家庭・家族

広中忠昭 – かけがえのない命について考える ~命のつながりを意識した授業づくり~

 

麗澤大学教職センター講師 広中 忠昭

 

1.最重点としての「生命尊重」

 道徳科のスタートから数ケ月が立ち、試行錯誤しながらも各地で確実な実践が見られるようになった。初年度の大きな目標の一つである量的確保については明るい見通しが持てているように感じる。

 その一方、授業づくりについては、多くの不安を抱えたまま授業を進めている様子もうかがえる。とりわけ各教科書会社が最重点と定めている「生命尊重」について、先生方は苦労されている。

 そこで、本稿では小学六年生の「生命尊重」に関する実践を紹介したい。

 

2.生命の側面

 生命尊重については低学年では「生きることのすばらしさを知る」、中学年では「生命の尊さを知る」、そして高学年では「生命が多くの生命のつながりの中にあるかけがえのないものであることを理解する」と発展的に指導するようになっている。

 高学年では「家族や仲間との命のつながり」、「誕生の喜びや死の悲しみ」、「限りある命を懸命に生きる姿」などが描かれている。最重点項目ということで各社、年間2〜3回扱うことが多く、授業ごとのねらいを明確にすることが求められる。

 

3.授業の実際

教材名「命の重さはみな同じ」出典 東京書籍 六年

○教材観

 この教材は、動物保護施設に捨てられた犬(ラブ)の命を、必死に救おうとした主人公と獣医、そしてラブの姿に感動した人々とのやり取りを通して、どの命も重さは同じで、かけがえのないものであることを実感的に捉えると共に、命を守り抜こうとした人間の美しさに触れ、自らもまた、限りある命を大切にしていこうとする心情を育てることに適したものである。

○展開の工夫

①ラブに対する甲斐さんと獣医さんの気持ちを分けて比べる。

甲斐さん

○ひどいことをする。

○普通なら安楽死しかないが…

○何とか、助けたい。

獣医さん

○助けてあげたいが…。

○足を切断しなければならない。

○助かったとしても苦しいだけ。

○安楽死させるしかない…。

 

②こういう状況でありながら、甲斐さんが命をつなごうとするわけを「ラブの命のつながり」から考える。(双方向のつながりに着目)

 

 このように、ラブと周りの人との命のつながりを丁寧に考えていく中で、子供たちは甲斐さんの思いを次のように考えた。

●簡単に死を与えてはいけない。

●少しでも長く生きる中でいいこともあるのではないか。

●頑張りは、他の人に勇気を与えることもある。

●命は一つしかない大切なもの。

●動物も人も、みんな同じ大事な命。

●どんなに傷ついていても命は命。ものには命がある。

 

③自分の命のつながりについて図に表してみる。

 教材を用いて考えた「命のつながり」を自分に当てはめて図に表すようにした。すると、子供たちは実に多くのつながりを書き出すことができた。

家族(父、母、兄、弟、姉、妹祖父母、いとこ)

先生(学校、病院、地域の人PTA、助産師、旗振りの人)友達、ペット、神様

 この活動の中で、子供の中には自分に向いた矢印ばかりで、自分からの矢印が少ないことに気づいた子もいた。

 

④この時間に学んだかけがえのない命について一人一人考える。(終末)

 このように、前半では甲斐さんの命に対する思いにせまり、後半では自分自身の命のつながりについて考える活動を取り入れたことで子供たちは次のように学びを振り返っていた。

●自分の命は大切にしなければならないと思った。

●自分が生きているのはいろいろな人とのつながりがあったから。これからは、自分から恩返しをしていきたい。

●私たちはいろいろな方々に支えてもらって生きているということがよく分かった。

●生きている者はすべてがかけがえのない命。どんなに無理と思うことでも、やらないよりやったほうがいい。頑張って生きていきたい。

●今日、たくさんの人たちから自分が支えられていることが分かり、恩返しがしたいと思った。

●どんなに大変でも生きていれば楽しいこともあるので、命を大切にして生きていこうと思った。

●生きることの楽しさを学んだ。

●生きているといろいろなことがあると思う。私を産んでくれたのはお母さんのおかげ。だから、人生を大事にする。

 このように、一人一人が「命のつながり」を意識し、自分の生き方について深く見つめることができた。「感謝」という価値に関わる記述も多く見られたが、命のつながりを考えれば、そのかけがえのなさの理解と必然的に結びつくものであると思う。

 

4.問題解決的な学習のプロセスの整理

 道徳科で行う問題解決的な学習の指導上の留意点には、

●明確なテーマ設定のもと、多面的・多角的な思考を促す。

●「問い」が設定されているか。

●「問い」の設定を可能にする教材が選択されているか。

●議論し、探求するプロセスが重視されているか。

 といった検討や準備がなされなければ、単なる「話し合い」の時間になりかねない。

 そこで、本授業を構想するにあたって、次のプロセスを考え、取り入れてみた。

①教科書に示された主題名を読み、授業の方向性を考える。

②指導内容全体からテーマとなる「大きな問い」を示す。

③主題名と大きな問いを手がかりに教材を読み、道徳的問題について共通理解する。

④教材中の問題を解決するための「小さな問い」を設定する。

⑤「問い」の解決(小 大)に協働して取り組む。

⑥課題解決に向け、多面的・多角的に考え、各自が納得する答えを見つけるよう努める。

⑦納得した答え(道徳的価値の理解)を基に、自分の在り方や生き方について考える。

⑧ ⑦を仲間と共有する。

 道徳科で主体的・対話的で、深い学びを実現するにはこのように「問い」を大切にした協働的な学びが大切であると考えている。

 

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