八木秀次 – 女性・女系天皇の容認、女性宮家の創設は皇統の断絶を意味する
八木秀次
麗澤大学教授
「皇位の安定的継承」と称して、女性天皇や女性宮家を実現しようという動きがある。参院選で公約に掲げる政党もあった。世論調査でも七割から八割の国民が賛成している。だが、女性天皇や女性宮家の実現が何をもたらすのかを理解している人は少ない。
五月十一、十二日に実施した産経FNNの世論調査でも、女性天皇と女系天皇の違いでさえ「よく理解している」人は一割にとどまっている。「あまり理解していない」「全く理解していない」は、半数を超えている。あやふやな理解や認識で、わが国の根幹に関わる皇位継承の原理を変えてしまうことは、苦労を重ねて国柄を守ってきた祖先を冒涜<ぼうとく>することでもある。
●皇位継承の原理
①皇統は、初代以来一貫して男系での継承をいう。男系とは、父方だけを 遡[さかのぼ]れば皇室と血の繋がりがあることだ。今上天皇に至る百二十六代の天皇は、例外なく初代以来の男系の血を継承している。
②女性天皇は過去に八人十代(お二方は二度践祚[せんそ])存在したが、すべて「男系女子」。
③女性天皇は、次期天皇(男系男子)が幼少などの理由で中継ぎ役を果たした。
④ 女性天皇のお子さまが天皇になった例はない。過去の女性天皇は未亡人か生涯独身。
⑤過去の皇統断絶の危機には、別の男系の血筋(世襲親王家を含む)から天皇となっている。現在の皇室の直系のご祖先である江戸時代の光格[こうかく]天皇は先代の後桃園[ごももぞの]天皇と七親等離れた(曽祖父の孫に当たる)宮家(閑院宮家)のご出身。そのような例は第二十五代武烈[ぶれつ]天皇から第二十六代継体[けいたい]天皇へ(十親等の隔たり)、第四十八代称徳[しょうとく]天皇から第四十九代光仁[こうにん]天皇へ(九親等の隔たり)の他、南北朝合一時の第九十九代後亀山[ごかめやま]天皇から第百代後小松[ごこまつ]天皇へ(十二親等の隔たり)、第百一代称光[しょうこう]天皇から第百二代後花園[ごはなぞの]天皇へ(八親等の隔たり)の例がある。
⑥皇位は直系継承ではなく、あくまで男系で継承されている。
●天皇の正統性
今日、女性天皇にご結婚の断念を強いるわけにはいかず、そのお子さまが即位されれば、歴史上一例もない女系天皇となり、その時点で男系での皇統は断絶する。その際、天皇の正統性は初代からの男系継承にあることから、女系天皇には天皇としての正統性があるかが問われる。女性宮家は、内親王、女王を当主とする「宮家」を創設することだが、民間人の夫との間のお子さまが皇族となれば、歴史上初の女系の皇族となる。即位されれば、女系天皇だ。園部逸夫[そのべ いつお]元最高裁判事も「女性宮家は将来の女系天皇につながる可能性があるのは明らか」(『週刊朝日』平成二十三年十二月三十日号)と指摘している。
現在の皇室の範囲だけを見れば、皇位継承権のある男系男子は少なく、その心配から女性天皇や女性宮家が構想されている。しかし、皇室の範囲を現在の皇族に限定する必要はない。昭和二十二年十月までは、もう一系統の皇族が存在していた。北朝第三代崇光[すこう]天皇の皇子栄仁[よしひと]親王を始祖とする伏見宮家の系統で、現在の皇室とは男系で六百年隔たるが、代々皇族であり続けた世襲親王家だ。いわば「もう一つの皇統」だが、GHQの圧力で臣籍降下を余儀なくされた。十一の旧宮家のことだ。その男系男子孫が皇籍に復帰する措置が取られれば、男系継承は十分に続けられる。悠仁[ひさひと]親王殿下もいらっしゃる。何も焦る必要はない。
【※『モラロジー研究所所報』令和元年9月号「令和のオピニオン」①より】