山岡鉄秀 – 道徳二元論のすすめ9 – コロナが教えてくれた、グローバル社会は悪魔が支配するという現実
山岡鉄秀
モラロジー研究所 研究センター研究員
●様々な国を脅迫する国
多くの日本人は気が付いていませんが、世界はすでに戦争状態にあります。21世紀の戦争は、武器を交える戦争ばかりではありません。むしろ、軍隊同士の正規戦を避けて、一見戦争に見えない戦争が繰り広げられます。兵器以外のすべてが武器として使われるのが特徴です。
エコノミック・ステート・クラフトという言葉があります。外国を経済を使って操ろうとすることです。言い換えれば、気に食わない相手を経済という武器を使って脅迫するということです。この手法を多用するのが中国です。
多くの国が中国の巨大市場に魅力を感じて莫大な投資をしました。中国市場に依存している企業や国は少なくありません。中国はそれを逆手にとって、脅迫のツールとして使用することになんの躊躇も感じない国になってしまいました。
今、中国によるオーストラリアいじめが酷くなっています。理由は、オーストラリアがアメリカに同調して、新型コロナウィルスの発生初期段階について独立した調査を行うべきだと主張したから、ただそれだけです。
中国は、オーストラリアを西洋最弱の国だと見なしています(ニュージーランドは論外)。あわよくば乗っ取ってしまおうと浸透工作を続けてきました。中国は弱い相手には情け容赦しません。立て続けに下記の制裁をかけてきました。
> 牛肉の輸入を制限する
> 大麦の輸入に80%の関税をかける
> 石炭の輸入先を変更する
> 鉄鉱石の輸入を港で止める
> オーストラリアは人種差別が酷いから観光や留学に適さないと国民に告げる
自分たちに逆らう生意気なオーストラリアは懲らしめてやる、と言わんばかりの陰湿な虐めです。
中国はこれまでにも、様々な国を脅迫してきました。
領土問題で衝突したフィリピンのバナナを港で止めて腐らせました。
人権活動家の劉暁波氏にノーベル賞を与えたノルウェーからサーモンの輸入を止めました。
中国通信機器大手ファーウェイの副会長を逮捕したカナダからの野菜と食肉の輸入を止めました。
日本に対しても、尖閣沖で日本の巡視船に体当たりしてきた中国漁船の船長を逮捕した際、レアアースの輸出を禁じて圧力をかけてきたことを覚えている方も多いでしょう。
日本をはじめ、世界中から莫大な資金援助と技術援助を受けて経済大国となった中国は、豊かになるにつれて民主化するのではなく、逆に経済力を武器にして世界を恫喝する国になってしまいました。
●世界が平和で安定していることが前提のネットワーク
それだけではありません。
21世紀に入ってから急速に進んだグローバル化は、サプライチェーンのグローバル化を推し進めました。
今は死語となっていますが、昔「系列」という言葉がありました。日本は、製品設計からネジの一本に至るまで、すべてを自国内で作れる稀有な国でした。サプライチェーンが縦に完結していたのです。それが日本経済の強さの源泉でした。
しかし、東西冷戦が終わり、世界市場が拡大し、超高性能の工作機械が普及し、通信技術が飛躍的に向上すると、世界はグローバル化の波に洗われ、日本的な縦のサプライチェーンを維持できなくなりました。
欧米グローバル企業は躊躇なく、設計と販売など、高マージンが得られる部分だけ自社の手に残し、中間の製造工程は世界中に最適地を求めて分散させました。
日本人はこういうドライな発想を持てないので、グローバル化の時代は日本凋落の時代となりました。
その結果、中国は世界の大工場となってしまいました。そして、多くのものが、中国抜きに作れなくなってしまったのです。今回のコロナ禍で、マスクすら国内で一貫生産できないことがわかりました。それどころか、抗生物質の製造に必要な有効成分も中国でしか作られていないこともわかりました。
これは恐ろしい事実です。中国が意図的に有効成分の輸出を止めれば、世界中が薬不足に陥ってしまうのです。
たとえ中国に悪意がなくとも、疫病や災害で中国の工場が稼働停止になってしまえば、同じことが起こります。
このように、グローバル経済は、世界が平和で安定していることを前提とする脆弱なネットワークなのです。それにもかかわらず、世界は経済効率を追求するあまり、市場規模やサプライチェーンを武器として他国を恫喝する一党独裁国家に依存しすぎ、生殺与奪の権を与えてしまいました。
●安全保障を度外視する国家
だからこそ、中国はアメリカを追い落として自分たちが世界覇権国家になれると確信したのです。
経済効率と利益ばかりを追い求めたツケが回ってきてしまいました。
このように、グローバル社会は、身勝手な国家によって容易に破壊される脆弱な社会です。
大至急、サプライチェーンの国内回帰および、悪意を持たない第三国への移転を実行しなくてはなりません。日本の生命線を護るのです。
このようなことを考えることを経済安全保障といいます。
残念なことに、日本の経済人にこのような話をしても、ほとんど理解されません。日ごろから安全保障について考える習慣がないのと、中国に完全に取り込まれてしまっているからです。
憲法からして安全保障を度外視する平和ボケ国家日本は、悪魔が支配するグローバル社会では容易に餌食になってしまいます。
この現実をひとりでも多くの日本国民に認識していただきたいと思います。
※中国の外国支配計画については、「目に見えぬ侵略-中国のオーストラリア支配計画」(飛鳥新社、クライブ・ハミルトン著、奥山真司訳、山岡鉄秀監訳)をご参照ください。
(令和2年6月17日)
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