川上 和久

川上和久 – 新型コロナウイルス感染拡大でなすべきこと①

川上和久

麗澤大学教授

 

 

●一党独裁の情報統制と自己中心主義の愚

 令和2(2020)年初頭から始まった新型コロナウイルスの世界への蔓延は、大きな災厄をもたらしているが、元凶である中国の「一党独裁」による情報統制が、初期の感染拡大防止の機会を奪ったことは間違いない。発生地である武漢で新型コロナウイルスによる肺炎に警鐘を鳴らした医師がいたにもかかわらず、情報を隠蔽した結果、正式発表が遅れ、春節で多くの中国人が海外に出かけて世界中に感染が拡大した。
 中国の責任は重いが、責任を認めるどころか、むしろ、「米軍が新型コロナウイルスを持ち込んだ可能性がある」と政府高官がツイッターに投稿、情報戦を仕掛けるなど、「言った者勝ち」で歴史の記憶の改竄を図っている。
 一方で、一党独裁による強制力で感染拡大を抑え込もうとした強引な手法は、民主主義国家では難しいという指摘もなされている。
 だが、新型コロナウイルスの惨禍を世界同様に蒙ったわが国の国民レベルでの対応を見ると、暗澹たる思いを禁じ得ない人たちが少なからずいるのではなかろうか。
 マスクが不足している中で、ネット上のフリーマーケットで高値でマスクを転売して儲けようとするさもしい輩。マスクが必需品である医療従事者にまでマスクが行き渡らない危機的状況の足元を見るような行為だ。公職にある県議会議員までもが、マスクをネット上のフリーマーケットで販売して問題となった。
「トイレットペーパーがなくなる」というネット上でのフェイクニュースに惑わされ、開店前からトイレットペーパーを入手するために列をなす人たち。不安に駆られる気持ちは分かるが、フェイクニュースを鵜呑みにして拡散する「民度」も問われる。
 一部の者の軽率な行為とはいえ、不要不急の外出自粛が要請されているにもかかわらず、キャンセル料がかかるからもったいない、自分たちがかかっても無症状か症状は軽いから、という理由で感染拡大真っ最中のヨーロッパに旅行に出かけ、帰国後、会合などに出てクラスター感染を引き起こした学生たち。京都産業大学、県立広島大学等でこういった事例が発表され、その自分本位の軽率な行動は批判されて然るべきだが、ネット上で当該学生の実名や住所などのプライバシーを探り出して晒そうという「歪んだ正義感」も眉をひそめたくなる状況だ。

 

上杉鷹山像

 

●近代合理主義の病理と上杉鷹山公の仁政

 こういった、新型コロナウイルスのパンデミックに伴う中国の自国中心主義、日本でも見られた自己中心主義は、一党独裁の病理であると同時に、「自分中心」「自分さえよければ」という近代合理主義の病理であるようにも思えてならない。それに対する処方箋はないのだろうか?
 政治の混迷、個人主義の蔓延を目にするにつけ、私が思いをいたす一人の人物がいる。江戸時代の米沢藩主・上杉治憲(鷹山)(1751~1822)だ。
 上杉鷹山は、内村鑑三が明治41(1908)年に英語で出版した『代表的日本人』で、西郷隆盛、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮上人と並んで取り上げ、米国のケネディ大統領が、理想の政治家として鷹山公を挙げたことでも知られる。
 私の曾祖母は山形県米沢市の出身で、八王子で祖父母と同居しており、私が中学1年のときに96歳で大往生したが、曾祖母の部屋には小さなお像があって毎日拝んでいたので、「この人だれ?」と聞いたら、「米沢の立派なお殿様で、上杉鷹山公じゃよ」と教えてくれた。
 昭和45(1970)年に私が麻布中学に合格し、通うことになったとき、「あそこは鷹山公が幼少の頃住んでおられた秋月藩の藩邸だったところで、いいところに通うね。冥途の土産ができた」とたいそう喜ばれた。
 鷹山公が亡くなったのは文政5(1822)年、曾祖母は鷹山公の遺徳を没後50年以上を経てもその両親から繰り返し教えられていたのだろう。

②につづく

(『モラロジー研究所所報』令和2年6月号より)

 

(令和2年7月6日)

 

 

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