水野 次郎

水野次郎 – 高まる「探究活動」への期待

道徳的・探究的キャリア教育を考える②

水野次郎

『こどもちゃれんじ』初代編集長

キャリアコンサルタント

モラロジー研究所特任教授

 

●「探究」は、最も今日的な教育課題

 今の学校現場、とくに高校では「探究」という言葉が教育の重要なキーワードになっています。たとえば2019年度より「総合的な探究の時間」という科目が導入されました。さらに2022年度に導入される新学習指導要領では、理系科目で「理数探究基礎」「理数探究」。文系では「日本史探究」「世界史探究」「地理探究」「古典探究」といった科目の新設も決定しています。なぜ今、「探究」という言葉が前景化してきたのでしょうか。そして教育現場で探究活動を進めることは、どのような意義があるのでしょうか。
 もともと「総合的な学習」は、1998年の教育課程審議会で「創意工夫を生かした特色ある教育活動」「教科を超えた横断的な学習」として提言され、始まりました。以来20年、ここに「探究」という言葉が冠せられた背景の一つに、2015年の学習基本調査があると言われています。端的には「調べたことを整理し、発表する一連の探究学習をしている学校の生徒は学力が高い、という有意差が明確に表れた」のです(文部科学省『総合的な学習の時間・中学校』2016)。教科書に依らない自由度の高い授業は、学校による取り組み具合いに濃淡があり、教育環境の違いがもたらす差異として、極めて注目すべき結果と言えるでしょう。
 こうした裏付けに基づく新学習指導要領の「探究」という言葉の多用に、文部科学省の意志が見て取れます。つまり「記憶偏重の学習から、生徒の主体性を引き出す学びに舵を切るべし」と。これまで高校現場では「総合学習」の時間に模擬試験を実施したり、受験対策の補習などに代替されていることが指摘されていました。本来の趣旨に添わないというわけです。高校にすれば、大学入試が旧来の学力選抜を維持しているので、抜き差しならない面はあるのでしょうが、変化の激しい時代にはそぐわない現実もあります。
 ただ「探究活動」を学校で進めるにあたり「学力が伸びるから」という近視眼的な目的を設定するのでは、本来的な意義とは離れるとも言えるでしょう。その教育活動が児童生徒の成長にとって、あるいは集団の活力向上において、必要欠くべからざるとの確信が教育者になければ、望ましい成果は期待できません。そこで大きな示唆を与えてくれるのが、1970年代に子どもたちの哲学を提唱したアメリカ・コロンビア大学の哲学教師、マシュー・リップマンを中心とした教育運動です。

 

●探究活動のルーツはマシュー・リップマン『探求の共同体』

 マシュー・リップマンは、P4C(philosophy for children)といわれる教育活動で、子どもたちの哲学を推進しました。もともと彼は、スチューデントパワーが吹き荒れた1960年代のアメリカの学生運動に直面し、暴力ではなく議論を通して物事を解決していくこと、その過程で、批判的な思考力の育成が不可欠であると考え、子ども哲学の普及に努めました。モントクレア州立大学に「子どものための哲学推進研究所」を設立し、そこで実践した活動内容は『探求の共同体』(玉川大学出版部2014)という著書にまとめられています。「探求の共同体」という概念は、コロンビア大学の哲学教授として50年務めたジョン・デューイの仕事に由来するものであり、プラグマティズム(実用主義・実際主義)の代表的な思想家であるデューイは、西欧の観念論と一線を画し、子どもの経験を成長に再構築していく方法を理論づけていきました。ピアジェ(スイスの心理学者)の発達段階説に照らすと年齢はやや早いのですが、初等教育の初期段階に哲学的な探究を通した推論や、批判的な思考を身につけさせる試みは効果が実証され、アメリカのみならず世界各国で目が向けられています。
 日本国内では『探求の共同体』の訳者である立教大学の河野哲也教授が、自身の著作や「こども哲学 おとな哲学アーダコーダ」というNPO活動を通して普及してきました。さらに「こどものための哲学」(河野教授監修)という人形劇番組が、NHKのEテレで放映されています。こうして日本でも、幅広い世代に対して哲学が浸透していくことで、探究活動に対する関心と期待がより高まるに違いありません。いずれ社会的自立を目指した「キャリア教育」と結びつき、発達段階に見合った今日的なプログラムの開発、そして、子どもたちの活動をより有意義にするファシリテーションのスキルが、教育する側に求められていくことでしょう。そこで具体的な探究活動の展開について、道徳教育の考え方も交えながら、次回以降に実践例など示してまいります。

 

 

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