西鋭夫のアメリカ通信5 神と悪魔の宗教戦争
西 鋭夫
スタンフォード大学フーヴァー研究所 小川忠洋フェロー
モラロジー研究所 特任教授
●先制攻撃が正当化される米国、読み間違えた北朝鮮
米政府は、北朝鮮の核保有を緊急重大事件と受け止めている。ブッシュ大統領は「イラク、北朝鮮、イランは悪の枢軸である」と世界に向けて警告し、これら悪の三ヵ国が自ら改善するか、さもなければ武力を使ってでも「国」を変えさせるという決断を表明した。米国は、すでにイラクを潰した。残っているのは、イランと北朝鮮。
「悪の枢軸」の「悪・Evil」は日本語の「悪い」ではなく、キリスト教でいう「神」に敵対する「悪魔」の意味だ。「魂」そのものが救いがたい極悪なのである。「悪の伝染病が世界中に拡散する前に、数多くの犠牲者を出す前に殺さなければならない」という発想だ。それ故、米国民の頭の中で「先制攻撃」が正当化される。2003年3月19日の夜に開戦された第二次湾岸・イラク戦争は、米国の「先制攻撃」だ。「宣戦布告」なぞなかった。それなのに、アメリカでは日本の「真珠湾攻撃」は、騙し討ちだと今でも信じ込まれている。
金正恩の父親・金正日総書記は、米政府の口実を封じるために日本を使った。日本人拉致を素直に白状すれば、日本国民が許してくれると読み間違えた。小泉首相は北朝鮮が凶暴な国と知っていたが、実際に目の前でテロ国家の独裁者が「拉致」を認めたので、言葉を失ったまま帰ってきた。
激怒したのは日本国民だ。「国交正常化交渉中止」と暴動寸前の精神状態である。日本政府は、この「交渉中止」を外交の武器として国交正常化に使えばよいのだが、そこまで勇気のある政治家は出てこず、この絶好の機会をみすみす見逃してしまった。
「日本カード」を失った北朝鮮は、さらに好戦的な姿勢をとり、テポドンを威嚇発射したり、核兵器を多量に製造する暴挙に出て、米国の注意を引くことに懸命である。北朝鮮は努力をしなくても、米政府に睨まれている。
●米国が進みゆく道とは
イラクの次は、北朝鮮。北朝鮮の次は、イラン。
1979年11月、イランの首都テヘランでイスラム原理教徒の革命軍が米大使館を占領し、52人を人質に取り、444日間、監禁拷問した。
イランは米国民の強い恨みを買い、米国の「正義の報復」の的にされている国だ。イランは核保有国であり、北朝鮮から購入した弾道ミサイルを持っている。
米政府は敵国が持っているかもしれない「大量破壊兵器」を口実に戦争をしているが、世界史上で初めて原子爆弾を使ったのは米国であるという歴史的な事実を忘れているかのようだ。もちろん、忘れていない。口に出せないのだ。
歴代の大統領は、「ヒロシマ・ナガサキ」は「戦争を早く終わらせるために使用した」「米将兵の戦死を避けるために使わねばならなかった」「原爆で戦争に勝った」と説明してきた。私もアメリカ帝國でこの説明を何度も聞いた。聞かされた。
同じ理由で、追いつめられたと思い込んだ北朝鮮が核テポドンを「自衛」の先制攻撃として撃つかもしれない。イランも、インドも、パキスタンも、イスラエルも、使うかもしれない。米国内のマスコミで頻繁に行われている大量破壊兵器についての討論で、「ヒロシマ・ナガサキ」は出てこない。これは、米国の盲点。
強さ・力だけを信じている巨大帝國は一度躓<つまず>くと、巨岩が坂道を転がり落ちるかのように止まることができない。米国は「ヴェトナム戦争」から何を教訓として学び取ったのか。
西鋭夫公式サイトPRIDE and HISTORY
http://www.prideandhistory.jp/
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