応援団長
私が中学二年で受け持ったAくんは、私立中学校から転校してきて何かと友達とトラブルを起こす生徒であった。しかし、彼は、野球部では顧問の言うことはよく聞き、真面目に練習に励んだ。
三年生の時である。家庭訪問で、彼は勉強部屋を見せてくれた。部屋には大きな姿見があり、ここで、野球のバッティングフォームを研究していたのだ。その時に「先生、今年の体育祭では、応援団長として立候補したいのです。その時にはよろしくお願いします」という言葉を聞いた。
暫くして応援団長を決める時期になった。赤組の応援団長として適するのかどうかを、三学年の先生方で話合いをした。反対の意見もあったが、先生方、生徒の多くの賛同を得て、応援団長になった。彼は応援団長になったその日から毎日、早朝、放課後の練習に励み、帰宅すると自分であの姿見で型を考え、人が変わったように前向きに取り組み、努力した。また、学年の先生方がビックリするほど生活態度もよくなった。
しかし、体育祭の三週間前に組体操で足を捻挫してしまった。それでも松葉杖をついて毎日登校した。応援団長として、日々の体育祭の練習、応援団の練習にも参加した。その時の彼の忍耐力と根性には頭が下がるほどであった。そんな彼の姿を見て、学年のリーダー達も協力的になり、最高学年として体育祭をリードするようになった。
当日は、痛めた足も治り、騎馬戦では大将となり勝利した上、応援団長として応援賞を取ることもできた。
その後、後期学級委員になり、卒業に向けた活動で、リーダーとして大いに活躍した。
<『モラロジー道徳教育』NO. 152 平成30年9月1日発行より>