西岡 力

西岡 力-道徳と研究9 元慰安婦が反日運動体を批判

西岡力

モラロジー研究所教授

麗澤大学客員教授

 

●4つの疑惑―まずは寄付金の行方

 韓国では元慰安婦の李容洙氏が30年間共に活動してきた反日運動体の挺対協(韓国挺身隊問題対策協議会、最近、正義連に改称)とそのリーダーで4月の総選挙で国会議員に当選した尹美香・元挺対協代表を激しく批判したことが契機になり、挺対協と尹美香氏の偽善ぶりが連日暴露され、ついに検察が挺対協への家宅捜査を断行する事態になった。
 前回、このコラムで尹氏が国会に進出すれば、親日発言処罰法を作るなど憂慮される事態が起きかねないと指摘したが、尹氏は議員バッチをつける前に、辞任要求を受け、窮地に追い込まれている。
 韓国マスコミが暴いた尹氏と挺対協の疑惑は大きく分けて4つだ。第1が、元慰安婦の老婆らを前面に出して集めた寄付の大部分を元慰安婦のために使っていないという点だ。李容洙氏は「芸は熊がやり、集まった金は主人がせしめた」「30年間利用され続け、だまされ続けた」と批判している。公開されている会計資料を見るとこの批判は正しかった。挺対協は、2016年から19年までの4年間で49億ウォンが集めたが、9億ウォンだけを、日本が出資した財団からの慰労金を拒否した元慰安婦らに渡しただけで、残り40億ウォンのうち18億ウォンは人件費を含む他の使途に使い22億ウォンは使わず貯めている。全体の2割未満しか元慰安婦に渡っていない。

 

 

●不明朗な寄付金の使い道

 第2は、寄付金の使途がお手盛りだったり不明朗で、裏金つくりや横領の疑いがあることだ。公表された会計帳簿がずさんで、数字が合わず記載漏れしている裏金があるのではないかと疑われている。ビヤホールや葬儀会社などが料金の一部か全部を寄付したと証言しているのに、寄付が会計処理されていない。
 2012年に現代重工業の財団からの寄付を得て、元慰安婦らの憩いの家としてソウル近郊の京畿道安城市にこぎれいな一軒家を買ったが、その値段が相場の約3倍で、購入先と斡旋者の両方が、尹美香氏の夫の知り合いの左派活動家だった。値段を意図的にふくらませて裏金を作ったことが疑われている。その上、その家には元慰安婦は1人も住まず、尹氏の父が人件費をもらいながら管理人として住み込んでいた。
 尹氏は2億ウォンのマンションを現金で購入し、預金を3億ウォン所有しており、娘を生活費まで含むと年間1億ウォンかかるとされる米国有名大学に留学させていた。

 

 

●左派、親北派らへのおかしな弔慰金の流れ

 第3は、日米韓三角同盟を弱体化させるという政治目的に慰安婦運動を利用していたという疑惑だ。2019年1月に亡くなった元慰安婦の金福童氏の葬儀に使うとして弔慰金を尹美香の個人銀行口座に2億2,726万ウォンも集めた。葬儀に1億ウォンを使って、残高約1億3千万ウォンを遺言の公開もないまま故人の意志だと称して元慰安婦のためには一切使わず、左派運動体関係者の子弟に奨学金として与えた。驚いたことにそのうち1人は挺対協理事の子弟だった。また、同じ資金から親北、反米、反政府運動体に2,000万ウォンを支援金として配った。

 

【金福童弔慰金から2,000万ウォンの寄付を受けた団体】
1.脱北従業員真相究明及び送還対策委員会(2016年に集団亡命した北朝鮮食堂従業員13人の北送を求める)
2.民主化実践家族運動協議会(国家保安法撤廃運動を展開)
3.良心囚後援会(国家保安法違反などで刑務所にいる囚人釈放運動)
4.全国農民層連盟(北朝鮮にトラクターを送る運動展開)
5.故金ヨングン死亡事故真相究明及び責任者処罰市民対策委員会(非正規職問題解決を要求)
6.江汀の人たち(済州韓国海軍基地建設反対運動)
7.韶成里サード撤回星州住民対策委員会(米軍サードミサイル反対運動)
8.サード配置反対金泉対策会議(米軍サードミサイル反対運動)
9.三星一般労組(三星内に労組を設立)
10.ヘッサル(陽ざし)社会福祉会(米軍基地村の女性人権運動)
11.ミートゥー市民行動(女性暴力対応)
(出所・朝鮮日報5月16日)

 

 極めつけは、尹氏とその夫が、先述した元慰安婦の癒やしの家に、北朝鮮から集団亡命した食堂支配人と従業員を呼んで、北朝鮮に戻れと説得していたことだ。尹氏の夫は、90年代に日本で北朝鮮関係者から現金をもらって韓国の機密を提供した罪で国家保安法違反で有罪判決を受けている札付きの親北活動家だ。その夫は癒やしの家で北朝鮮からの亡命者を前にして、偉大な首領金正恩同志などと話し、北朝鮮の革命歌謡を歌ったという。元支配人は、その事実を公安機関に申告したが、取り締まりはできないと無視されたので、北朝鮮に拉致されるおそれがあると判断して第3国に再亡命している。今回、尹氏のスキャンダルが噴出した機会にインタビューに応じて、以上の事実を暴露したのだ。

 

 

●慰安婦強制連行説、性奴隷説は虚偽―仲間割れを始めたウソの勢力

 4つ目は、尹氏と挺対協が国際社会に広めた慰安婦強制連行説、性奴隷説が虚偽であることだ。尹氏と挺対協は、元慰安婦の証言を都合良い部分だけ利用しながら強制連行説、性奴隷説を広め、日本政府が戦争犯罪を認め公式謝罪、賠償、責任者処罰を行うまで、反日運動を続けるという過激な運動方針を堅持した。その結果、日韓両国が元慰安婦らの人権に配慮した解決策を準備しても全てそれを排斥して、日韓関係を悪化させ、韓国人の反日感情を刺激し、日米韓3角同盟を弱体化して、北朝鮮に有利な状況を作ることに成功してきた。
 李容洙氏は尹批判の中で、性奴隷という汚い言葉で呼ばれたくないと尹に訴えたが、米国にアピールするためと説得されたと語った。当事者が奴隷だと考えていないのだ。なぜなら、親が前渡し金をもらっており、それを返せば廃業することができたことをよく知っているからだ。
 しかし、李容洙氏も責任がある。彼女は1995年のアジア女性基金の支援金も、2005年の安倍・朴槿恵合意でできた財団の支援金も拒否して、挺対協と歩調を合わせて反日活動を続けた。彼女は1993年に挺対協が出した証言集では、貧困の結果、日本人女衒について行った、女衒からもらった赤いワンピースと革靴がうれしかった、と証言していた。ところが、挺対協と共に運動を続けるうちに、日本軍に刀で脅されて強制連行されたと証言を変えた。強制連行説に加担したのだ。
 しかし、2018年頃から、韓国の勇気あるジャーナリストがネットニュースで彼女の証言の矛盾を指摘し、昨年には李栄薫・前ソウル大学教授らが慰安婦は軍が管理した公娼で、強制連行説、性奴隷説は事実ではないとする内容の『反日種族主義』を出版した。ところが、挺対協は李容洙氏への批判に対して、反論せず、むしろ李氏を運動から遠ざけた。それで李氏が今回、挺対協批判の会見に踏み切ったのだ。真実の力がついに韓国に及び、ウソをついてきた勢力が仲間割れを始めた。
 ただ、この4つ目の論点は、残念ながら韓国の主流マスコミは書いていない。今回の騒動が、1から3だけを問題にして終わってしまうのか、あるいは、問題の核心である4まで踏み込んだ議論が韓国で広がるのか、まだ分からない。しかし、ウソはいつかは通じなくなる。それが道徳の教える真理だ。今後の展開を注視したい。

 

(令和2年5月29日)

 

 

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