平成29年1月21日(土)、廣池千九郎記念講堂で「国家の基本である歴史認識問題とは何か」と題して、現代朝鮮研究の第一人者で、東京基督教大学教授の西岡力氏(麗澤大学客員教授)による公開教養講話を開催。開催中の生涯学習講座の受講者を含む、約220名が聴講しました。
韓国での慰安婦像の設置、強制連行の是非を問う訴訟……。歴史認識を巡って発生している諸外国との外交問題。西岡氏はまず、その発端について説明します。「始まりは1982年にあります」。日本国内の教科書検定において「日本軍が華北に『侵略』」とあった記述を、文部省(当時)が「進出」と書き改めたという、事実とは異なる報道を各新聞がしたことに原因があると指摘。「この誤報が外交問題に発展し、日本政府が譲歩。中国と韓国に関する記述には配慮する「近隣諸国条項」を策定したことから、他国政府による干渉が始まった」と説明しました。
奇しくもこの年は、西岡氏が在ソウル日本大使館専門調査員として赴任した年。しかし韓国民の間では、日本を糾弾するような風潮はなかったと証言します。「日本が国家として権力を使って慰安婦を連行したといった事実はないことを、戦争を経験した韓国の方々は知っていたからです」。そうした中にあって中国・韓国からの内政干渉が激しさを増した背景には、日本国内にそれを助長するマスメディアや学者、運動家がいたことを強調。「中曽根康弘首相の参拝を機に沸き起こった靖国参拝問題(1985年)、朝日新聞の誤報を機に拡大した慰安婦問題(1991年)……。『歴史認識問題』は誤報のキャッチボールによって拡大し、国連や国際社会は今や、日本を重大な人権侵害を犯した国家だと捉えてしまっている」と指摘しました。
「国が違えば歴史の捉え方が異なるのは当然であり、認識に違いがあること自体が問題ではない」とも述べる西岡氏。「問題は、主権国家の内政に属する自国史への認識に対し、他国政府が干渉し、外交問題化していることにある」と説明。現政権が内政干渉に毅然とした外交姿勢を見せている例を上げ、今後はより組織的に「歴史認識問題」の研究に取り組んでいきたいと結びました。
参加者の声
「今の日本人にとって大切なことを、力強く講話いただいた。歴史を正しく認識することは国を守ること、発展させることにつながると身に染みた」
「正確な情報を入手すること、外交、国際世論……問題の深刻さと難しさを理解した。何が事実で、自分たちは何をするべきなのか、冷静に考える時間を持ちたいと思う」
西岡 力(にしおか つとむ)
昭和31年、東京都生まれ。国際基督教大学卒業。韓国延世大学留学。筑波大学大学院地域研究科修了。57~59年、在ソウル日本大使館専門調査員。現代コリア研究所主任研究員を経て平成14年まで『現代コリア』編集長を務める。9年より北朝鮮拉致被害者家族とともに救出活動を展開している。主な著書に『よくわかる慰安婦問題』(草思社文庫)、『日韓「歴史問題」の真実』、『横田めぐみさんたちを取り戻すのは今しかない』(以上、PHP研究所)、『朝日新聞「日本人への大罪」』(悟空出版)、『なぜニッポンは歴史戦に負け続けるのか』(実業之日本社)などがある。