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言論人連載コーナー

八木秀次 – 民法は家族道徳を背景としている

法と道徳③

八木秀次

麗澤大学教授

 

●いくつかの「婚姻障害」

 結婚は当事者同士が合意したとしても認められないケースがある。これを一般に「婚姻障害」と言う。先ずは年齢。令和4年(2022)4月からは男女ともに18歳以上となるが、現在は、男18歳、女16歳にならなければ結婚できない。その年齢にならなければ結婚できないというわけだ。民法は「男は、十八歳に、女は、十六歳にならなければ、婚姻をすることができない」(731条)と規定している。

 

 次に性別。結婚は「子供を産み・育てる」ための制度として構築されている。そのため男女の間のものとされ、同性同士は結婚できない。同性では子供が生まれないからだ。民法は「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」(750条)と規定するなど、夫と妻、すなわち男女の間柄を想定している。

 

 そして、近親婚。親子間や兄弟姉妹間、祖父母と孫との間、おじと姪との間、おばと甥との間では結婚できない。民法は「直系血族又は三親等内の傍系血族の間では、婚姻をすることができない」(734条)と規定する。4親等離れた間柄である「いとこ」同士は結婚できる。近親婚が禁止されるのはなぜか。そこには血縁が近い関係で子供を儲けると、劣性遺伝子による遺伝子疾患が表面化しやすいという「優生学」上の理由があるとされる。

 

 では、次のケースはどうか。民法は「直系姻族の間では、婚姻をすることができない。第七百二十八条又は第八百十七条の九の規定により姻族関係が終了した後も、同様とする」(735条)と規定する。姻族とは配偶者の親族のことだ。直系姻族とは、夫から見れば、妻の実母と祖母、妻から見れば、夫の実父と祖父のことだ。その間柄では結婚できない。もちろん、民法は「配偶者のある者は、重ねて婚姻をすることができない」(732条)と重婚を禁止し、一夫一婦制を採用している。婚姻継続中であれば、直系姻族の間では当然、結婚できない。

 

●迷惑をかけていなくても許されない

 問題は、離婚や死別によって姻族関係が終了した後も結婚できないと規定していることだ。妻は夫と離婚後、夫の実父とは結婚できない。夫も離婚後、妻の実母とは結婚できない。その理由は何か。ここには「優生学」上の配慮は関係ない。そもそも血がつながっていないからだ。J・S・ミルが『自由論』で展開した「他者加害原理」、かみ砕いて言えば、誰にも迷惑を掛けない行為については公権力はその自由に介入してはならないということだが、このケースも当事者同士が合意し、納得していれば、「誰にも迷惑を掛けていない」。それなのに、民法はこのような、かつて直系姻族の関係にあった者同士の結婚を禁じている。

 

 似たようなケースだが、民法は「養子若しくはその配偶者又は養子の直系卑属若しくはその配偶者と養親又はその直系尊属との間では、第七百二十九条の規定により親族関係が終了した後でも、婚姻をすることができない」(736条)と規定する。養子とは実の子供ではないが、養子縁組よって法律上は子供と扱う存在のこと、養親は養子の法律上の親のことだ。養子とその配偶者、またその子供とその配偶者は、養親やその親と結婚できないとしている。さらには養子縁組を解消した後も結婚できないとしている。ここでも「優生学」上の配慮は関係なく、当事者同士が合意し、納得していれば、「誰にも迷惑を掛けていない」。それにも関わらず、民法はそのような間柄の結婚を禁止している。なぜなのか。

 

●民法の規定の背景にあるもの

 直系姻族間や養親子間の婚姻が、法律上の関係を解消した後も禁止されるのは、かつて一度でも義理の親子関係にあった者同士は、その法律上の関係が解消された後も結婚してはならないという家族倫理や家族道徳に基づいていると説明せざるを得ない。簡単に言えば、そのような義理の親子関係にあった者同士の結婚は「気持ち悪い」という感覚に裏打ちされている。親子間の性行為を「気持ち悪い」とする感覚が、義理の親子関係にも広がったものと解釈せざるを得ないのだ。また、義理の親子関係にあった者同士の結婚を認めると家族秩序が壊れるという意味もある。

 

 かつて「性の自己決定論」者はミルの「他者加害原理」を用いて「誰もが『いつ、どこで、誰と』セックスするかは、自分の判断で決める」(宮台真司他著『〈性の自己決定〉原論』紀伊国屋書店、1998年、山本直英執筆部分)といわゆる「援助交際」を肯定した。「いつ誰とどんな状況で性交するかはまったくその人の生き方であって、人から指示されたり規制されることのない主体性にかかっている」(山本直英著『性教育ノススメ――“下半身症候群”からの脱出』大月書店、1994年)とし、「男と女とは、たとえ結婚に結びつかなくても、婚前でも、婚外でも、たとえ親子の不倫でも、師弟でも、まさに階級や身分や制度を超えて愛し合うことが可能なのである」(同上)と近親相姦まで肯定したが、民法は明確に禁止している。

 

 民法の規定の背景にはそれらの行為をよしとしない家族倫理や家族道徳が控えている。

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