西岡 力 – 道徳と研究1 慰安婦問題の渦中で考えたこと
西岡力
モラロジー研究所教授
麗澤大学客員教授
●対等と思えばこそ
今月から、韓国・北朝鮮問題を研究しつつ、拉致被害者救出運動という実践活動をしてきた私が、日頃、何を考えてきたのか、道徳、価値という側面から何回か書いていきたい。
結論から先に書くと、研究も実践も道徳抜きには成り立たない。私は、人間はこの世に生まれてきた以上、自分の命を犠牲にしても実現すべき価値、善が存在するという立場に立っている。その信念にもとづき、これまでの研究と実践を行ってきた。言い換えるとその信念があるからこそ、これまで研究と実践を行うことができた。
私は昭和52年(1977)に初めて韓国に留学して以来、40年以上、韓国・北朝鮮研究を続けてきた。韓国人に会うと「私は親韓派ではなく愛韓派だ」と自己紹介している。ただし、相手を尊敬しているならば、紛争が起きたら率直にこちら側の言い分を主張して論争するはずだ。
相手を対等と思っていない場合に、先に謝ってつかみガネを渡しその場を取り繕う。話が通じない相手だと考えているから、言うべきことを言わない、言えないのだ。私はそのような関係を対等ではない、差別、蔑視の関係と考えている。1980年代以降の日韓関係は、まさにそうだった。
しかし、道徳がある、絶対的善があるという立場に立つなら、そのようなその場しのぎの関係は許してはならないものだ。
●私たちの覚悟
平成4年(1992)はじめ、朝日新聞がウソの証言を前面に押し出して、日本国が戦前、数十万人の朝鮮女性を国家総動員法に基づく国策として連行して性奴隷として戦場で酷使した、という慰安婦キャンペーンを始めた。
私は、名乗り出た元慰安婦の女性が、朝日が書いたような強制連行ではなく貧困の結果、親にキーセンとして売られて慰安婦になったという事実を知り、それを月刊雑誌に書いた。そのとき雑誌編集長から「西岡さんと私が人非人と言われることを覚悟してでもこのことを世に知らせよう」と言われたことを覚えている。
先に謝ることは簡単だった。宮沢喜一首相は平成5年1月、韓国大統領に8回謝罪した。しかし、そのとき我が国政府は慰安婦強制連行があったかなかったかについて、調査をしていなかった。調べもしないで先に謝った。これは相手を対等と見ていない態度だ。差別、蔑視だった。
慰安婦問題に関する私の言論は韓国にも伝わり、「極右」「歴史修正主義者」「差別主義者」などと言うレッテルを貼られ、ソウルでの国際会議に反対派が押しかけ私の予定されていた発表が中止になるという事態もあった。しかし、多数の韓国人の友人らは、「慰安婦に関する考え方には同意ができないが、西岡教授は韓国の貴重な友人だ」として、真摯な討論の伴う友情を維持してきた。
それから20年以上経った平成26年(2014)、朝日新聞は慰安婦問題に関する誤報を認めて謝罪した。今年7月には、李栄薫・ソウル大学前教授らが「慰安婦は軍が管理した公娼であって性奴隷ではない」という研究成果を、『反日種族主義』という単行本にして出版した。同書は8月中旬現在で6万部売れるベストセラーになっている。(つづく)