まずはDCAPサイクルの実践を
武蔵野大学教育学部教授 貝塚 茂樹
小学校で道徳科が開始され半年。全国の約645万の児童は、教科書を使用して週1回の授業を受けている。来年度からは、約333万人の中学生に向けて道徳科の授業が開始される。これだけでも、道徳教育が大きな改革の中にあることは確かである。
つい先日、東京都豊島区の小学校の研究授業を見る機会があった。様々な試行錯誤の中でも全校的な取組がなされ、授業後の研修会も活発であった。何より先生方の授業に対する真摯な姿勢には、新鮮さと清々しさを感じた。
これまで十分な授業実践がなかった道徳授業においては、試行錯誤の実践が繰り返されること自体に意義がある。なぜなら、試行錯誤の実践を積み重ねることでしか、新しく着実な成果と展望は生み出されないからである。
しかし、こうした積極的な実践の一方で、少し気になる点もある。それは、ただ教科書をこなすだけの「安全運転」に終始した授業が散見されることである。「安全運転」の授業は、試行錯誤の授業とは基本的に異質である。「安全運転」の授業は、安易に「型(How to)」を求め、評価についても抽象的な「模範文例」に頼ることで、いわゆる「コピペ」が日常化する。こうした「安全運転」の授業が、道徳科の目指す「考え、議論する道徳」の対極にあることはいうまでもない。
道徳科を実効性あるものとするためには、
計画(Plan)→実施(Do)→評価(Check)→改善(Act)
というPDCAサイクルが確立される必要がある。ただし、道徳科では、実施(Do)から始めてはどうだろう。とにかく、積極的に授業をやってみる。そして、そこで見つけ出された課題を次の授業改善に繋げていく。長い目で見れば、こうした授業改善の繰り返しが道徳授業の質を向上させることになるはずである。
本来的なPDCAサイクルを実現するためにも、まずはDCAPサイクルを念頭に置きたい。教育では「失敗体験」から学ぶものも多い。失敗を怖れず、積極的で果敢に挑戦する道徳授業を期待したい。
<『モラロジー道徳教育』NO. 152 平成30年9月1日発行より>