水野次郎 – 現代に対応するキャリア教育を
道徳的・探究的キャリア教育を考える①
水野次郎
『こどもちゃれんじ』初代編集長
キャリアコンサルタント
モラロジー研究所特任教授
●企業、学校勤務を経てキャリアコンサルタントへ
私は2009年から9年間にわたり、千葉県の公立中学、高校の校長を務めました。もともと、私は民間企業の福武書店(現ベネッセコーポレーション)で社会人生活を滑り出し、24年間の企業勤務と5年間の自営業を経て、学校へ奉職した経緯があります。一般的な教員としての歩みではなかったことから、私の学校経営の方法論も、自分なりに工夫をしました。その一つが「生徒一人ひとりに目を向けた個別支援」です。実は校長の職務規定には、生徒に対する個別の指導は含まれていません。「学校の最高責任者として、学校経営方針を定め、所属職員のマネジメントから教育課程の編成、校内人事などの管理運営」というのが一般的な役割とされています。もちろん問題が起きた時の対処は校長の役割ですが、生徒及び保護者に対する個別の対応は有事に限られると言えるでしょう。
一方で定められた職務の遂行とは別に、教育畑ではない私自身の体験と学びを、少しでも生徒の成長支援に還元できないだろうか。それこそが、民間人校長として携わることの意味ではないだろうか。そう考え、思いを発信しているうちに生徒個々、あるいは教師個々との交流が始まりました。
私の勤務校は、初任の高校に4年間、中学に転じて2年間、そして再び高校に戻って3年間です。この間、一貫して校長室で生徒個別の進路支援を行い、最後の年には40数名が訪れるようになっていました。生徒が読書と対話を通して自己理解を深め、社会への問題意識を高めること。その過程で、学ぶ意欲と行動目標を定めるための、内面の形成を促したのです。中には短期間で劇的な変容を見せる生徒も表れ、高校生世代の柔軟な吸収力に感心させられました。
そうした若者の瑞々しい変わりようを目の当たりにしては、私自身も将来設計の見直しを図らずにいられません。定年退職後は若者のキャリア支援をライフワークとしたいと考え、学校勤務最後の年に国家資格「キャリアコンサルタント」を取得いたしました。そして今、「道徳的・探究的キャリア教育」という考え方を提唱し、学校現場の先生方や保護者、児童生徒への啓発活動を行っています。
●入り口は「365日ブログ」と、事業開発経験の発信
生徒に対する個別支援にあたり、私は大きく2つ、コミュニケーションのきっかけを作っていました。1つは「校長室だより」というブログで、こちらは土日も含めて毎日の更新。もう1つは全校対象や学年集会などで、進路意識の高揚を働きかける講話です。ブログの目的は主に次の6点でしたでしょうか。
➀賞賛すべき生徒、卒業生などの活動成果を顕在化する
②教師、事務員、学校技能員などによる教育支援活動を伝える
③保護者に学校の方針と教育内容を理解していただく
④中学生などに対する学校の広報力を高める
⑤生徒を啓発する推薦図書の紹介など、重要な教育情報を伝える
⑥自分自身が生徒と教師を知る
ブログは校長勤務最終年には累積ページビューが400万件を超えました。読者は生徒、保護者、教員と、近隣の中学生や教育関係者です。何もしなければ生まれなかったコミュニケーションが大きな数字になったことに、継続することの意義を改めて感じます。
全体講話では、私自身が積んできた企業時代の体験を、できるだけ具体的に語りました。私は前職で、幼児雑誌<こどもちゃれんじ>の創刊時編集長を拝命し、10年間にわたり同事業に携わった経験があります。生徒はちょうど私が担当していた時に幼児期を迎えていた世代で、「しまじろう」を知らない人はいません。身近な話題でもあり、興味を持って聞いてくれました。こうしたきっかけで始めた生徒へのキャリア支援の過程で、現在の教育における今日的課題を考えた時、表題の「道徳的・探究的キャリア教育」に至ったのです。従来の学校現場は、ともすれば合理的、打算的なキャリア教育に流れがちだったことは否めません。事実、私自身がそうした教育を受けました。しかし若者を取り巻く社会構造や、時代のスピードが大きく変化した今、キャリア教育も見直されて然るべきでしょう。そこでこれから数回に分けて、「道徳的・探究的キャリア教育」の考え方と実践内容をご紹介させていただきます。学校や家庭など、子どもたちのキャリアを考えるうえで、議論の材料になれば幸いです。
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