高橋 史朗

髙橋史朗 2 – 台湾で制定された世界初の「家庭教育法」とモラロジー

髙橋史朗

モラロジー研究所教授

麗澤大学大学院特任教授

 

※画像を押すと、それぞれの記事にジャンプします

 

●中華文化復興運動総会との「道徳教育交流に関する協定書」を結ぶ

 2003年に世界初の「家庭教育法」が台湾で制定され、翌年には韓国で「健康家庭基本法」が制定された。日本でも8県6市で「家庭教育支援条例」が制定され、自民党の「家庭教育支援法案」が野党との調整が進めば議員提案される予定と報じられている。
 台湾で家庭教育法が制定される契機となったのは、1997年に李登輝総統が会長を務める中華文化復興運動総会(以下、文化総会)と日本のモラロジー研究所が「道徳教育交流に関する協定書」を結んだことにあった。
 その中心的役割を果たされたのは台湾の白永傳先生(モラロジー研究所参与、故人)。実業家として成功した人であるとともに、道徳教育に献身された人でもある。先生の回想録『報恩一途』によれば、
 台湾全域23県市に家庭教育講師団を組織してモラロジーに基づく道徳教育を行う企画をモラロジー研究所に説明して了承を得た。その上で、文化総会の黄石城秘書長にモラロジー研究所についての内容を詳しく説明し、1994年6月3日には同研究所(千葉県)の伝統祭に案内。そこでの1万人以上の大集会をはじめ、さまざまな研究・教育施設や創立者が読んだ3万冊の書籍が保存される書庫等を目の当たりにし、黄秘書長は大いに感激した。
 さらに、文化総会の編集正副組長をモラロジー研究所で開催されていた国際道徳研究発表会に派遣して、世界のコモンモラリティへの発展趨勢を体得させるとともに、中華民国教育部(日本の文部科学省に当たる)主管と講師団長を初めとする39人の幹部も研究所へと案内、道徳教育に真摯に取り組む姿勢に一同大いに感動した、とのことである。

 

●モラロジーのテキストが主要教科書に

 これらが契機となって、『改訂 モラロジー概説』と『心づかいの指針』が中国語に訳され(『まなびとぴあ』1998年2月1日付参照)、主要教科書として家庭教育講師を養成し、小中学校の校長を中心とする家庭教育講師団が、台湾の各県市の幼稚園、小学校、中学校の保護者を対象に、家庭で如何に子供の道徳性を育むかの家庭教育の重要性と具体的方策を説き、次世代の青少年の品性向上のための基礎教育の必要性を訴えた。
「道徳教育は家庭から」を主軸とした家庭教育講師養成セミナーや中華文化復興運動総会には、小中学校の現職及び退職校長らが参加し、モラロジー研究所の穂苅満雄先生らが講師要請を受けて出講し、1年間で延べ1万名以上が受講した。
「親教育講座」を重視し、各県市の家庭教育センターと幼児教育センターが連携し、「親子のコミュニケーション法を提供し、親子の情感の増進」を目的とする同講座が公・私立幼稚園などで実施され、親子夏合宿や親子読書活動、保護者会を通じた親教育に力を入れた。
 2003年に制定された家庭教育法の実施に伴い、家庭教育講師団が中華民国教育部に編入され、各県市の「家庭教育センター」として、正式な行政系統の一環となり、「当初、白氏が一個人で提起した運動が遂に国に認められ、国家的次元で『家庭生活の場で親は子女の品性・人格を培うべし』との政策の方向づけをうながした」(李登輝序文)のである。

 

●私たちが受け継ぐべき「不滅の業績」

 同回想録には、廣池幹堂理事長も次のような序文を寄せられている。

 

<中華文化復興運動総会会長の李登輝総統(当時)が、国民道徳の振興を図る『心霊改革』を提唱されておられ、白先生は総会に対して『人間の正しい道の実践』を指導する『心霊改革推行委員会』の設置を提案されました。
道徳教育の普及を『生涯最後の奉公』と決断された先生は、『心霊改革推行委員会』の主任委員を引き受けられ、実に6年の月日を費やして小中学校の校長経験者などに働きかけ、台湾の各県市に家庭教育講師団を組織することで道徳教育を強力に推進されました。
 1997年には、先生のご尽力により中華文化復興運動総会とモラロジー研究所において『道徳教育に関する協定』が結ばれ、道徳教育に関する情報の相互交換やモラロジーのテキストの中国語訳によって、道徳教育はなお一層推進されました。
2003年には、家庭教育法が施行されたのに合わせて、家庭教育講師団は文化総会が統括することとなり、その経費も教育部が負担して、台湾の道徳教育は着実に、そして永続的に進められることになったのです。
白先生がただ一人から始められた教育活動が国を挙げて行われるものへと発展していったことは一大壮挙と言えましょう。大変なご苦労の末に事業を発展されたことと合わせて不滅の業績です。>

 

 全県市に「家庭教育センター」が設置され、多くの大学に「家族研究開発センター」等が設置され、教育部家庭教育ウェブサイトに、学校家庭教育資料、家庭教育テキスト、教師用指導書、親教育、婚姻教育(親になるための準備教育)などに関する資料を提供。政府として「家庭教育専門職」を養成(昨年4月現在、2316名)。
 2013年の台南地震により翌年家庭教育法を改正し、第2条の教育活動に「親を亡くした家庭に対する教育」を追加した。ちなみに、第1条(目的)は「国民の心身の発達促進」、第4条は「家庭教育の研究開発」、第7条は「家庭教育専門職の資格・雇用・訓練方法」、第9条は「家庭教育支援ボランティア」、第12条は「高校の家庭教育コース」、第15条は「中高生の問題行動に対する親の責任」、第17条は「家庭教育のための資金の拡大」など、極めて具体的である。2007年にモラロジー研究所との協定は終了し、「永傳道徳研究会」へと移行したが、この「不滅の業績」を私たちはしっかりと受け継ぐ必要があろう。

Related Article

Category

  • 言論人コーナー
  • 西岡 力
  • 髙橋 史朗
  • 西 鋭夫
  • 八木 秀次
  • 山岡 鉄秀
  • 菅野 倖信
  • 水野 次郎
  • 新田 均
  • 川上 和久
  • 生き方・人間関係
  • 職場・仕事
  • 学校・学習
  • 家庭・家族
  • 自然・環境
  • エッセイ
  • 社会貢献

ページトップへ