わずかな時間を惜しむあまりに
今日の企業においては、時間当たりの生産性を少しでも高めようとして、成果主義の名のもとに社員間の競争が奨励されることがあります。もちろん、社員同士がお互いに切磋琢磨することは、組織を活性化し、企業間競争に生き残るためには不可欠と言えますが、「同僚を押しのけてでも、自分の仕事を早く進めたい」ということになれば、職場の雰囲気はギスギスしてくるでしょう。
しかし、中国の古典には「終身路(みち)を譲るも百歩を枉(ま)げず」という言葉があります。一生涯、人に道を譲り続けたとしても、そのために余分に歩いた距離の合計は百歩にもならないということです。
私たちは今、わずかな時間を惜しむあまりに「お先にどうぞ」という思いやりの心を失ってはいないでしょうか。
『ニューモラル』456号,『366日』4月23日