相談する、医療や相談機関を利用するなどのサポートを活用する人が少なかったからです。生真面目な日本人の特徴かもしれません。自分の力で何とかなればよいのですが、そうでない時は他者や医療・相談機関の力を借りることが回復力(レジリエンス)につながると感じました。そのためには日常の生活で良好な人間関係を構築・維持することで他者の力を借りやすくなると思います。

 

③ アンガーマネジメント(怒りの感情のコントロール)
ねらい

 怒りの感情は火山のようにだんだん湧き上がってきて最後に噴火するプロセスを学びます。自分の怒りの体験を振り返り、怒りの兆候をキャッチし、適切に対処することで怒りをコントロールできることが可能になります。これを学ぶことで、怒りの感情が爆発して生徒が問題行動を起こさない方法を学びます。

方法
 今までに経験した怒りを感じた体験を思い出します。その際「誰に、こんなことをされた」など個人名を書かないように伝えます。ワークシートの「問題なし」「ちょっと悲しい」「不満を感じる」「イライラする」「怒っている!」「爆発!」の怒りの段階を見ます。それに相当する「できごと・体験」欄にエピソードを書き込みます。例えば「爆発!」の欄には「スマホを親に取り上げられた」などです。次に怒りの各段階を自分のイメージする色で塗ります。さらに各段階の「温度」を書き込みます。次に、それぞれの怒りに応じて起きる「からだの感覚」を具体的に書き込みます。例えば、「頭が痛くなる」「手が震える」「呼吸が荒くなる」「貧乏ゆすりをする」などといった怒りの段階に応じて起こる身体の変化のことです。最後に、「怒りの奥にある感情」を見つけます。つまり、なぜ怒りを覚えるのかという根本的な怒りの原因のことです。この感情を「一次感情」と呼びます。

例:ノートを返してくれない→テスト勉強ができず困る→怒り

 このように「怒り」が「二次感情」であることが理解できれば、一次感情「テスト勉強ができず困る」という感情に対処すれば、怒りのコントロールが可能になることを学ぶことができます。ノートを返してくれない友達に、怒りをぶつけるのではなく、「ノートを返してくれないのでテスト勉強ができなくてすごく困ったんだよ」などと言葉で伝えることで怒りの感情は小さくなることに気づきます。また、「友達が言い合いをしている、ケンカしているところに遭遇したとしたら、どんな気持ちになりますか?」と生徒に聞くと、多くの生徒は、「怖い」「不安」「嫌な気持になる」と答えました。もめごとやケンカは周りの友達に悪影響を与えるということを確認できました。また、感情的になってもめごとやケンカを起こしてしまうと、当事者は先生に指導を受けるので後悔するという結末は想像に難くありません。ワークを通じて、もめごとやケンカが起こると当事者も周りにいる友達も嫌な気持になることを学びます。
 書き終わったら周りの人とワークシートを交換してお互いのからだの感覚を共有し、怒りの感情が爆発しそうなときには介入するよう強調します。例えば、怒りのあまり殴りかかるサインとして手が震えだす友人がいたとしたら、手が震える段階で止めに入るということです。
 生徒たちや先生方にこのような方法を学んでもらい、活用することで、トラブルの少ない安心・安全な学校生活を送ってもらいたいと考えます。そうすれば生徒の学習意欲は高まり、学習効果も上がると思います。

 

 

3 生徒・児童の感想

中学3年生
・今、コロナの関係で、不安・ストレスを感じています。それに、ピッタリな授業でした。今回のものは、この時期だけではなく、友達とケンカしそうになったときにも使えると思いました。そして、自分の怒りのサインにも気づけるようになりたいと思いました。
・怒りをコントロールすれば、人と人とのかかわりがよくなると思います。コントロールするために、怒りの温度で身体に表れる動きを感じ取ろうと思いました。
・感情の仕組みと、その制御の仕方が分かった。自分の感情を兆候から読み取れるようになりたい。また、友達のためにも、気にかけることもしようと思った。
・しっかりリラックスできました。怒りの感情を少しでも抑えられるようにしたいです。もし、自分が抑えることができたら、次は友達のもキャッチできるようにしたい。
・ストレスは、誰でもたまってしまいます。それを怒りとして出してしまえば、人を傷つけたりすることがあるので、ストレスをためずに、解消することが大事だと思います。
・リラクゼーションをしたら、かなり落ち着くことができた。これから緊張した時に使いたい。また、自分を理解することが大事だということが分かった。自分のことを知らなかったら、相手のことを分かるはずがない。
・あらかじめ、どういう時に、どんなことが体に起こるかを知っていれば、自分をコントロールできたり、友達が感情を抑える手助けができることが分かった。
・リラクゼーションでとても落ち着きました。そして、落ち着いていると、冷静に物事を判断することができるため、自分や他の人の怒りにも対処できると思いました。

中学1年生
・怒りが90度になったら、落ち着いてコントロールすると爆発しないことが分かりました。また、思考は変えることができることも分かりました。
・イライラした時には、物や人に当たるのではなく、好きな食べ物を食べたり、深呼吸するとコントロールできることが分かった。
・人の気持ちが分かるようになりたい。
・怒りが現れる時は、一次感情を思い出すことが大切だと分かりました。
・イライラすると自分だけでなく、相手にも迷惑かけてしまうことが分かりました。
・怒りの程度を温度のように客観的に分かれば、トラブルが減ると思いました。
・自分の感情は自分でコントロールできることが分かった。難しく考えるのではなく、変えやすいものから少しずつ変えていくとよいのだなと思った。自分にも他人にも気を使って気持ちよい生活を送りたい。
・イライラしたら今日学んだリラックス法を活用しようと思った。友達がイライラしていたら教えてあげたい。
・自分の怒りには段階があり、すぐに怒ってしまうわけではないから、まず行動と思考を自分でコントロールして怒りのタワーが80%になる前に落ち着けるようにしたいと思った。まず、自分で自分のことをよく知ることで周りに迷惑をかけずにすむようにしたい。

小学4年生(リラクゼーションとアンガーマネジメント「怒りのタワー」を実践しての感想)
・話を聞いて怒りのコントロールをしやすくなった。
・ストレスのことがよく分かったので、自分をコントロールできるようになると思う。
・体の感覚が分かって怒りのコントロールがしやすくなった。これからは怒りの温度が上がっても爆発しないですむと思う。
・人はそれぞれ爆発する前には何かサインがでるのでそれを知ることは大事だと思いました。
・深呼吸(腹式呼吸)をすると心が落ちついて、とてもいい気持ちになりました。
・この世のみんなが怒りをコントロールして平和な世界になったらいいと思いました。
・ストレスについて考えたら気持ちがすっきりした。
・ものにあたったりしなくてもストレスを減らせると思った。
・自分の気持ちをコントロールできないと相手も傷つけるから気をつけたい。
・今まで誰にも言いたくないことを怒りのタワーに書けてすっきりした。
・私は怒りやすいから落ち着ける方法を知ってよかった。

参考文献
・山口権治『ピア・サポートを生かした学級づくりプログラム』明治図書出版 2019
・井上京子「知って得するセルフ・コントロール」『月刊学校教育相談』2014.11月号 ほんの森出版

(令和2年8月27日)

 

 

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