水野次郎 – 「道徳科」と「キャリア教育」のつながり
道徳的・探究的キャリア教育を考える③
水野次郎
『こどもちゃれんじ』初代編集長
キャリアコンサルタント
モラロジー研究所特任教授
●「道徳科」指導要領と「キャリア教育」
以前から行われていた道徳が、2018年より「特別の教科 道徳」(以下、道徳科)として小・中学校現場で位置づけられる前に、当時の文部科学大臣は次のメッセージを出しました。「子供たちを、いじめの加害者にも、被害者にも、傍観者にもしないために、いじめは許されないことを道徳教育の中でしっかりと学べるようにする必要があります」(いじめに正面から向き合う「考え、議論する道徳」への転換に向けて)。2016年11月のことです。こうした発信をしなければならないほど、「いじめをどう乗り越えるか」という問題が、差し迫っていた事情があるのでしょう。道徳の時間が有効に機能し、いじめ問題の解消につながることは、保護者からも教育的な成果が期待されていました(アンケート:道徳教育の必要性を感じる-肯定的評価73%・ベネッセ2018)。
一方で道徳科の目標に立ち返ると、道徳の授業はいじめの予防措置的な意味合いには留まりません。総則に照らすと「自立した人間として他者と共によりよく生きるための基盤となる道徳性を養うこと」という理念が記されています。すなわち一人ひとりの児童生徒が「いかに生きるか」という哲学的な主題が定められ、社会を支える健全な構成員として成長するための学びであること。それは子どもの将来を見据えた「キャリア教育」の視点と重なり、生き方の探究につなげる教育活動とも言えるでしょう。自己省察と外部世界への探究を通して、より豊かな将来設計をすることであり、中学校における学習課題は下表の通りとなります。3年間で学ぶべき道徳価値を含む「内容項目」として次のような言葉があげられています。
これらの項目が独立して、あるいは複数が組み合わされて、生徒の心へ働き掛けていくのが道徳教育ということです。ではこれらの内容項目は、どのようにキャリア教育として発展していくのでしょうか。そもそも、その連続性は図られる性質のものなのでしょうか。
●道徳的、探究的キャリア教育として行う教育活動
私は、上記の4項目は人がキャリア形成を図るうえでの普遍性を擁していると考え、道徳教育の延長線上に位置づけて然るべきと考えます。抽象的な概念ではなく、具体的な仕事の場面を重ねて考えた時、教育活動を通して育てる意義が大きいと思うのです。
キャリア教育には、実は下図のような能力の育成目標と、育てる力について整理がされています。これは中央教育審議会が2011年に答申し、文部科学省から学校現場に広く普及しました。私は、これらの目標を達成するための教育活動として、道徳教育で設定していた4つの柱を軸に考えていくことが効果的であると思うのです。小・中学校ではキャリア教育を意識した道徳教育を、高校では中学校で育んできた理念的目標を、共に意識することで活動の必然性が高まり、あるいは新しい方法論が生まれることもあるでしょう。
そこで次回は、私が携わった雑誌作りの経験と重ねながら、道徳的キャリア教育の問題について具体的に述べてまいります。
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