西鋭夫のアメリカ通信 2 – トランプ革命
西 鋭夫
スタンフォード大学フーヴァー研究所 小川忠洋フェロー
モラロジー研究所 特任教授
●減税ボーナスに大喝采を送る米国民
首都ワシントンのエリートたちと心情の糸がぶち切れている米国民は、我慢の限界に達していた。失業者は溢れ、国内のインフラは壊れ、富の格差は天文学的に広がり、人種差別の悪習は執拗に蔓延(はびこ)っており、そこへ南米から不法移民が年間100万人の単位で押し寄せてくる。
オバマ大統領に絶大な期待をしていた国民が「裏切られた」と焦燥感に駆られていた時、トランプが現れた。トランプ改革に願をかけるかのように、国民の期待が大きな潮の流れとなり、流れに抵抗したヒラリーは足下をすくわれた。いや、ヒラリーは、その流れにも気付かないまま、一夜で押し流された。
全米に世論調査会社が17社あり、全社が揃(そろ)って「ヒラリー圧勝」と断言していた。その後、潰れた会社もあるようだ。
ビジネスマンのトランプ大統領は、商売繁盛のために邪魔になる規則を次々に廃止した。ペン一本で法人税を39%から21%に下げた。企業内で「トランプ減税ボーナスの数千ドル」が配られる。米国民は歓声をあげ大喝采。
負けた民主党は、ボーナスを「はした金」と吐き捨てた。怒りに震えたのは、低賃金で生活をしている国民だ。伝統的に労働者の味方だと思われていた民主党は、負けた理由を自ら露呈した。国民の生活苦を全く理解していない。
●陥れる人物がいるのか? 外交能力の劣化か?
日本に目を向けると、永田町のエリートたち(政治家・官僚)と富豪の大手企業は、律儀な国民が苦しい家計をやりくりしながら、懸命に働いていることに感謝もせず、景気回復の火種を消す細かい規則を毎日のように発令する。
案の定、日本は雁字搦(がんじがら)めの規則大国だ。「日本の官僚は世界一優秀」といわれるが、誰が言っているのか。最優秀なのに、日本経済が停滞したまますでに30年。世界中から「お金持ちの日本」とおだてられ、そのお返しに札束を献金させられる。日本で税金が上がり続けるのは、国民のためにではない。「Japan First」のためではない。
安倍晋三総理は、ヒラリーとトランプが天下分け目の死闘を繰り広げていた最中、国連総会へ出席された後、ニューヨークでヒラリーと歓談。互いに微笑み、握手。その映像が激戦中の全米でマスコミに流れた。総理はトランプとは会わない。トランプは、「安倍はヒラリー当選と確信してヒラリー応援団に加わった」と見た。関ヶ原の決戦中に、安倍総理は豊臣側についた。
トランプを侮辱したツケは、高い。トランプへ参勤交代をしなければならなかった安倍総理の心情は、複雑だったろう。総理に大恥をかかせるようなご進言をしたのは、誰だ。「ヒラリーの勝ち」と総理に何度もささやき、ヒラリーと対談をお膳立てしたのは、総理を陥(おとしい)れたスパイか。それとも、日本の外交能力はここまで劣化していたのか。(つづく)