気づきにくい「我」
物理学者で随筆家の寺田寅彦(1878~1935)は、次のように記しています。
「狂ったピアノのように狂っている世道人心を調律する偉大な調律師は現われてくれないものであろうか。(中略)調律師の職業の一つの特徴として、それが尊い職業であるゆえんは、その仕事の上に少しの『我』を持ち出さない事である。音と音とは元来調和すべき自然の法則をもっている、調律師はただそれが調和するところまで手を貸して導くに過ぎない」(『調律師』)
人間関係の不協和音の原因は「私が私が」という「我」にあると言えます。自分の思いや都合にこだわって周囲に我慢や努力を強いれば当然、不協和音が生じるでしょう。一生懸命になればなるほど視野が狭まり、周囲の状況や心情を思いやれなくなることも多いのです。熱心になったときほど「我」に注意したいものです。
『ニューモラル』498号,『366日』9月8日