企業が社会貢献をする理由とは?
近年、多くの企業のサイトで、「社会貢献」というキーワードが見られるようになってきました。本来、利益を追求する組織の企業が、社会貢献を重視する理由とは何でしょうか。そこには、現代社会における企業の存在意義が大きく関わっています。今回は、企業と社会貢献との関係について解説していきます。
時代とともに変わる企業の社会貢献

最初に、現代の企業における社会貢献の定義について確認しておきましょう。元来、営利的な組織である企業にとっての社会貢献とは、“その行動による直接の利益を得ることを目的とせずに、社会的課題の解決のために自主的に取り組む活動”です。しかし、時代の流れにより社会貢献の内容も多様化しています。
日本が近代国家への道を歩み始めた江戸後期から明治時代の文明開化時においては、西欧諸国に追いつくことを目的とし、人々の生活を便利にする手段や物品の創造が企業に課せられた使命でした。第二次世界大戦で敗戦国となり国力が低下した戦後、さらに経済大国として復活を遂げた高度成長期には、より多くの法人税の納税と雇用機会の創出が求められました。
当時、企業が果たす社会貢献といえば、いわゆる「経済的価値」の占める割合が大きかったといえるでしょう。社会が成熟期を迎えたバブル期から現在に至る期間には、モノによる社会的なニーズを満たすことが難しくなってきたことが背景となり、企業に対してもコトによる社会貢献が求められるようになりました。
市場のグローバル化や、世界企業と呼ばれる巨大企業の台頭が進む中で、自然環境が地球規模で脅かされています。これは人類共通の課題です。企業には、利益を追求するだけではなく、社会に還元する義務があります。なぜなら、社会の安定的な存続がなければ、企業自体も生き残ってはいけなくなるからです。
こうした考え方が浸透した現代において、企業側には人類の永続的な発展(サスティナビリティ)に対しての貢献を求められています。
社会貢献がもたらす企業へのメリット

日本の大企業を統括する日本経済団体連合会の前身の一つである経団連が1996年に作成した「企業行動憲章〔序文〕」には、以下のような記述があります。
“企業は、単に製品やサービスの提供という本業に徹すればよい、という考え方を脱し、社会貢献を豊かな市民社会形成への参画の手掛かりとして経営の中に組み込み、積極的に取り組む必要がある”
上記で述べられている企業の姿勢は、現代の消費者にとって、企業の商品やサービスを選択する際の基準の一つとなっているのではないでしょうか。かつて、消費者は企業側が発信する情報を広告やマスメディアを通じて一方的に受け取るだけでした。
しかし、インターネットが社会インフラ化した時代では、企業側に情報開示が求められるようになっています。また、企業が隠ぺいしたいような情報も露出する機会も増加傾向にあります。企業の取り組み姿勢や、活動に関する情報が伝わるにつれて、利益のみを追求する企業ではなく、社会貢献を「経営の中に組み込む企業」を支持する消費者が着実に増えています。
・企業価値の向上
モノがあふれ、インターネットを通じて全世界から簡単に手に入れられる現代では、どれほど優れた商品やサービスを開発しても、それだけで高い企業価値を維持し続けるのが難しい時代です。先にも触れたように、消費者が求めるのは「モノからコト」「物質から意識(体験)」へと変わってきています。
企業がモノだけにとどまらない社会貢献行動を示すことは、企業価値の向上に大きく貢献すると考えられます。
・顧客・ファンへのアピール
「類似の商品やサービスを選ぶのであれば、社会貢献につながるものを」と、考える消費者は少なくありません。そのため、企業が消費行動を通じて社会貢献を行うことで、顧客や自社製品のファンへの大きなアピールとなります。社会貢献に積極的な企業というイメージが定着すればするほど、選ばれる可能性が広がるでしょう。
・投資家へのアピール(資金集め)
近年、投資家から注目されている「ESG投資」は、投資対象企業の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)といった要素を考慮した投資です。社会や環境に目を向け、将来的なリスクマネジメントを視野にしている企業には、大きな成長性が見込まれるため、魅力的な投資対象となります。
・人材登用時のアピール
企業の社会貢献活動は、優秀な人材確保の機会も広げることが期待できます。近年の就職活動では、応募先企業を選択する条件に、社会貢献度の高さを挙げる人が多いといいます。「入社後も誇りを持って働き続けられる」「自分の仕事が社会に役立つ意識が持てる」といった企業を求める人材は少なくありません。
・顧客の声を聴く機会となる
社会貢献活動は、自社の内部だけで実施されるものではありません。広く社会に対して接触し、そのときどきの課題解決を目指しています。社会貢献活動を通じて、社外とのコンタクトの機会が増え、顧客の声を聴く機会にもなるでしょう。本業だけでは得られなかった気付きがもたらされ、事業への相乗効果も期待されます。
このように、企業が社会貢献を行うメリットはさまざまです。社会貢献に費用をかけることは、巡り巡って自社の事業に対するベネフィットが得られるといえるでしょう。SDGsが社会や消費者の大きな関心事になっていることも、企業の社会貢献に大きな影響を及ぼしています。特に、若い世代ではSDGsへの関心が高く、10代では7割以上の認知率です。
このことからも企業の将来を見据える中で、社会貢献に対するあり方の重要性がわかるでしょう。
社会貢献がもたらす企業へのメリット
企業が行う社会貢献活動には、資金力なども大規模なものが多く見られます。特に、認知率の高い企業の社会貢献の例を紹介します。
・ホンダ(本田技研工業)
2019年度におけるホンダの社会貢献支出額は、95.7億円です。東洋経済新報社の「CSR企業白書2021」では、大企業の中で第1位となっています。活動内容は、地球環境保全や児童育成支援、文化・スポーツ振興、交通安全、災害支援、海外困難地域の支援などさまざまです。
・サントリー
消費者が思い浮かべる社会貢献企業でも上位にランクするサントリー。その社会貢献活動の原点は、事業利益をステークホルダーや社会全体と分け合う、創業者・鳥井信治郎の「利益三分主義」にあります。現在展開している社会貢献活動は、芸術・文化・学術・スポーツ、社会福祉、次世代育成、地域貢献と幅広い分野にわたり、創業者の思いを絶やさず受け継いでいる様子がうかがえるでしょう。
上記の例でも見られるように、大企業では潤沢な資金を活かした社会貢献活動を実施しているため、どうしても大企業中心といった印象を持っている人も少なくありません。しかし、中堅・中小企業も会社周辺の清掃や地域のイベントへの協力など、さまざまな社会貢献に取り組んでいます。特に、地元を基盤とする中小企業にとっては、豊かな地域社会こそが自社の経営の源泉です。
暮らしの中の課題を住民と一緒に解決していくことで、持続可能な社会の実現につながります。企業の社会貢献活動と比較してしまうと、「個人ではあまり役立たないのではないか」と思い込んでしまいがちです。しかし、社会貢献をしている企業や団体では、活動に協力するボランティアや個人からの寄付を受け付けているケースが多く、小さな力でも社会に役立てることができます。
寄付を募る団体では、活動実績や寄付金の使用目的などをしっかりと公開しており、自分の目指す社会の実現の一役を果たせるでしょう。企業や団体の活動内容をしっかりと調べて寄付(金銭的、モノ、ボランティアを含めた)行為を実行することで、自分一人だけでは実現しきれなかった社会貢献に参加することができます。
社会貢献をしたいと考えているのであれば、寄付行為や消費活動でも容易に参加可能です。日常においても意識的に、企業や団体などの社会貢献活動についての情報に触れられるよう、アンテナを張っておくといいでしょう。
企業の社会貢献活動に関心を持とう
現代においては、企業も社会の一員として行動していくことが大切です。多くの企業は、その点をよく理解し、自社なりの取り組みを行っています。どのような企業がどんな活動をしているのか、大企業だけではなく周囲にも目を向けていくことが大切です。
企業の社会貢献を自身の消費行動の判断基準としたり、寄付による支援を行ったりすることで、私たちも間接的・直接的に社会貢献に参加していくことができます。