「教育の指導理念を確立する
「よき教師を得る
「よき教育環境を整える」(モラロジー研究所第2代所長 廣池千英)
という考えのもと、 昭和38年に教育者研究会は始まり、今年で55回目を迎えます。
平成30年度から「特別の教科 道徳」が小学校で本格実施されており、また31年には中学校においても道徳の授業が始まります。当研究会はどのような授業を展開したらよいのかという課題に対し、解決の糸口を見いだし、新たな道徳教育の充実に寄与することをめざして、文部科学省の後援のもと、各地の教育委員会と連携して全国86会場で開催(30年6月27日~31年2月3日)。知識と道徳が調和した「知徳一体」の教育のあり方を探求する場として、教員をはじめ多くの教育関係者が参加しています。
以下に、一部の会場の様子を紹介いたします。
東京都葛飾会場(葛飾区)では8月25日(土)、「思いやりの心を育む道徳教育の創造」を会場テーマに開催。45名が参加しました。
開会式の後、田邊秀夫・教育者講師が「教師の人間力を高める」と題して講義。科学の発展と今後の社会の推移を視野に、教育にテクノロジーがいかに生かされていくのか、人の心はどのように変化するのかなどに触れた後、時代の動きの中で教師はどうあるべきかについて話を展開しました。田邊講師は、「“生かされて生きること”“生命のつながり”に気づくことで感謝や思いやりの心が生まれる」と解説し、自らの体験を例に、道徳教育におけるヒントを示しました。
続いて行われたパネルディスカッションでは、玉置克也・葛飾区立堀切小学校校長をコーディネータに、森田淳史・葛飾区教育委員会指導主事、大畑道博・葛飾区小学校PTA連合会長、大塚重彬・葛飾区立西小菅小学校主任教諭の3名をパネラーとして、小学校で道徳が教科化されてからどのような変化があったか、また道徳教育の今後の課題や期待などを話題に挙げながら、それぞれの立場から意見を述べました。
最後に、浅見哲也・文部科学省教科調査官が「多様な指導の工夫と評価」と題して講演。浅見講師は、「道徳とは、子供の心に“アンパンマンの心”(≒正しい心、道徳的な心)を育てること。しかし、子供は成長とともにアンパンマンを卒業する。そのとき、教師は子供に対して、どのように自分の心と向き合わせるようにすればよいのか」を具体的に説明した後、授業の進め方や評価の仕方について重点的に解説。教材については、教材を教えるのではなく、教材で子供たちに生き方を考えさせていくことが重要であるとし、評価については、子供たちが教材を知的に理解したかどうかではなく、学ぶ姿勢(学習状況)と成長の過程にポイントを置くべきと述べました。最後に「子供たちに向き合い、自由に話し合ってほしい」と会場の現職教員にエールを送り、講義を締めくくりました。
45名が参加。葛飾会場
パネルディスカッション
講師と参加者の間で質疑応答が交わされました
茨城県県南会場(取手市)では8月10日(金)、「たくましく生きる力を育てる道徳授業」を会場テーマとして開催。現職の教師を中心に210名が参加しました。
まず加藤忠男・教育者講師が「『共に生きる』道徳の授業」と題して講演。利己心を減らし、他者の幸せために生きる心を育てたい。それが「たくましい心」につながると指摘。そのために、子供たちの現在の見方・考え方(「旧概念」)に対して、いろいろな視点を示していき、納得と広がりのある心(「新概念」)を作り上げていきたい。また、アクティブリスニング(傾聴・受容・共感の姿勢を持つこと)を心がけ、相手の話す言葉の意味をしっかりと捉える力、かつ自分の考えを持てる力を養いたい、と語られました。
続いて、4つのグループに分かれて、分科会を開催し、計9人の教育者が道徳教育への取り組み、課題、教師としてのあり方などを発表。質疑応答も活発に行われました。
最後に、江島顕一・麗澤大学准教授が「『考え議論する道徳』の実現に向けて」と題して講演。「道徳」が教科化された背景から、道徳授業の進め方のポイントなどを解説。麗澤大学で行っている授業「道徳科学」(必修)のようすも紹介しながら、学生たちに寄り添うこと、教師自らが熱意を持ってあたることが重要だと締めくくりました。
参加者からは「小学校で道徳が教科化されたが、先進的な取り組みや、考え方が共有できて、たいへん意義のある会だった」「講師の話を自分の周りの先生方にも伝えていきたい」などの声をいただきました。
分科会での発表(茨城県県南会場・取手市)
分科会での懇談
千葉県柏会場(柏市)では8月3日(金)、「育てよう子供の心 高めよう教師の心」を会場テーマとして開催。現職の教師を中心に、約100名が参加しました。
まず小齋平洋・柏市立大津ケ丘第一小学校教諭が実践発表として登壇。「うちら“ネコの手”ボランティア」 (『明日をめざして』東京書籍)を題材に、児童の授業前と授業後の変容が提示され、教師の発問・姿勢の重要性が示されました。
続いて、富岡栄・麗澤大学大学院准教授が「道徳科授業の効果的なあり方と評価」と題して講義を行いました。「卒業文集最後の二行」(『わたしたちの道徳』文部科学省)を用いて展開し、グループディスカッションでは「いじめをなくすにはどうしたらよいか」をテーマに懇談。参加者からは「子供には自己肯定感を持たせる必要性と相手の身になって捉えられる共感性が重要性である」といった意見が挙げられました。
最後に、田邊秀夫・モラロジー研究所教育者講師が「教育者の人間力を高める」と題して講義。自身の体験談を交えながら、人間力を高める心構え・ポイントを提示、「①教師は授業で教師になる ②精進を怠るな ③肯定的発想 ④苦しいときは「魂を磨く」ための試練 ⑤感性を強くすること ⑥子供の人生に関わっている自覚と謙虚さを持つこと」と述べました。
千葉県柏会場(柏市)
参加者同士の意見交換
奈良県県南会場(広陵町)では7月28日(土)、「道徳教育の新たな充実をめざして」を会場テーマに開催。125名(うち現職教員・教育関係者46名)が参加しました。
最初に、宮下和大・麗澤大学准教授が「大学での道徳教育-感謝についての授業から」と題して講演。講演は「モラロジーと麗澤大学」「麗澤大学での『道徳科学』授業実践」「感謝についての授業より」の3部で構成され、特に麗澤大学では、テキストを自ら作成し、改版を加えていること、また、感謝の授業について、色々なデータを使用し展開されている内容が紹介されました。
続いて、木村優希・大和郡山市立片桐西小学校教諭と椿本剛也・葛城市立新庄中学校校長がそれぞれ実践発表を行ないました。
木村先生は、道徳性を養う指導とは、実践の指導(各教科、外国語活動、日常の生徒指導)と内面的資質の育成(道徳科)の両輪で進めることを重視。道徳科の授業においては、子供たちの問題意識が反映されるように、親切、思いやり、相互理解、寛容、規則の尊重、集団生活の充実、友情、信頼に配慮しながら、みんなの意見が出せるような雰囲気づくりをして、答えは一つではないことを前提としていると述べられました。
椿本校長は、学校行事や地域の祭りなどを通じて、地元葛城市をもっと知ろうという活動を行って発表会を行った後、ふるさとの発展のためにできることを問いかける授業。また、4つの項目(自分自身、人との関わり、集団や社会との関わり、生命や自然・崇高なものとの関わり)に分けて道徳を考えるなど写真等を交えて紹介されました。
最後に、井出 元・麗澤大学大学院学校教育研究科研究科長が「道徳の教科化への期待」と題して特別講演を行ないました。井出講師はまず、教師の資質・能力の向上が重要であることに触れ、江戸時代においては寺子屋での読み・書き・そろばん、明治時代においては修身教育が行わてきた史実に触れ、教科化は歴史的な課題であったと説明。会場の教員・教育関係者に「夢と希望を託すことのできる道徳教育を目指してほしい」と呼びかけ、講演を締めくくりました。
奈良県県南会場(広陵町)