髙橋史朗

髙橋史朗 -「ママのスマホになりたい」――ネット・ゲーム依存症からの脱却

髙橋史朗

モラロジー研究所教授

麗澤大学大学院特任教授

 

 

●絵本『ママのスマホになりたい』

 今までに180冊以上の絵本を手掛けた人気絵本作家・のぶみさんの絵本『ママのスマホになりたい』(WAVE出版)が大きな反響を呼んでいる。この絵本は、シンガポールのある小学生が書いた作文が元になっており、その少年が学校から「親のことについて作文を書いてきなさい」といわれて書いたのが、『ママのスマホになりたい』というタイトルの作文であった。

 このタイトルで検索すると、この詩を朗読する子供の声が聞こえてくるので、検索できる方はまずその朗読を聞いてほしい。この物語は、主人公の「かんたろう」が上手にブロックを組み立てられたので、それを見てほしくてママに声をかけるところから始まる。

 「ママ~! これみて~~」って いったのに ママは、スマホみてて ぜんぜん きいてません。
 そんなママに怒ったかんたろうは、部屋の片隅に段ボールで「スマホ」や「テレビ」、「赤ちゃん」が入れない、かんたろうとママだけの国を作ると、ようやくママはスマホを置いて、テレビを消して、かんたろうが作った国に入ってきてくれました。
 「ママね、かんたろうが おもってるより ず~~と、かんたろうのことが すきなのよ」
と言ってママはかんたろうを抱きしめてくれたけど、……この国を作った本当の理由を、かんたろうはママに言えなかったのでした。
 その翌日、幼稚園で先生から「大人になったら何になりたい?」と聞かれて、かんたろうは小さな胸に秘めていた想いをみんなに話します。
 「ママが スマホばっかり みてるから、ぼくは スマホに なりたい」
 「でもね、ホントのこというと……ぼくの まんまで ママに みてほしい!」
 「ママが みてくれないと、ぼくは いなくても いいような きもちに なっちゃうよ……」

 かんたろうが涙ながらに話していたちょうどそのとき、幼稚園にお迎えにきていたママは、やっとかんたろうの本心を聞くことができました、という物語である。

 私は親学講演会の冒頭に、まずこの絵本の朗読を聞くところから始めることにしている。

 

 

●諸富祥彦『スマホ依存の親が子どもを壊す』

 明治大学の諸富祥彦教授によれば、癇癪の止まらない子供、感情のコントロールができない子供、手の付けられない子供が急増しているのは、スマホ依存の親と関係があるという(『スマホ依存の親が子どもを壊す』宝島社)。

 親がスマホに夢中になって育児放棄のような状態に陥っているために、愛着不足、心地よい刺激不足、かかわり不足の影響で、子供の情緒が不安定になっているのである。

 諸富教授は、無自覚のうちに進行している軽微な虐待である「プチ虐待」には、「親から無視され放置される」「親から怒鳴られまくる」の2種類があり、その影響を受けた子供には、以下の特徴があると指摘している。

 ⑴ 癇癪を起こして止まらない
 ⑵ 変に落ち込む
 ⑶ よくケンカをする
 ⑷ 物をよく壊す
 ⑸ 物をよく盗む

 このように育てられた子供が親になると、この「愛着障害」の連鎖が繰り返され、親と同じようなパターンに陥りやすい。この「愛着障害」の連鎖を克服する親子支援こそが求められているのである。

 

 

●低年齢化するゲーム依存症

 ところで、世界保健機関(WHO)は国際的な病気の分類を改訂し、ゲーム依存症を「ゲーム障害」として疾患名に加えた。厚生労働省の2012年度の推計によると、ネット依存症の疑いがある中高生は全国に約52万人(8%)に上るが、ここ数年で低年齢化が急速に進んでいる。ネット依存症には、SNSなどへの依存症も含まれるが、圧倒的に多いのはゲーム依存症で、国内で初めてネット依存症外来を開いた久里浜医療センターの調査によれば、ゲーム依存症による問題には、「朝起きられない」76%、「昼夜逆転の生活」60%、「学校や会社を休む」59%、「物を壊す」51%、「食事をしない」49%、「友人関係の悪化」39%、「睡眠不足」32%、「家族に暴力を振るう」27%、「家族のお金を盗む」17%、などが含まれる。

 鹿児島の小中高生調査によれば、依存症の疑いのある小学1~3年男子17%、同女子6%、小学4~6年男子12%、同女子7%、中学生男女各15%、高校男子16%、同女子20%で、就寝時間が22時以降の小学生は37%で、6年生は71%に上った。深夜0時以降に寝る中学3年生は49%、高校3年生は67%で、「寝つきが悪い」と答えた小学生は45%、中学生は32%、高校生は26%であった。「ネット・ゲーム依存症」の小学生は11%に及び、このうち「寝つきが悪い」と答えたのは57%で、ゲームやスマホ依存が低年齢化し、子供の睡眠に悪影響を与えている実態が浮き彫りになった。

 また、2017年の0~3歳児調査によれば、スマホを毎日使わせていると答えた割合は2割を超えたが、スマホから発せられる強烈な人工の光や機械音に乳幼児は興味を示しておとなしくなるため、親にとっては便利で楽であるが、脳の発達には悪影響を及ぼす。母親がスマホに熱中するあまり、子供が泣いても応答が不足したり、授乳中や離乳食をあげている時にスマホに視線を向けて乳幼児とのアイコンタクトが不足すると、不安を与え「愛着形成」に問題が起こる。スマホの使用が子供の認知機能を低下させ、長時間使用している子供の学力は低いことが報告されている。「怖い夢をよく見る」と答えた小学校低学年男子は18%に及び、睡眠が質量ともに悪いことが判明した。

 ちなみに、3歳以下の乳幼児の睡眠時間の17か国の国際比較によれば、日本が最低で11時間37分、米英豪など9か国は睡眠時間が1時間以上長く、最も長いニュージーランドは13時間20分で、日本の親の夜型の生活が乳幼児の睡眠時間に大きな影響を与えていることが明らかになった。

 

 

●米韓中の予防対策・教育

 さらに、スタンフォード大学の研究チームの小学3・4年生調査によれば、ゲームやビデオ、テレビの利用の仕方、番組の選び方の指導とメディアの利用を減らす指導を2か月実施したところ、言葉の暴力や攻撃的な行動が顕著に減少したという。近年、日本では小学校低学年で暴力事件が増加している背景には、「寝つきが悪い」「怖い夢をよく見る」等の睡眠不足や不規則な睡眠リズムによって「イライラ」「攻撃性」が高まっているという事情がある。

 日本よりもネット・ゲーム依存対策が進んでいる韓国では、2011年に青少年保護法の中に「シャットダウン制度」を新設導入した。この骨子は「16歳未満の青少年に深夜0時から朝6時までインターネットゲームの提供を制限する」ことである。そのためネットにアクセスするためのIDを16歳未満の子供には付与しない。IDがなければ深夜0時から翌朝6時までネットにアクセスできない仕組みになっている。関連業界に対しては依存症を予防するため「インターネットグリーン認証制」マークを付与し、依存症の治療費の半額はゲーム会社が負担することになっている。

 中国でも都市部の6歳から29歳までの青少年のオンラインゲーム依存者は14%、依存傾向にある者は13%と報告(10年前の調査)されている。そこで、2008年に「インターネット中毒診断基準」を作成して予防に乗り出し、中学校で予防教育を徹底している。また、ゲーム事業者にプレイする時間を制限する「オンラインゲーム熱中防止システム」を開発して実装するよう求め、2010年に「オンラインゲーム管理暫定弁法」が施行された。この中で、事業者は未成年者がオンラインゲーム依存に陥ることを防止するためのシステムや対策を実施することを義務づけた。

 私は埼玉県教育委員長退任後、埼玉県青少年健全育成審議会会長を2期務め、保護者が子供のインターネット利用を見守り、指導できるように「埼玉県ネットアドバイザー」を養成し、親支援に全力を投入してきたが、この埼玉モデルを全国に広げる必要があろう。石原慎太郎元都知事の依頼で「教育再生東京円卓会議委員」に、乙武洋匡、中原徹(民間人校長から大阪府教育委員会教育長に就任)両氏と共に就任し、この問題についても協議したが、前回論じた「虐待の連鎖」の克服と共に、「ネット・ゲーム依存」からの脱却、「プチ虐待」を含む「愛着障害」の連鎖から脱却するための親子支援を広げることが時代の要請といえよう。

 

(令和2年8月25日)

 

 

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