遺産を社会に役立てたい そんなときに知っておきたいこと
「遺産」という言葉には、一般的な財産と異なる重みがあります。相続する立場となった場合は、故人が残してくれた大切な財産を悔いのないように使いたいものです。今回は、遺産を社会に役立てたいと考えたときに、知っておきたい知識について紹介します。
遺産の役割って何?

はじめに、遺産とはどのようなもので、どのような役割があるのかを考えてみましょう。遺産とは、亡くなった方が生涯をかけて築いた財産です。相続や遺贈により、故人の遺志を次の世代に伝える役割があります。たとえ莫大な財産があっても、この世から去るときには持っていくことができません。
受け取る側は、元の所有者への感謝の念とともに、そうした意味について思いをはせることが大切です。中には、遺産相続後に、「社会の役に立てたい」という思いを抱く方もいるでしょう。それは、遺産の存在を理解している表れともいえるかもしれません。
もちろん財産を残した方の中には、子孫の生活の充実を望んでいる方が多いでしょう。遺産のすべてを寄付するのではなく、その一部を寄付することは有効な社会貢献である、と考えてみてはいかがでしょうか?
近年は、生涯を独身で過ごす方も多くなりました。相続人がおらず、遺言書がない場合、故人の財産は国庫に納められることになります。こうした背景を受けて、遺産を社会貢献のために寄付したいと考える人が増えているのが現状です。
中には、「付き合いのある親族もいないので、生前に全額を社会に役立てるために寄付したい」と考える人も増えています。2021年に国境なき医師団日本が行った「弁護士の遺贈に関する意識調査」によると、約20.5%の弁護士が遺贈に関心を示していることが分かりました。
遺産の寄付の仕方
遺産の寄付には、2つの方法があります。
①遺言書を作成して遺産を寄付する方法
財産の所有者が生前に遺言書を作成して、遺産の寄付先を決めておく方法です。法定相続人以外に、遺産の一部や全部を譲渡することで、「遺贈」と呼ばれます。この場合、財産を持つ人自身が自由に譲る相手を決めることが可能です。そのため、本人の希望する使い道に合った寄付先を選択できます。ただし、相続人がいる場合は、トラブルに発展しないためにも、遺留分を考えて記載することが必要です。
譲渡する相手については、特に法律で規定されることはありません。自身の意思のみで寄付先を選定し、規模についても自由に決められます。寄付先が法人の場合には相続税は発生しません。相続税は、相続人が個人の場合のみに課せられます(ただし、認定された公益法人を除き、寄付を受けた法人側には法人税が課税されます)。
また、相続人がいる場合、故人が寄付すると決めた財産については、非課税です。
②相続人に寄付を託す
遺産を相続した人が、故人の遺志に従って寄付を行う方法です。相続人に自身の遺産を渡す点については、通常の相続と変わりません。相続後、故人に代わって寄付をする形となりますが、一度相続した財産は、相続税が発生します。そのため、相続人は相続税納付後に財産の一部を寄付する流れです。
ただし、一定の条件を満たせば寄付分を非課税にすることができます。相続税が非課税になる条件については、別記事の「相続した財産を寄付するときに知っておきたいこと」で詳しく解説しています。あわせてぜひご覧ください。
このように、遺産を寄付するにもそれぞれのやり方があります。おすすめは、遺言書で寄付を行う方法です。故人の遺志が確実に尊重される点でも、トラブルが起きにくい方法といえます。ただし、遺言書による寄付の場合にも注意点があるので押さえておきましょう。
例えば、寄付は現金で行うのが基本で、その他不動産や有価証券は取り扱いに検討が必要です。現金や預金、貸付金といったものであれば問題ありません。しかし不動産や株式等の場合は、亡くなったときの時価で譲渡したとみなされるため、譲渡所得税が課税されます。相続人は、亡くなった方の所得税準確定申告を亡くなったことを知った日の翌日から4ヵ月以内に行うことが必要です。
その場合、所得に対して発生した税金を法定相続分から相続人が負担しなければなりません。いずれにしても、現金以外の寄付の場合では、多くの手続きを求められるケースがあるため、注意が必要です。
遺産は未来に遺志を伝えるための財産
さまざまな大災害や社会的な困難をたくさん経験した多くの人が、「自分の財産や相続した遺産を誰かのために役立てたい」という意識を強くしています。富は、一人の人間が握っていればそこに留まるだけですが、寄付をすれば社会に対して幅広い有益性が期待できるでしょう。
「自ら遺産の先行きを決める」「相続した遺産を寄付する」といったどちらの場合も、関連の制度を理解し、できるかぎり手続き等の負担を少なくできるように努めることが大切です。