西岡 力

西岡 力 – 道徳と研究 11「反日種族主義」著者らの戦い

西岡力

モラロジー研究所教授

麗澤大学客員教授

 

●『反日種族主義』の著者らに対する刑事告訴の動き

 ついに、『反日種族主義』の著者らが刑事告訴を受ける事態になった。7月7日、元慰安婦ら10人が、名誉毀損と国家保安法違反で、『反日種族主義』の著者の李栄薫、朱益鍾、李宇衍の3氏と柳錫春・延世大教授の4人をソウル中央地検に刑事告訴した。

 告訴人は、元慰安婦で最近、挺対協を激しく批判して話題になった李容洙氏と、元慰安婦の遺族3人、元戦時労働者の遺族3人、元海軍軍属で中国で戦死して靖国神社に祀られている故李花燮の遺族1人だ。

『反日種族主義』の著者が、元慰安婦や戦時労働者の遺族から刑事告訴されるのは今回が初めてのことだ。第3者が行う「告発」とは異なり、名誉を毀損されたと主張する当事者が行う「告訴」だから、検察が捜査を始めることは間違いない。特に、告訴が提出されたソウル中央地検は今年1月、地検長以下の幹部が文在寅政権寄りの検事に総入れ替えされ、それまで進めていた文在寅政権側近らの捜査を妨害する偏向人事だと批判されていた。そのソウル中央地検が告訴を受けたのだから、刑事事件として起訴する可能性は高い。

 李栄薫氏らは「これから長く厳しい法廷闘争を戦うことを覚悟している。学問の自由を守るため戦う」と語っている。その戦いの最初として、同じ7日に告訴された4人はソウルのプレスセンターで記者会見を開いた。その時点ではまだ告訴状の内容を知らされていない4人は、告訴人らが2日に行った記者会見を取り上げて反論を行った。

 2日、国会で与党・共に民主党所属で国会の外交統一委員長である宋永吉議員が元慰安婦・元戦時労働者の遺族らとともに記者会見を開き、『反日種族主義』の著者李栄薫氏と講義中に『反日種族主義』を取り上げて大学当局から懲戒処分を受けた柳錫春・延世大教授らを「歴史歪曲があまりにも深刻で到底黙過できず告訴せざるを得ない」と激しく非難したからだ。

 7日の会見で李栄薫氏らは、自分たちの主張は学問的研究の結果であり、異なる学説を唱える人たちに公開討論をしようと繰り返し求めてきた、学問的討論を通じず一方的に「歴史歪曲」と決めつける宋議員らの言動は言論と学問の自由の重大な侵害だ、と語気を強めた。李栄薫氏側は宋議員と会見に出た弁護士を名誉毀損で逆告訴した。ただ、この議員らへの逆告訴によって、元慰安婦らの告訴が影響を受けることはないから、李栄薫氏らは起訴されて刑事事件の被告として法廷に引き出される可能性が高い。最悪の場合、身柄を拘束されることさえ、今の韓国の状況では可能性がゼロとは言えない。

 

 

●学説の一つを書くことが刑事罰になるなら学問の自由はなくなる

 私は60頁以上にもなる大部な告訴状を入手した。それを一読して驚いたことがたくさんあった。まず、私の名前が2か所で出ていた。

 名誉毀損にあたる李栄薫氏らの主張をまとめた部分で慰安婦に関する記述と、戦時労働者に関する記述で、次のように私の名前が書かれていた。

「慰安婦が日本政府当局の強制募集がなかったという事実を前提にした表現であり……これらの内容は泰郁彦や日本の西岡力のような代表的右派論客がしてきた主張であり、慰安婦募集過程で強制連行や就業詐欺があったとしても、その責任は募集業者にあるという論理は日本の右派論客たちの専有物です。
 すなわち、被告訴人たちは日本の右派論客たちが喜んで使用する論理をそのまま借用して自身の著書で慰安婦関連の歴史的事実に関して虚偽事実を記述したと言うことです」

「被告訴人2李宇衍は実際に朝鮮人に対する強制徴用が実施された時期は1944年9月から1945年4月までの約8か月の『徴用』時期だけで、1939年9月から実施された『募集』とその後につづいた『官斡旋』は強制連行ではなく朝鮮人たちが自発的に参加した日本行きだったとする、日本の右派論客西岡力の『強制連行虚構論』をそのまま受容しました」

 ここで強調するが、李栄薫氏たちの慰安婦に関する体系的で実証的な研究から私が大いに学んだのであって、私の研究を李栄薫氏たちが借用したことはないし、戦時労働者に関しても私が李宇衍氏の緻密な実証研究から多くのことを学んだのであって、その反対ではない。その上、ここで書かれている慰安婦と戦時労働者に関する事実の記述は虚偽だとすぐに断定できるものではない。私はこの記述は真実だと考えているが、少なくともいくつかある学問上の対立する学説の一つであることは間違いない。それを書物に書くことが刑事罰の対象になるなら学問の自由はなくなってしまう。

 もう一つ見逃せないのは、名誉毀損に加えて国家保安法違反も告訴内容に含まれていることだ。国家保安法は北朝鮮や朝鮮総連を反国家団体に指定し、その首魁を最高死刑にし、それを称賛する者も刑事罰の対象としている。しかし、当然のことだが、日本は反国家団体に指定されていない。それなのになぜ、国家保安法違反が出てくるのか。

 告訴状を見ると、日本右翼が反国家団体だという次のような奇想天外な主張がなされていた。

「被告訴人の著書および著作物で日本の植民地政策および強制連行問題などに関する日本右翼勢力(反国家団体)の論理をそのまま借用して日本の植民地近代化論を強調し、強制徴用および慰安婦被害者たちを卑下・誹謗し、日本帝国主義の成果を称賛するなどの虚偽事実を伝播して宣伝扇動する行為は、国家保安法上の称賛・鼓舞罪に該当する犯罪行為です」

 先に見たように告訴状は、私のことを「右派論客」と決めつけ、李栄薫氏や李宇衍氏が私の主張を借用、受容したとしているから、その論理を延長すると私も反国家団体の一員と見なされているのかもしれない。驚きと怒りでいっぱいになる。

 告訴の内容は膨大なので、今月はここまでにして来月以降の本欄で残りの部分を紹介しつつ、学問の自由を守るための李栄薫氏らの戦いを応援していきたい。

 

(令和2年8月3日)

 

 

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