西鋭夫のアメリカ通信8「平壌宣言」
西 鋭夫
スタンフォード大学フーヴァー研究所 小川忠洋フェロー
モラロジー研究所 特任教授
2002(平成14)年9月17日、日本の首相として初めて北朝鮮を訪問した小泉首相は「日本人拉致八人死亡」を知りながら金正日(キムジョンイル)と3時間何を話したのだろう。「日朝平壌宣言」が発表されたが、空しさが響く。平壌宣言には「拉致問題」が入っていない。
拉致家族会は、日本政府が総力を挙げて人質奪回をしていないと判断したのか、日本政府に「力」がないと見たのか、米国に直訴した。さらに、ジュネーヴで開かれていた国連人権委員会で拉致の非情を訴えた。この委員会で「北朝鮮非難決議」(2003年4月16日) が賛成28ヵ国、反対10ヵ国(日本からODAの金を貰っているアルジェリア・中国・キューバ・リビア・マレーシア・ロシア・スーダン・シリア・アラブ共和国・ベトナム・ジンバブエ)、棄権14ヵ国、で採択された。
この決議に強制力はないが、日本人拉致が世界の注目を集めたことに意義がある。近隣国ロシアと中国は反対した。両国は、国連人権委員会で絶えず非難決議案の対象になっている国である。韓国は意図的に欠席した(『産経新聞』2003年4月27日付)。
「平壌宣言」の中で、北朝鮮はテポドン発射を中止すると約束したが、すでに発射を数回行い平壤宣言の虚しさを証明した。北朝鮮を無視しているような態度を示している米国の注意を引くために、「北朝鮮は危ないのだぞ」と宣伝をしているのだ。そのために日本が使われている。さらに平壤宣言の中で北朝鮮の核兵器について、北朝鮮が国際的合意を尊重しながら解決に努力すると書いてある。小泉首相は米政府から「北朝鮮は核爆弾をすでに2〜3発保有している」と教えられていたにもかかわらず、この押しの弱さである。
「平壌宣言」からすでに十七年も経っており、何も解決していない。それどころか、若い金正恩(キムジョンウン)に引き継がれた北朝鮮は、原水爆を製造し、米大陸へ届くほどの性能を持つ弾道ミサイルを開発した。日本海や福島沖へ予行演習でミサイルを撃ち込んでいる。
2003年4月23日から25日にかけて、北朝鮮と米国と中国が北京で北朝鮮の核について話し合っている時、北朝鮮の代表が米代表に「核爆弾を持っている」と発言した。
動転したのは米政府ではなく、日本政府だ。日本政府は「本当か」と信じられない。
「拉致問題は解決した」とうそぶくテロ国家が「核兵器を持っている」と言ったら、その真偽を確かめる手段も方法も持っていない日本で最初にすることは「防衛」である。ただの脅しであってくれれば良いと願望に頼っている時間はない。
西鋭夫公式サイトPRIDE and HISTORY
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