山岡鉄秀 – 道徳二元論のすすめ6 – 新型コロナウィルス騒動で浮かび上がる現代日本の道徳
山岡鉄秀
モラロジー研究所 研究センター研究員
●危機における対照的な動き
一般論として、道徳の基準は国によって違います。もちろん、エッセンスの部分は世界共通のはずだ、という考え方もあります。しかし、そういう思い込みは極めて危険であるという話をこれまでしてきました。
さて、いよいよ国内での流行が懸念される新型コロナウィルスですが、一連の動きを見ていて、日本は不思議な国だなあ、と思いました。海外暮らしが長かった私の目から見ると、日本政府がやっていることはとても不道徳に見えてしまうのです。
今回の件で、日本政府とオーストラリア政府の動きは対照的でした。オーストラリア政府はチャーター機で救出した自国民を、インド洋の絶海の孤島「クリスマス島」に隔離し、中国全土からの入国を禁止し、留学生のビザも予告なしでキャンセルしました。その結果、10万人以上の中国人留学生が入国できなくなり、オーストラリア経済には大打撃となりましたが、自国民の生命の安全を最優先しました。
一方、日本政府はチャーター機を飛ばしたものの、隔離施設を用意しておらず、検査を拒否したふたりを自宅に帰らせるという失態まで起きました。(このふたりが取った行動は多くの日本国民の目に不道徳に映りました)不思議なのは、武漢のある湖北省と、少し遅れて浙江省からの入国を禁止しましたが、それ以外の場所からの入国を止めようとしないことです。感染は中国全土に広がってしまったわけですから、そのふたつの地域だけを止めても意味がないはずで、国民からも多くの批判の声があがりましたが、なぜか全く動こうとしません。
経済的損失を恐れてのことかと思いましたが、どうやら別の本当の理由があるようでした。政府関係者によると、習近平国家主席の国賓来日を控えて中国側から「大ごとにしないで欲しい」との要請があり、そのことが、対策が後手に回った要因だと報道されたのです。(時事通信2月19日)
中国の要請に善意で応えること、これは道徳的に正しいことでしょうか? 応じている政治家たちは正しいと思っているのかもしれません。
しかし、私の観点からしたら、これは非常に不道徳な行為です。何しろ、自国民の生命と安全を後回しにして、外国に気を使っているのです。オーストラリアだったらこれだけで政権が倒れる可能性があります。日本人は本当に優しい、平和ボケした民族です。
そうこうしているうちに、東京都知事が都の備蓄である防護服約12万着を中国に送ってしまいました。もちろん、都民の血税で都民の為に購入され、備蓄されていたものです。まるで人道的支援を行ったと言わんばかりの顔ですが、俯瞰的に見れば、これも恐ろしく不道徳な行為です。これから日本が感染の脅威に襲われるかもしれないのに! しかし、これでも東京都民は知事を引きずり降ろそうとはしません。
●自国民の安全を最優先に
この原稿を書いている2月25日、日本政府は「これから1、2週間が分かれ道。クラスター(感染者の集合体)を増やさないようにすることが極めて大切」と公表しました。
言っていることは、要するに国民に活動を自粛して欲しいということで、国民が自助努力するしかありません。その一方で、未だに開かれた中国からの入国がそのクラスターを形成するという矛盾を省みようともしません。この時点でオーストラリアなら倒閣運動が起きてもおかしくありません。あまりにも無責任で頼りない政府だからです。
自国民の命を二の次にしてでも中国に忖度する日本政府。都民のための貴重な備蓄を議会の承諾もなく中国へ送ってしまった東京都。
そんな日本の姿を中国はどう見たでしょうか?
なんと、共産党の意向を反映する中国メディアは次のように報じたのです。
環球時報(人民日報系)2月24、25日付社説
「(日本は)国を挙げた動員による対応を検討すべき」
「湖北省は完全な封鎖状態であり、状況が深刻な数か国(日本、韓国など)は、対外的に感染拡大させるリスクが中国よりはるかに大きくなった」
「日韓などの措置は不足でかつ行動が遅い」
チャイナ・デーリー(中国政府系英字紙)25日付社説
「日韓当局の対策はほとんどが後手で信念を欠いている」
どうでしょう?自国で未知のウィルスのアウトブレイクを起こしておいて、一所懸命支援してあげたらこのように見下される始末です。
完全に日本政府を馬鹿にしています。ひどい不道徳だと思いませんか?
日本政府と中国政府、どちらがより不道徳でしょう?
私に言わせれば、自国民の安全を最優先に動かない政府も不道徳そのものなのです。
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